※注意!
このSSは楸瑛×絳攸アンソロ「月香花」に管理人が投稿した「腐れ縁は一日にして成らず」とザビVOL9の「鈴蘭の咲く頃に」の内容を前提として書いてありますので、読んでいらっしゃらない方には意味が分かりにくいかと思います。
簡単に言うと楸瑛は子供時代に清苑(今の静蘭)を女の子と間違え(ザビでの公式話)、さらにその四年後、女装評議会で絳攸を女の子と間違えた(アンソロでの管理人の妄想話)ということです。で、この話は楸瑛がその評議会から藍州に戻って来てからの話です。

 

 

 

 

 

腐れ縁は一日にして成らず〜藍楸瑛編〜











「は、はははははは」

「迅、笑い過ぎだ」

楸瑛は隣で笑い続ける幼馴染に恨めしい視線を向ける。

「だって、はは、お前も懲りないな」

「懲りないって何がだよ?」

「貴陽行く度に野郎をお姫様と間違えてんだろ」

四年前の失敗を掘り返されて、楸瑛は言葉に詰まる。綺麗な顔をした第二公子に「失せろ」と絶対零度の瞳で吐き捨てられたことは今でも忘れない。

「ぐ、今回は…私の所為じゃない。向こうがその、女装なんてしてるから…」

自分だって女装していた訳だがそこは棚に上げて、相手の所為にしてみる。

「だからって普通気付くだろ」

「気付かなかったんだ!あんな日に焼けない肌(室に籠って勉強ばかりしている為)で、体だって折れそうな程細くて(拾われる前の栄養状態があまりよくなかった為)、なんかいい匂いがしたし(百合姫特製の香の為)、手もつるつるだったし(剣など握ったことがない為)、緊張した様にたどたどしくしゃべるし(言葉遣いに気を遣っていた為)、頬を染めて涙目で(迷子な為)……どう見ても女の子だった!」

「…そうかよ。ま、お前が負けるくらいだしな」

迅も顔だけは無駄にいい幼馴染が優勝するだろうと思っていたので、その楸瑛を負かしたという相手を密かに見てみたい気になった。

「結構自信あったのにな」

「お前案外乗り気だったもんな。その割には手ぶらだけど」

「野菜一月分も藍州まで運べる訳ないだろ。兄上達の知り合いの御邸に寄付させて頂いたよ」

それを聞いた迅は、藍家の三つ子当主達が弟を貴陽に遣った理由をふと考えた。塩の質を見に行くことか、女装評議会で優勝することか、それともその賞品を知り合いにあげることか。…この幼馴染は兄達に良い様に遊ばれている気がする。

しかし、その本人は何も気付いた風もなく、未だ女装少年について考えていた。

「それにしても、残念だ。女の子だったらそれこそ百年の恋の始まりだったのに」

「まだ言うか」

「二人はその後偶然に再会を果たして恋に落ちるんだよ。雅に運命の出逢いだ」

その再会のお呪いと称して頬に接吻したことは迅に黙っていよう。更に笑われるだけだ。

「お前って、どんな夢見る少女だよ」

楸瑛の言葉に迅は呆れ顔になった。

女だと思っていた子が行き成り女装した男だとわかって引かない少女がいるかどうか。やはりこいつはどこか抜けてる。というか、四年前から学習していない。

「でもまぁ、意外とどっかで再会したりしてな。『運命の出逢い』ってやつ?」

相手の言葉をそのまま引用して言ったのに、楸瑛は実に嫌そうな顔をした。

「男と運命なんて感じたくないよ。やはり私は女の子がいいな。こうふわふわした…」

理想の女性像を描こうとした楸瑛はふと、思い出した。

あの少女(結局は少年だったわけだが)は「ふわふわ」とは違った。幼いながらもきりっとした気丈な雰囲気を持っていた。

しかし、それとは相反するような表情だった。周りを見回して途方に暮れたような、困ったような顔をしていたから。

つい声を掛けた。ほんの気まぐれに。可愛い女の子と話をしたいとかいった軽い気持ちで。



でも

握ったその手が微かに震えていた。

今この少女にとって自分はどんな存在だろうか。

この手を離したら少女はきっと困ってくれる。

私に助けを求めてくれる。

少女は自分がどこの誰かなんて知らない。

でも、私をただ必要としている。今この瞬間は。

それは酷く満たされた気持ちだった。

守りたい、とさえ思えるような。

日の光を受けてきらきらと輝く色素の薄い髪も

透き通るような菫の瞳も美しかった。

少女との会話も楽しかった。

打てばすぐに響くように返ってきたその声が心地よかった。

 

相手は本名さえ知らぬ少女…ではなく、少年だが

もし

また再会するようなことがあったら―――

そんな偶然に賭けてみるのも面白かもしれない。

 

 

急に考え込んでしまった幼馴染に迅は声を掛けた。

「そういやお前、兄貴に呼ばれてんだろ?」

「ああ、何でも雪兄上が会わせたい人がいるって」

急がなくては、と慌てた楸瑛は湖海城に向けて走り出した。

「おい、馬鹿!待てって」

その楸瑛の背を追って迅もまた土を蹴った。

 

 







兄に紹介された女性が自分に何をもたらすのか、今は隣で笑っている幼馴染が辿る運命も楸瑛は知らない。

百合と名乗った少女…の姿をした少年と本当に再会する羽目になることも、彼との出会いが全ての始まりであることも…楸瑛はまだ知らない。

 


『初めまして、李絳攸君』





 

―――愛よりも恋よりも早く、僕達は出逢った。それが全ての始まり。












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は〜い、馬鹿殿ぼんぼん楸瑛でした。ザビ9はちょっと衝撃でしたが、もうこれはこれで妄想するしかないってことで(汗)
いろいろと不親切なSSですみません。アンソロ原稿でさえも、「豊作御礼大祭典!」(ザビVOL.3及びザビVOL.6全サ冊子)を基に書いてる部分があるので、読んでない方には分かりにくいですm(__)mちなみに、アンソロ原稿で言いたかったことは、楸瑛の絳攸との出会いは玉華よりも珠翠よりも早かったってこと。
07/8/26

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