友人コンプレックス
劉輝は仕事にひと段落つけて、漸く絳攸からお茶の時間を勝ち取った。
側近の片割れは大将軍に呼び出されて今は席を外している。
絳攸が茶を一口飲干すのを待って、劉輝は口を開いた。
「絳攸は、何か悩みでもあるのか?」
「は?」
「違うのか?」
劉輝は意外そうな顔をした。それに対して絳攸は怪訝そうな顔を向ける。
「…何でそう思うんです?」
「常より眉間の皺が一本多い」
数えているのかっ!?絳攸の米神が一度ぴくりと動いた。
「…別に何でもありません」
己を落ち着かせる為に敢えて低い声を出したが、王はしょぼんとした声を出した。
「…余はそんなに頼りないか?」
有るはずの無い耳が垂れて見えるのは、目の錯覚か。
「別にそういう訳では…」
「余だって、臣下に頼られたい!お悩み相談をされたい!!」
落ち込んだ態度から一転、身を乗り出す王に怒りを通り越して呆れる。
「さあ、さあ」
「…大したことじゃありませんよ」
「構わん!」
はぁと盛大な溜息を吐く。まぁこの王が他の誰か(特にあの常春)にしゃべるとも思えないし。
絳攸は観念して口を開いた。
「…一般的に友人というのはどういうものなのかと」
「は?」
「だから友人ですよ」
一度で聞き取れない劉輝に、ちょっと語気が荒くなる。
「…楸瑛のことか?」
「あいつとは只の腐れ縁です!」
絳攸が楸瑛の他に友人が居る等と聞いたことはなかったが、そこに拘ると話が進まない。
「そうか…。で、どういうものか、とは?」
「例えば…出会いがしらに抱きついたり…、やたらと手を繋いだり…、そ、その手やら顔にせ、接吻をしたり」
「……」
「一般的に友人同士というのはそういうものなのか?」
「………」
「一般的に友人同士というのはそういうものなのだろうっ!?」
「…………」
「違うのか!!??」
必死な形相の絳攸に、劉輝は彼の望み通りの答えを与えることは出来なかった。
「…いいではないか、仲がよくて」
というか、やはり楸瑛のことではないか。
「よくないわ!」
怒鳴る絳攸に劉輝もムキになる。
「余だって秀麗や、兄上にそんなことしてもらいたい!!」
「俺はしてもらいたくないんだ!大体、秀麗とせ…あれは友人ではないだろうが」
「余は…どうせ友人などいないのだ」
劉輝のその一言で、それまで怒鳴っていた絳攸の口がぴたりと止まる。
「…………………………………」
「あの紅尚書にだっているのに」
「…俺が悪かった」
絳攸は素直に謝罪した。
その後、執務室に戻った楸瑛はぐすぐすと泣く王と、それを必死で宥める絳攸という実に珍しい光景を目にすることとなる。
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楸瑛以外友人無しの絳攸と、正真正銘友人無しの劉輝でした。
知らないということは恐ろしい。
07/8/6 収納