守れなかった約束









彼女と食事をするのは2度目だった。

「前一緒に食べたホテルの料理もおいしかったけど、ここもすごくおいしいわね?」

「あ…ああ」

彼女…ミーアといると何をしゃべっていいのかわからない。

まあ、いつもミーアが話し掛けてその返事をするだけで精一杯なのだが。

話は今日のコンサートへ移っていった。

「あたし、地球初めてで」

 

このホテルからも海を臨むことができた。

 

「アスランは地球のオーブにいたんでしょ?」

議長に聞いたのだろう。

「オーブって島国よね?すごく海が綺麗って聞いたことがあるわ」

「ああ、確かに海が綺麗だ」

キラキラと輝く海面を思い出し、頷く。

プラントの人口海とは明かに違い、母なる地球、母なる海を実感した。

「いいなぁ。ミーアも見たい。…あ!」

いきなりあげられた声に顔を上げる。

「そうだ!アスラン、今度オーブを案内してよ!」

「え?」

 

「それは…ちょっと」

だいたい今は戦時中でそんな観光みたいなことできるわけない。

無理だ、という言葉が口をついて出そうになる。

しかしその言葉はミーアの顔と声によって遮られる。

「ダメ…ですよね。ごめんなさい」

いつもの明るい笑顔はすっかり消え、哀しそうな、諦めた顔。

「つい、はしゃいじゃって」

消えそうなつぶやきになる。

「あ、アスラン飲み物もっと何か頼む?」

明かに話題をそらせる。

不思議な少女だと思う。

いつもは明るくて、それこそ迷惑なくらいに強引で俺をひっぱりまわすのに、

ときどきすごく哀しそうな顔を覗かせる少女。

でもそれは同情して欲しいわけではなく、自然にポロッと表われる。

そして不器用に取り繕う。

だからこその真実。

 

「いいよ」

「え?」

「案内するよ。いつになるかはわからないけど…」

「ホント!?ホントにホント!?いいの!?」

「あ、ああ」

やっぱり、ミーアの勢いに押されてしまう。

「アスラン、ありがとう!!あたしすごくうれしいわ!!」

全身で喜びを表している少女に気付かれないようにそっと息をつく。

そして

わずかに笑う。

こんないつ果たされるかもわからない約束を信じて、「ありがとう」「うれしい」と素直に伝える。

ミーアはそんな子なんだ。

「アスラン、約束ね!」

 

 

 

 

その約束は守られることはなかった。

俺がミーアがなぜ海にこだわったのか知ったのも後になってからだった。

 

でも

 

本当に

 

君と海を見たかったんだ。










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