hawk migration sizuoka

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静岡県下の杉尾山、平山林道で観察される(秋)のサシバの渡りについて

(2013年7月13日、サシバ、ハチクマ等タカの渡り勉強会in八王子、資料)

「鷹の渡り静岡」  (文責:田島義之、榊原 博)    ※いつも「鷹の渡り静岡」を応援して頂き有難うございます。


1、観察地の概要

私たち「鷹の渡り静岡」のメンバーが選んだ 観察地の「杉尾山」と「平山林道」は富士山の西側、「明星山」からさらに(20km)西の位置で富士川と静岡の安倍川に挟まれた、南アルプスの前衛の山々が南北に連なる安倍山系の山々に囲まれた竜爪山の近くにあります。

平山林道で長年観察を続けてきた渡りのファンが白樺に比べハチクマが少ないことに疑問を抱き、もう少し北の方に観察地点は無いだろうかと話し合い、平山から5km程北の杉尾山展望台で、2007年から観察を始めました。

「杉尾山」:静岡市清水区の興津川上流にある展望台(標高563.4m)です。360度の展望があります。鳥までの距離が遠いため、双眼鏡だけではすべてを見ることが出来ませんが上空を流れるように通過するサシバは一見の価値があります。(およその観察可能範囲:半径約1,5〜5,0km,高さ約300m〜1500m)

「平山林道」:静岡伝統の鷹の渡り観察地点(標高755.0m)です。30年ほど前から観察をしています。長年、静岡の鷹の渡り観察の中心地です。サシバが大量に通過した翌朝、近くで一夜を明かしたサシバが一斉に飛び立つ姿を見ることがあります。

「調査方法」:双眼スコープ、スコープ、双眼鏡

2、2007年〜2012年までの観察のまとめ

「杉尾山」と「平山林道」で観察してきた結果、近年わかってきたことがあります。わかってきたことを報告します。

1、よりハチクマは少し北側を数多く通過している。

2012年のデータでも通過したハチクマは杉尾山539羽、平山185羽でした。かなりの差がありますがハチクマは体も大きく飛翔力もあるので、標高の高い山、安倍山系の標高1000m以上の山々も越えてゆくことが出来ると思います。平山まで南下する個体は少ないように思います。 この5年間で確認できたハチクマの個体は44個体そのうち3割は♂成鳥13羽、2割が♀成鳥8羽、幼鳥が5割で23羽した。

2、より少し北側を通過しているサシバの渡りがあることがわかってきました。

杉尾山で観察を始めて驚いたことに2010〜2012年の間に9月下旬に山梨県との県境を通過する大きなサシバの渡りがあることが分ってきました。杉尾山では二本のスコープを双眼鏡のようにした双眼スコープとスコープで観察をしています。それまでは点にしか見えないような多くの鷹が田代峠付近から出現して青笹の南付近を通過して行く渡りが観察され、種別の確定が遅れましたが2012年には県境付近に観察者が入りサシバの渡りが確かめられました。1時間に1000羽を越す鷹の渡りです。同じような現象が3年ほど観察されています。山梨県の南部を大量の鷹の渡りが通過し静岡県の「杉尾山」の北側に出現する事が分ってきました。北から出現してくる大量の渡りの詳細については、まだまだ分からないことが多く、観察熱心な人たちが次の渡りがどのようになるのか楽しみに考えています。ここ数年、杉尾山のサシバの数が徐々に増えて来たのは観察熱心な方々、観察機材の利用とチャンスに恵まれたのかも知れません。

