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■就業規則の必要性

 中小企業の中には、就業規則を作成しておられない会社も、たまに見受けられます(恥ずかしながら、当事務所も、就業規則を作成したのは近年のことです。)。従業員とのトラブルについてご相談を受けたときに、「就業規則ではどうなっていますか?」とお尋ねすると、「うちは小さな会社ですので、そんなものはありませんよ。」という回答が返ってくることがあります。しかし、例えば、従業員の非違行為を理由として、懲戒処分をしたいと考えた場合にも、懲戒の事由や種類を就業規則に定めておかなければ、そもそも懲戒処分をすることができません(契約説)。ですから、たとえ就業規則の作成を義務付けられていない会社(常時使用する労働者が10人未満の会社)であっても、労務管理のためには、きちんとした就業規則を作成しておくことが重要といえます。
 就業規則を作成することの使用者にとってのメリットとしては、以下のような点があげられます。
 @ 多数の従業員の労働条件を統一的・画一的に管理できる
 A 行政による各種交付金取得の要件を満たす
 B 懲戒処分を通じた企業秩序の維持が図れる


■就業規則の作成方法

1 記載内容(労働基準法89条)
  (1) 絶対的必要記載事項(必ず記載しなければならない事項)

89条号数
項目
細目
1号 労働時間 始業時刻
終業時刻
休憩時間
休日
休暇
就業時転換
2号
賃金
決定方法
計算方法
支払方法
締切時期
支払時期
昇給
3号 退職 退職事由(解雇事由、懲戒解雇事由を含む)


  (2) 相対的必要記載事項(制度を設ける場合には、記載が必要な事項)

89条号数
項目
細目
3号の2 退職手当 適用される労働者の範囲
決定方法
計算方法
支払方法
支払時期
4号
臨時の賃金等 臨時の賃金等(退職手当を除く)
最低賃金 最低賃金額
5号 労働者の負担 食費
作業用品
その他の負担
6号 安全 安全に関する事項
衛生 衛生に関する事項
7号 職業訓練 職業訓練に関する事項
8号 災害補償 災害補償に関する事項
業務外の傷病扶助 業務外の傷病扶助に関する事項
9号 表彰 表彰の種類
表彰の程度
制裁 制裁の種類
制裁の程度
10号 その他 当該事業上の全労働者に適用される事項


2 意見聴取手続
  (1) 事業場ごとに行う
  (2) 意見を聴取し、反映する機会を与えればよい
  (3) 過半数代表者の選出(過半数労働組合がない場合)

3 周知
  以下のいずれかの方法により、労働者に周知しなければなりません。
  @ 常時各作業場の見やすい場所へ掲示、または備え付け
  A 労働者への交付
  B 電磁記録を労働者がいつでも確認できるような機器を設置
 就業規則は、その内容が合理的である限り、反対意見の従業員をも拘束しますが、そのためには日頃から周知されていることが不可欠です。就業規則は作成したものの、社長だけが開けられる金庫の中にしまったままでは、いざという時に役に立たないことにもなりかねませんので、ご注意下さい。

4 懲戒事由はできるだけ具体的・網羅的に列挙する
 先ほど触れたように、問題のある従業員を懲戒処分したい場合には、就業規則に定めがあることが必要です(契約説)。
 この点、「勤務態度が不良であると認められるとき」といった曖昧で抽象的な懲戒事由しか定めていない場合には、懲戒処分の有効性について争いになりやすいといえます。したがって、懲戒事由は、できるだけ具体的に、思いつく限り網羅的に定めておくことが重要です。

 

■就業規則を変更したい場合(不利益変更の効力)

1 就業規則は、労働条件の最低基準を画する機能を持っています。しかし、昨今のような不況下では、企業が事業を継続するために、労働条件の一斉切り下げなどをしなければならないことがあり得ます。
 労働条件の変更には、労働者ごとの個別の同意が必要なのが原則ですが、それでは手間もかかりますし、1人でも反対する労働者がいる場合には、統一的な労働条件の切り下げが実現できないことになります。
2 そこで、例外的に、労働条件切り下げの必要性や合理性などが認められることを条件に、就業規則を労働者にとって不利益に変更し、労働条件を(個別の同意が不要という意味で)一方的に切り下げることが可能な場合があります(以下に、代表的な最高裁判例と、労働契約法の条文を掲載しておきます。)。

【第四銀行事件最高裁判決(最二小判平成9年2月28日)】
 ▼不利益変更の内容:58歳から60歳への定年延長と同時に、55歳以降の給与減額、役付手当減額、定昇不実施などにより、55歳以降の賃金を54歳時の60%台とするもの
 ▼判断要素:いわゆる7要素に基づく総合判断
   @ 労働者が被る不利益の程度
   A 使用者側の変更の必要性の内容・程度
   B 変更後の就業規則の内容自体の相当性
   C 代償措置、その他関連する労働条件の改善状況
   D 労働組合等との交渉の経緯
   E 他の労働組合又は他の従業員の対応
   F 同種事項に関する我が国における一般的状況
 ▼結論:合理性を肯定

【労働契約法】
 第8条  労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
 第9条  使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
 第10条  使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

【文責 弁護士増田和裕】

 

 

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