■相続財産の範囲と評価
相続人が受け継ぐことになる相続財産とは、被相続人が持っていた財産上の一切の権利義務です。土地、建物、自動車、預貯金といったプラスの財産が相続財産に含まれるのはもちろんですが、借金などのマイナス資産も相続財産に含まれます。
よく問題となる財産について、説明をします。
■賃借権
被相続人が借家に住んでいた場合、その家を借りる権利(賃借権)を持っていたことになり、賃借権も財産上の権利として相続の対象となります(同居していた家族は、借り続けることができるということです。)。
■賃料
被相続人が、賃貸アパートを所有していた場合、アパートは相続の対象になり、遺産分割協議により、相続人の誰が相続するかを決めることになります。
ですが、被相続人死亡後に入ってきた賃料収入は、相続財産にはならず、各相続人が法定相続分に従って受け取れることになります(遺産分割協議の結果、例えば長男がアパートを相続することになっても、被相続人死亡後、遺産分割協議成立までの間の賃料は、原則として、相続人で分けることになります。)。
■損害賠償請求権
たとえば、被相続人が交通事故などによって死亡した場合、加害者に対する損害賠償請求権は、相続の対象となり、相続人が賠償金を受け取ることができます。
■生命保険金
生命保険金は、相続によって取得するものではなく、保険契約に基づいて受領するものですから、相続の対象とはなりません(相続放棄をしても、もらえます。)。ただし、一部の相続人のみが高額の保険金を受領する場合、相続人間の公平をはかるために、持ち戻しがされることもあります。
■死亡退職金
労働者が死亡したことによって支給される退職金(死亡退職金)は、通常は受給権者(受取人)が法律や退職金規程によって決められており、受給権者の固有の権利として、相続の対象にはなりません。
■保証債務
被相続人が、Aさんの借金について保証人になっていた場合、この保証債務も、相続の対象となります。したがって、Aさんが返済を怠った場合、相続人が返済をしなければなりません。保証債務があるかないかは、被相続人が亡くなった時点では家族には分からないことも多く、注意が必要です。
法定相続分は、単なる割合に過ぎませんから、実際にそれぞれの相続人の取り分がいくらになるかは、相続財産を金額で評価しなければなりません。この点、預貯金は金額が明確ですが、時価評価が難しい財産も多く、評価を巡って大きな争いになるケースも珍しくありません。
よく問題となるものには、次の財産があります。
■不動産
不動産の時価は、極端にいえば、現実に売ってみなければ分かりません。そこで、固定資産評価額、公示地価、路線価、近隣の売買事例、不動産業者の査定などの様々な資料を基に、評価が行われます。それでも、相続人間で揉めるような場合には、不動産鑑定士による鑑定が行われることもあります。
■非上場株式
東証一部上場企業の株式のように、市場での時価評価が確定できる上場株式は問題ありません。
これに対して、被相続人が中小企業の社長であったような場合には、その会社の株式(非上場株式)について、どのように時価を評価するかが問題となります。評価の方法には、(1)純資産評価方式、(2)収益還元方式、(3)配当還元方式、(4)類似業種比準方式などがあり、会計士などの専門家に評価してもらうことになります。しかし、会社が無借金経営の優良企業であったような場合、現実には株式を売却することができないにもかかわらず、高額な評価になってしまうこともあり、後継者へのスムーズな事業承継を困難にさせることも珍しくありません。
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