3、2012年サシバの渡りの時期について

9月下旬は北から徐々に10月初旬は東方向からとサシバが観察地域内に出現してくる方向が移ってきます。

(1)9月24日〜27日 9/24杉尾山では朝7時過ぎから北の方角、山梨との県境付近から39羽のサシバが静岡県側に出現しました。安倍山系は真っ黒な雲に覆われ、その後安倍山系の雲が切れて明るくなった部分を西側に越え飛去する繰り返しでした。このパターンは終日続き、このサシバの出現は16時過ぎまで続き2805羽をカウントしました。薄曇りで風は東寄りの微風〜風力1程度でした。雲の高は1000mh前後で安倍山系は暗く徐々に明るくなりました。翌日は無風で鷹の流れは平山を目指して南下しました。この間、サシバは杉尾山4756羽、平山1406羽、山梨県県境を越えて飛来したサシバの流れは観察地の北を通過して安倍山系の西側に飛去して行きます。南に位置する平山からは見えない場所を通過していきました。例年渡りの初めの大量出現は北を通過しているようです。鷹の渡りネットワークによりますとこの時期、2012年は水戸市と埼玉(天覧山)、青梅市、神奈川(武山)、(権現山)、静岡(明星山)、愛知県(伊良湖)で一つのピークがありました。この間 杉尾山ではハチクマ257羽が観察されています。

(2)9月29日〜10月3日 この間の出現は概ね富士山方向や愛鷹山山系方向の県境の北北東から北東の方角から飛来して竜爪山の北側を南西方向に飛去するパターンが多くみられました。サシバは杉尾山1755羽、平山 1401羽、杉尾と平山は数が近い数字で観察されました。この期間北からの出現はほとんどありません。北北東の富士山方向からの飛来が多く、東に位置する明星山では 172羽が観察されました。どこからやってきたのか不思議な感じがします。 (3)10月4日〜10月13日 この間の出現は観察地から見て富士山見通し南側の東の方角から飛来して平山観察地の方角へ飛去しその後、竜爪山南側から西方向へ向かったパターンが多かったようです。 サシバは杉尾山6474羽、平山 7893羽 この間も両方の観察地で数多く出現しています。この時期になると杉尾より南に位置する、平山の方がサシバのカウントが多くなるように思います。渡りの時期の早いうちは北からの域内への侵入があり、日ごとに侵入が東に移ってゆくように思えます。もちろん例外もありますがここ数年はこの傾向にあります。明星山のピークは10月4日〜13日で1158羽でした。

※グラフは(2007〜現在)までを記載しています

                

4、「杉尾山」2007年〜2012年までの5年間の累計からも昨年と同じ大量出現は3回見られます。

(1)杉尾山ではこの5年間の観察では9月24日〜29日が最初のピークです。北からの出現が観察されるようになってからここ5年の累計は20.000羽近くになりました。どこから飛来してくるのでしょうか? (2)次が10月2日〜6日頃、観察地から北北東の富士山方向から出現し杉尾山の上空を(1000m〜1500m)通過して南西方向の竜爪山方向に飛去することが多くなります。ここ5年間の累計は23000羽近くになります。富士山の北側を渡ってくるサシバ達でしょうか? (3)最後のピークは10月7日〜9日頃、この時期には明星山のある方向、東の方向から出現して杉尾、平山の南を西に飛去することが多くなります。富士山の南側を通過、愛鷹山系を抜けてくるのでしょうか?杉尾山のサシバは秋の渡りの終盤です。

※グラフは(2007〜現在)までを記載しています

5、「杉尾山」2007年〜2012年までの5年間の累計からサシバの渡りの時間帯について

杉尾山では早朝には前日、観察できる範囲の山々に泊ったサシバの出現と11時台過ぎから15時台前半にかけて高度を保って渡る羽数が多く観察されます。もっとも多い時間帯は14時台前後です。 杉尾山の渡りの特徴かと思います。12:30〜15:30分の3時間たらずの間に全体の7割以上のサシバが杉尾山で観察されています。サシバの飛行はその日の天候、風向き温度等にもよりますがどれほどの距離から飛来しているでしょうか。 分析アドバイザーは:楠木憲一氏


