親友辞めます。
楸瑛は未処理の書簡に埋もれる吏部侍郎室を訪れた。
「絳攸、話があるんだけど…」
「見て判らんのか!?今忙しい!!」
「うん。でもすぐ済むし、私達の大事な話なんだよ」
絳攸はそれまで相手の顔も見ずに、仕事を片付けていたが、楸瑛のその言葉に手を止めた。胡散臭そうな顔で続きを促している。
「私は君の親友を辞めようと思うんだ」
楸瑛は一言そう言った。絳攸はその一言を理解するまでにかなりの時間を要した。瞬きを繰り返し、頭を高速回転させ、漸く意味を理解した後は何と言っていいか判らなかった。辛うじて言葉を紡ごうとした時、先に楸瑛が口を開いた。
「…なんてね」
「は?」
また意味が判らず固まってしまった絳攸に対して楸瑛は困った様な笑みを見せた。
「冗談だよ。だからそんなに泣きそうな顔をしないでおくれよ」
「なっ、貴様っ!!ふざけるのも大概にしろ!!!!」
怒りで顔を染めた絳攸が手当たり次第に書簡を投げ付けてくる。
「大体貴様とは親友でも何でもないんだっ!!只の腐れ縁だと何回言わせる気だっっ!?その縁が切れるなら嬉しい限りだ!!ああ、そうとも清々するわっ!!!」
楸瑛は投げ付けられる書簡を次々に受け取りながら、卓に並べていく。その口元には押さえられない笑みがあった。
―――ごめんね、絳攸。君にそんな顔をさせて。そして、そんな顔をしてくれることを嬉しく思って。
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本当は「親友を辞めて、恋人になる」宣言をしたかったのですが、「親友兼恋人」も美味しいと思った楸瑛さんでした。
07/2/1 収納