ある日の執務室で











それはある日の麗かな、昼下がり。彩雲国の王・紫劉輝は大人しく仕事をしていた。しかし、突然筆を止めて彼の片腕に声を掛けたのだった。
「そうだ、絳攸!」
「…なんですか?」
「愛してるぞ」
「…っっ!!〜何を言い出すかっ!!また拾い食いでもしたんですか!?それとも常春が移ったのか!!??」
「む、余は真剣なのだ。拾い食いもしていないし、楸瑛の常春も移っていないのだ。ただ…この前楸瑛にはちゃんと『愛してる』と言ったのに、絳攸には言ってなかったのを思い出したのだ。抜け駆けはいかん」
「な、抜け駆けって…………」
「で、ちゃんと言ったのだ。絳攸は?」
「……………………………」
「…余だけ言うのは不公平だと思うのだが…」
馬鹿じゃないのか!?本気で常春が移ったとしか思えない。怒鳴り散らしてやりたい。
なのに自分を見る劉輝の瞳とぶつかって、言葉に詰まる。
――そんな上目遣いで、うるうるした瞳で見上げてくるなっ!アンタいくつだよ!?―――
耐えられなくなった絳攸は口を開く。
「……俺は「主上ばかりズルイですよ」
それまで二人のやり取りを黙って見ていた楸瑛が口を挟んだ。
…絶妙のタイミングで。
「あれ、楸瑛居たのか」
「ええ」
主上に爽やかな笑顔を向けた後、絳攸を振り返った。
「絳攸、愛しているよ。さぁ、私にも返事を聞かせてくれないかい?」
あまりの事に固まっている絳攸の手をそっと掬い取ると、その上に楸瑛は自分の唇を落とした。
…ぶちっ。
絳攸の堪忍袋の切れる音を劉輝は確かに聞いた。

「〜〜〜〜っ馬鹿か!!!???二人ともさっさと仕事しろっっ!!!!」

鉄壁の理性と名高い、吏部侍郎・李絳攸の怒声が宮城に響き渡ったのでした。

―――本日も彩雲国は平和です。












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5巻で劉輝が楸瑛に「愛してる」と言っていたので。
楸瑛の「愛してる」の意味に気付かない二人と、主上に便乗する楸瑛でした。
06/12/1 収納

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