※グラフは(2007〜現在)までを記載しています


                                                                 6、平山林道から見たサシバの渡り

平山林道での観察は古く、1980年初頭、その頃すでに、1日に4000羽、のカウントがされています。以来この地は、サシバ大出現の通り道、として、愛されてきました。 2010から2012年の杉尾山における観察から、平山林道から見える大出現のほかに、北側の県境付近で9月25日前後に最初の大出現が起こることがわかり、平山で見てきたサシバ大出現は渡りの中、後半のものであったことが明らかになりました。(これは、杉尾山観察が始まって以来最大の発見です。)  9月中のピークでは 北側の出現がほとんどで、それらが見えにくい平山林道ですが、10月に入ると、竜爪を越えていかんとするサシバが平山定点近くを通ることが多くなるため、観察者はがぜん忙しくなります。そして10月最後のピークあたりになると、布沢川流域→平山定点→竜爪 こういう東方向からの渡りばかりになってしまいます。この流れを杉尾山からは横向きに、平山からは縦にとらえることになります。同じサシバの渡りを見ていても、見え方は全く違ってきます。杉尾と平山の観察比較でもうひとつ特徴的なのは、朝の出現が平山で多いということです。平山の東に位置する布沢川流域に、サシバはねぐら入りすることが多いのです。早朝6時から8時くらいの出現が多いのは、ねぐらしたサシバが翌朝旅立つことを意味しています。大出現の翌日サシバが朝早くに次々に飛び立つ、これを見るのもまた圧巻です。 渡りにおける最後の関所ともいうべき竜爪山の東側に位置する布沢川は、興津川中上流域では最後の南西向き支流です。サシバが渡りの中盤以降ここを通るのもねぐらとして利用するのも、何かわけがありそうです。この場所の地形的な特徴に負うところが大きいと考えます。 カウントという視点からはひとつの役目を終えた定点の感がある平山林道ですが、魅力的なタカ渡り観察地としてこれからも大勢のタカの渡りファンに愛されていくことと思います。

7、これから知りたいこと

どのような条件下で鷹たちの渡りを始めるのでしょうか? サシバ、ハチクマを始めミサゴ、ハヤブサなどの鷹類はどんな条件下で渡りの旅に旅立つのでしょうか? 渡りの鳥達を観察しながら、上手にサーマル(上昇気流)をとらえて上昇し一気に高度を保ってグラィデング(滑空)し渡ってゆくベテランの鳥たち、又そのベテランたちを下から見上げながらベテランの鳥たちに追いつこうと必死に渡って行く飛び方が下手な幼鳥たち、ハチクマの渡りでは成鳥が先を切って上昇気流をとらえ、幼鳥に、俺(?)に付いてこいとばかり上手にサーマル(上昇気流)に乗って高度取り2羽そろって渡りをする姿を見るたび感動します。いったい鳥たちの渡りを始めるのは何がきっかけになるのでしょう?日照時間、最低気温、稲刈りによるカエル、トカゲなどの餌が取りにくく成ること天候など考え始めたら尽きない思いがします。渡りの鳥達を観察しながら考えることがあります。

わかってくればくるほどまた疑問がわいてきます。

いったい静岡を通過するサシバはどこから来て、どこに行くのでしょうか?

静岡を通過するサシバは9月下旬、北の山梨県境から出現して安倍山系を通過し西へ向かってゆく、10月初旬は北東から東、富士山方向から出現して竜爪山付近を通過して南西方向に向かい渡ってゆきます。 静岡よりも東では鷹の渡る場所としては、富士宮市の明星山が有名ですが、2012年は1500羽ほどで、その数はあまりに少ないため、明星山を通過するサシバ以外にも渡る地域があるはずです。また、北の山梨県ではサシバの渡りが今一つはっきりとしていません。この疑問の解明は今後、私たちを始め多くの関係者、調査員の方々の努力と熱意に期待するところです。

※伊良湖を通過していない?

 数年前までは静岡で大量のサシバが確認された数時間後、あるいは翌日に伊良湖でも大量に渡るサシバが確認されましたが、近年はその傾向が見られなくなりました。伊良湖を通過するサシバの数が減少していることを考えると、何処を渡っているのでしょうか?渡りに何か変化が起こっているのでしょうか?

       

※日本野鳥の会 静岡 「野鳥だより」NO.391号2012 2.11  静岡のタカの渡り(榊原 博氏)より引用


長い間、御拝聴頂き誠に有難うございました。「鷹の渡り静岡」はまだまだ勉強不足、人員不足、データ不足、分析不足です。皆様に広く知って頂く為に皆さんとの情報交換をし、皆様のご指導ご鞭撻を頂きまして、一同なお一層よい観察を目指してまいりますので宜しくお願いいたします。  


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