ついにこの日が来た。僕はこの一年ずっと辛い思いに耐え忍び、リベンジする時を待っていた。態度の悪いスタッフにめちゃくちゃな客……。今年も役員になれたからいいようなものの、今でもたまに夢でうなされる。しかし、それも今日で終わり。あの最悪な去年の夏を払拭するために、シミュレートを重ね万全の体制を整えてきたんだ。
今年は大丈夫!もうアイツらは来ないし、あんな客どもがそうそう来てたまるか!
それにしても今年の当番の人遅いな。境内に集合って連絡してあるはずなのに。あ、来た来た。
「どもー、万事屋でーす」
……え、えええええええ?!いやいや、そんなバカな。
「坂田サン?!なんでいるの!今年はお隣のヘドロさんだよね!?」
「あー、店があるから代わりに出てくれって依頼で来ましたー。珍しく大量の注文があったから、そんな金にもならないことやってる暇ないって」
「ヘドロさん、一言もそんなこと言ってませんよ」
「だったら、君たちが店の方をやればいいじゃないか!」
きっとその店は壊滅的被害を受けるに違いないが、そんな事に構ってられるか。二年連続でグダグダだったなんて知られたら、今度こそ役員を降ろされてしまう。それだけは絶対に避けたい!そのためには何としてもコイツらを追い返さなければ!
「えっと、そのヘドロさんを連れてきてくれないかな?こういう町内の役回りを万事屋さんに依頼するのはどうかと思うんだよねー。みんな忙しい中、仕事の合い間を縫って来てもらってるわけだし、ヘドロさんだけ特別扱いするわけにはいかないんだよね」
こういう連中には押すよりも引く!これで言い返せるものなら言い返してみろ!向こうも困ったように顔を見合わせてるし、これはいいんじゃないか?
「連れてきてもいいけど……」
「ヘドロさんって去年の最後に来たお客さんですよ?」
「さ、最後って……」
忌まわしい去年のことなんてあんまり思い出したくないんだが……アレか!あの角生えたごっつい顔したバケ、いや天人の!顔に似合わず花屋をやってる人だとは聞いたけど、そうか、アレがヘドロさんか……。
「で、どーします?俺たちはどっちでもいいんですけど」
「……君たちでお願いします」
この世に神様はいないのでしょうか。
* * *
まあ、こうなったら仕方がない。みんなが楽しみにしている肝試しを止めるわけにはいかないし、ここは僕がなんとかしなければ。幸いかどうかは微妙なところだけど、坂田サンたちも去年よりはやる気があるみたいだし。
「落さんよォ、とりあえずコレでいいよな?」
あぁ、ドラキュラかぁって。
「去年と一緒じゃないか!」
「これでやったじゃん」
「それでグダグダだったんだよね!覚えてる?!そっちのメガネ君も狼男やらなくていいから!そもそも統一感無いとかいったの君たちだし!こんなこともあろうかと、今年はこっちで衣裳用意してあるから着替えくれるかな!」
神楽ちゃんはそのままでいいとして、何とか二人を着替えさせたが、結局リハーサルをやる時間は無くなってしまった。あぁ、先が思いやられる……。ちなみに僕は去年と同じく落ち武者だ。といっても、去年よりもリアルさを求めグレードアップしている。今日はそのお披露目の日でもあったんだけどな……。
* * *
辺りは薄暗くなり、境内にずらりと吊るされた提灯がお客の顔をぼんやりと照らす。櫓の方では盆踊りも始まり、より一層祭りらしさが出てきて、否が応にも気合が入る。開始の時刻になると、木戸番の男がさっそく最初の客が来たことを知らせてくれた。
最初のお客さんは長髪の浪人と白いペンギンのようなお化け。何かちょっと嫌な予感がする……いや、そんなことはない。今年こそは何としても成功させる!ここは坂田サンたちにもびしっ言わなければ!
「お客さん来たからしっかり頼むよ!」
って、あれ?何この雰囲気。
「任せといてくださいよ。小便チビるくらいビビらせてやりますから」
「え、いや、そこまでは」
「よーし、野郎どもいくぞ!」
「「おー!」」
三人はあっという間に配置につき、取り残された僕も慌てて茂みへと隠れた。しかし、さっきまでどうでもいい感じだったのに、何でいきなりやる気になってるの?そういえば、あのお客さんどっかで見たような気もするんだが、どこだったろう?茂みから覗いてみたが、ちっとも思い出せない。あ、あの生き物は意思疎通って出来るんだ……。
「エリザベスは肝試しというのをやったことがあるか?」
『ないです』
「そうか、夏の風物詩にも色々あるが、肝試しもその一つ。暑さを一時忘れさせてくれようぞ」
おぉ!前言撤回。風流というものを分かっている良いお客だ。これは是非楽しんでいってもらわねば。
二人は特に怖がる雰囲気もなく先へと進んでいく。柳の下の井戸。ヒュ〜ドロドロ〜とお約束の音楽が流れ、火の玉が飛ぶ。そして、恨めしそうな表情でお菊さんの格好をした神楽ちゃんが現われた。
「お皿が一枚、お皿が二枚、お皿が三枚……」
「リーダーではないか。そこで何をしている」
オーイ!何してるってお化けに決まってるじゃないか!知り合いでもそこは知らない振りしてくれよ!前言撤回。やっぱりこの客も駄目っぽい!
「何してるネ、ヅラ。雰囲気台無しヨ」
「ん?あぁ、これは俺としたことがしまったな。では、もう一度」
「いや、もう一度とかいいですから!」
「おぉ新八君もいたのか。ということは銀時もいるのだな」
「そりゃいますけど、こんなところで何やってるんですか」
「ここ最近暑い日が続いておるので、エリザベスと涼みに出掛けたら祭りで肝試しをやっていると聞き、それも良かろうと思ってな」
「その割には驚くくらい言葉と行動が一致してませんよね」
「オーイ、何やってんだテメーら」
「だってヅラが驚かないネ」
「何でいんだよお前」
「だからだな」
「アンタらいつまでやってんの!」
僕が割って入らなければ、ここで延々グダグダと話し続けていたんじゃなかろうか。何だよ、もう。まともな人間は僕しかいないのか。はぁ、嘆いていても仕方がない。
「あのー、そちらのお客さん、申し訳ないんですけど出てってもらえますか。次の人も待ってますんで」
「まだ俺は回りきっておらんぞ」
「いや、もうグッダグダでどうしようもないんで」
というか、まだやる気なのかよ。
「だったらヅラ、お前も脅かす側に回ればヨロシ」
「あぁ、それはいいかもね」
「俺もか?ふむ、それは面白そうだ」
「オイオイ、馬鹿入れると面倒臭ぇことになんだろ」
「でも、ヅラならアレが出来るネ」
「あれって……チッ、仕方がねーな。落さんまだ衣裳って余ってたよな?」
「え?確かにあるけど、でもあれは」
「それでちょうどいいからコイツに貸してやってくんねーか」
「いいけど……」
何をやりたいのかは、想像出来る。分かるけど……。
「こっちにあるから来てー!」
いいや、もう考えるの面倒臭い!もう、どうにでもなれ!