富士山に見守られて
正 木 ゆう子
大中寺駿河梅花文学賞といえばもちろん梅、そして水仙。12月の選考会のときでさえ、すでにろう梅が咲いていて、お庭はいつもほのかな香りに包まれていました。ですから到着すると荷物を置くや、すぐにお庭に出て、ひとまわり。そうすると、まるで次元の違う国に来たかのように、心が静かになっていきます。次元が違うかのように、ではなく、おそらく次元が違うのです。花というものは、同じ空間にあるようでも、ひとつ天上に近いものなのでしょう。だから、自分の中の天上に近いものが共鳴するのだと思います。
心が落ち着いてからお部屋に上がると、選考委員の方たちの温かい会話が弾んでいます。下山光悦住職はじめ、加島祥造さん、那珂太郎さん、眞鍋呉夫さん、笠原淳さん、高野公彦さん、そして私が入るまではただ一人の女性だった高橋順子さん。こんな錚々たる顔ぶれに出会える場所は他にはちょっとありません。私は得した気分で末席に侍ります。10回を重ねた梅花文学賞の後半の4回だけでしたが、こんな贅沢な時間と空間に参加させていただいたこと、とても幸せでし
た。
また、これらのことがすべて大いなる富士山に見守られた土地での出来事だったことにも感慨を抱きます。国が山河のことだとしたら、富士山は日本の象徴です。社会が大きく動くとき、その山の魂が動かないはずはありません。これからの日本が平和であるよう、そして日本から平和のメッセージが世界に発信できるよう、富士山の魂は目に見えない活動をしているのではないかなと考えます。詩歌がその一環として微力を発揮できるならば、やり甲斐があるというものです。
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