紅い百合の花言葉は…











「鳳珠」
戸部で忙しなく仕事をしていた黄奇人は、扇を広げ優雅に扉に佇む男に目を向けることもなく切り捨てた。
「仕事の邪魔だ」
しかしその男、紅黎深はそれに構うこともなく、ずかずかと室に入ってきた。
「君に文だ」
手に持っている物を投げて寄越す。
「ふん、この忙しい時に…」
乱暴に文を開いた奇人だが、そこにある文字を目にした瞬間、珍しくも途中で言葉を失った。
黎深がその姿を見て、扇の下で僅かに笑ったことにも気付かないで。

広げた瞬間に文に焚き染めた香が鼻を擽る。流れるような筆遣いに目を奪われる。少し線の細い印象を受けるのはこれを認めたのが女性だからか。
自分が結婚したいと望んだのは後にも先にも彼女一人。

文頭は季節の挨拶から始まり、こちらを気遣う文、無沙汰していることに対する謝罪、夫の迷惑に対する謝罪とそれに付き合っていることに対する礼が細やかな言葉で並べられていた。この文一つで書き手の教養の高さ聡明さが伝わる。それに合わせ大貴族の妻としての姿も浮かび上がってきて…少しだけ物悲しい気持ちになった。
しかし、彼女の文の印象はある一文を境に変貌する。

―先日はうちの絳攸が鳳珠様の御邸にお邪魔したそうで…。

―その際に絳攸にお声を掛けて下さったそうですわね。

―なんでも「お前では役者が不足だ」とか。

―いいえ、わたくし少しも気にしてなどおりませんのよ?他ならぬ貴方があの子の為におっしゃってくださったことでしょう?もちろん他の方がおっしゃった言葉であればそれなりに…考えもあったのですが。その時は初めての夫婦会議ものでしたわ。ええ、本当に少しも気にしていませんの。どうしても親というのは子に対して甘いものでしょう?お恥ずかしい話ですが、ついつい心配になってしまいますの。ああ、鳳珠様。どうかこれからもわたくしの可愛い絳攸を…宜しくお願い致します。

「……………………………………黎深」
「何か問題でもあったか?」
「貴様、百合姫に何を吹き込んだ?」
「何も言ってやしないさ。あれが勝手に調べたことだ」



百合の花言葉は『純潔』、『無垢』。
紅い百合の花言葉は…きっと、『最強』。












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百合姫様2本立て。双花サイトなのに…。いや、うちのサイトは迷子愛されサイトで!2巻の「激闘?大入り夜討ち」の後日談。あ、もちろんそんな花言葉は百合にはありませんよ(笑)
07/3/18 収納

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