劉輝のお悩み相談室
「で、楸瑛は何か悩み事はないのか?」
「は?」
突然、劉輝にそう切り出されて楸瑛は目を丸くさせた。
「先日は絳攸の相談を聞いたのだ。臣下の相談に乗るのも王の務めなのだ」
得意そうに言う劉輝に楸瑛は更に驚いた。
「絳攸が相談したのですか?一体何を?」
「それは言えないのだ。守秘義務ゆえ」
ふふふと笑う王。
本当に絳攸は一体何の相談をしたのだろう。
迷子を…とは本人が言う筈ないし、養い親が仕事を…とは王に相談しても無駄だろうし。
…全官吏の頂点に立つのが王の筈なのに、相談しても無駄というのも可笑しいのだが。
「さぁ、今度は楸瑛の番なのだ」
「…そうですねぇ」
ぐぐっと身を乗り出してくる劉輝を見て、思わず笑みが零れる。
はて何を相談したものか。
それこそうちの兄弟を…というのも無理な相談だし、羽林軍の大将軍達を…というのもやはり無理か。
ふと、今の時間はまだ吏部に詰めている彼の顔が浮かぶ。
「でしたら、想い人がどうしたら振り向いてくれるか…とかですかね」
「…そんなのは余が知りたいのだ」
劉輝は眉を寄せて、ストンと椅子に座り直した。
楸瑛は苦笑いで、劉輝の空になった湯飲みに茶を注いだ。
まぁ当然の答えだ。というか本当は答えなど期待していなかったのだが。
しかし劉輝はこのままでは相談になっていないと真剣に考え出した。
しばし、うーんと唸った後、劉輝はぱっと顔を上げた。
「そうだ!からかうのを止めるというのはどうだ?」
「嫌です」
いい案だと思ったのに即答され、さしもの劉輝も驚いてしまった。
「何故なのだ?」
「絳攸は怒った顔が可愛いんですよ」
「…そう、なのか?余は絳攸が怒ると恐いのだが…」
容赦なく拳を振り上げてくる側近を思って、王は身震いをした。
意図せず怒られているのと意図して怒らせているのとの違いであろうか。
「絳攸も優しいときは優しいのだがな…。あっ!余はこの前絳攸に頭を撫でてもらったのだぞ!」
「え?」
劉輝のその発言に楸瑛は目を見開いた。
「絳攸が?貴方の頭を?」
「うむ。『よく頑張っている』と褒められた!」
「そう…ですか…」
本来の趣旨である楸瑛のお悩みなどすっかり忘れてにこにことしゃべる劉輝は、その時楸瑛が浮かべた表情の意味に気付かなかった。
この後、絳攸は楸瑛に「私も頑張っているから褒めて欲しい」と訳の判らない理由で付き纏われることとなる。
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前回の拍手御礼SSに引き続き劉輝のお悩み相談室。
というか、想い人=絳攸って極自然に言っちゃってるよ、この人。
絳攸が大好きな常春将軍万歳!
07/8/31 収納