相続人が1人であれば、その人が遺産の全てを単独で相続しますから、遺産を分割するという問題は生じません。
ですが、相続人が複数いる上記のようなケースの場合、Aさんの死亡によって、一旦は相続人全員で遺産を共同所有(共有)することになりますので、これを分割する必要があるのです(正確には、預金や借金は、共有とはならずに当然に分割されるというのが判例です。)。
まず、各人の具体的な相続分を計算してみましょう。
法定相続分は、妻であるBが2分の1、子供であるC〜Eが6分の1ずつとなります。
遺産全体の評価額は、
(資産合計1億4,000万円)−(負債合計5,000万円)=9,000万円
です。
よって、各人の具体的な相続分は、
B =9,000万円×1/2=4,500万円
C〜E =9,000万円×1/6=1,500万円
となります。
では、誰が、どの資産を相続するべきでしょうか。
Aが住んでいた自宅には、妻Bと長男Cが現在も住んでいますから、BCが自宅を相続するのが自然です。自宅を相続する以上は、自宅の住宅ローンもBCが相続すべきでしょう(注:住宅ローンをBCだけが引き継ぐためには、X銀行の承諾が必要です。)。
アパートは、次男Eが管理していましたので、Eはアパートローンとともに、相続することを希望しています(注:アパートローンをEだけが引き継ぐためには、Y銀行の承諾が必要です。)。
そうなると、残る資産は預金だけですから、預金を長女Dが相続することとします。
さて、それぞれの取得分はどうなりましたか?
B・C=5,000万円−1,000万円=4,000万円<6,000万円
D =1,000万円<1,500万円
E =8,000万円−4,000万円=4,000万円>1,500万円
これでは、法定相続分によって計算した相続分よりも多くもらえる人(E)と、少ない人(B・C・D)が出てしまい、アンバランスですね。ですが、遺産分割は、必ず法定相続分どおりにする必要はありませんので、B〜Eの全員が納得しているのであれば、アンバランスな分け方でも全く問題ありません。こうして、話し合いにより遺産分割を行うことを協議分割といい、合意の内容を遺産分割協議書という書面にして、全員が署名・押印をします。
問題は、このような分け方について、全員の合意が得られない場合です。
例えば長男Cや長女Eが、Eが2,500万円分もらい過ぎていることについて納得しない場合、Eとしては、自分個人の財産(あるいは将来のアパート収入)の中から代償金をCやDに支払ってアンバランスを調整することができれば、アパートを単独で相続することが可能でしょう(このような分割方法を、代償分割といいます。)。
しかし、Eにそのような財力や支払意思がない場合には、話し合いでは遺産分割協議がまとまりません。そこで、裁判所の力を借りて遺産分割協議を行うために、家庭裁判所に申し立てるのが、遺産分割調停ということになります。
遺産分割調停では、経験豊富な調停委員が間に入って、相続人全員の意見や希望を聞きながら、遺産分割協議がまとまるように話し合いの仲介をしてくれます。全員の希望が全て叶えられるような分割方法は滅多にありませんから、それぞれが少しずつ譲歩をしながら、妥協点を見つけられるよう努力することが大切です(遺産分割は、「10年戦争」などと言われることもあり、感情の対立がもつれてしまうと、これを解きほぐすことは至難の業です。遺産分割で揉めた結果、兄弟姉妹が絶縁関係になってしまうこともありますが、非常に悲しいことだと思います。)。
家庭裁判所の調停で話し合いを尽くしても、どうしても協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割方法を決めてもらうしかありません。これを、審判分割といいます。遺産分割の最後の手段と思って下さい。