使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(労基法15条1項)。
そして、少なくとも次の5つについては、書面によって明示することが義務づけられています(労基法施行規則5条)。就業規則が作成されている会社であれば、就業規則を交付すればよろしいでしょう。
@ 労働契約の期間に関する事項
A 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
B 労働時間に関する事項(始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇)
C 賃金に関する事項(決定、計算および支払の方法、締日、支払時期)
D 退職に関する事項(解雇事由を含む)
1 採用内定の法的性質
採用内定の法的性質について、最高裁は、始期付解約権留保付労働契約が成立していると解釈しています(大日本印刷事件−最判昭54・7・20など)。
つまり、内定を与えるということは、単なる「予約」ではなく、労働契約が成立したものとされるのです。
2 内定取消の適法性
採用内定の法的性質が、始期付解約権留保付労働契約の成立と解される結果、内定の取消は使用者による解雇にあたり、留保解約権の行使が適法かどうかという問題になります。
したがって、「大学を卒業できなかった」とか、「病気や怪我により勤務ができなくなった」といったように、解約権を留保した趣旨や目的に当然含まれる理由による取消は認められますが、それ以外の理由での取消は、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認することができる場合」でなければ認められません(前記大日本印刷事件)。
上記の他に、内定取り消しが認められる場合としては、次のようなケースが考えられるでしょう。
@ 本人が内定時に申告していた経歴・学歴・刑事処罰歴の重要部分について虚偽であったことが判明した場合(経歴詐称)
A 内定を出した当時には予測できなかった経済状況の急変で、会社の人員計画を大幅に変更しなければならず、在職従業員も含めたリストラが必要になったような場合
【参考】厚生労働省「新規学校卒業者の採用に関する指針」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/jakunensha05/index.html
1 試用期間の法的性質
多くの企業では、入社後の一定期間(3ヶ月間が多いようです)を「試用」ないし「見習い」期間とし、この期間中に正規従業員としての適格性を評価し、本採用とするか否かを判断する制度を取っています。
試用期間中の労働者の地位の法的性質について、最高裁判所は、既に労働契約は成立していることを前提として、試用期間中は使用者に労働者の不適格性を理由とする解約権が留保されているとしています(三菱樹脂事件−最大判昭48・12・12)。
2 本採用拒否の適法性
試用期間経過後に本採用を拒否するということは、すでに他企業への就職の機会を放棄している労働者に対する不利益が大きいことから、「客観的に合理的な理由」があることが必要とされ、通常の解雇よりは緩やかとしても、内定取消の場合よりは厳格に判断される傾向があるといわれています。
一般論としては、「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らし、その者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に相当であると認められる」ことが必要とされています(前記三菱樹脂事件最高裁判決)。
本採用拒否が認められる具体例としては、以下のようなケースが考えられるでしょう。
@ 採用面接時には分からなかった悪質な犯罪歴の発覚
A 無断欠勤・遅刻などの勤務不良の程度が平均的な従業員を下回り、改善の可能性がない場合
B 予測できなかった急激な業績の悪化
【文責 弁護士増田和裕】