selfish








どうしてあたしはこんなとこにいるんだろう

1年前

デビューを夢みていたころには

まさか自分が憧れのラクス・クラインを亡き者にしようとしているだなんて

思いもしなかった。

でも

もう後には引けないの。

アスランの手をとらなかったあたしには、

ラクス・クラインとして生きることしか許されないの

…そう思っていた。

 

 

「ミーア」

そう呼んだのが誰かはすぐわかった。

信じられなかった。

だって、彼はもういないのに。

でも

あたしがあの人の声を聞き間違えるはずがないじゃない。

今のあたしをそう呼んでくれるのはあの人だけだもの。

 

混乱する頭で、貴方に駆け寄った。

 

当たり前のように貴方の隣にはラクス・クラインがいたわ。

彼女はあたしにさえ微笑んでくれた。

残酷なまでの優しさで。

みんなに愛される人。

みんなに守られる人。

でも…!

そこは…アスランの隣はあたしの場所なの。

あたしが欲しくてたまらなかった場所。

 

 

「今更…出てこないでよ…!」

それが本音だった。

いつだってプラントはラクス・クラインを求めていたわ。

でも、肝心なときに貴女はいなかった。

前の戦争が終わってプラントが傷ついた体を起こす時。再びプラントに核を打たれて混乱している時にいたのは、あたし。

そうして、プラントにレクイエムを撃ちこまれた今だって貴女はプラントにいない。アスランがザフトで大変な目に逢っている時だって…。

それなのに、銃を持つこともなく、守られて。慈愛の手を差し伸べるのね。

あたしには守ってくれる人もいない。

殺さなければ、殺される。その恐怖から銃を取る。

醜い。

あたしには議長の思想なんて関係なかった。

ただ、誰かに必要とされたかった。居て欲しいと思われたかっただけ。

歌うことくらいしか得意なことはなかったし、歌は好きだった。

でも

「ミーア」では歌手になれなかった。

ラクス・クラインの物真似だって言われたこともあった。

夢は遠かった。

貴女の穢れを知らぬ光は、あたしが影であることを思いしらす。

それでも…!あたしはラクスなの!それが生きる理由の全て。

 

 

 

 

 

本当はかないっこないってわかってた。

こんなの自分がみじめになるだけ。

あたしがしてきたことって何だったんだろう。

あたしは間違えたの?

どこから?

初めから?

足元から何かが崩れ落ちる感覚がした。

 

銃声に怯えるあたしの手を貴方はひいてくれた。

アスランはまだあたしを見捨てないでいてくれた。

柱の影に入ったとき

貴方の顔がすごく近くにあった。

あたしの大好きな緑の瞳が間近にあって、吸い込まれそうになった。

アスランの瞳にはあたしの顔が映ってた。

あたしは…本当は恐くてたまらないはずなのに

この瞬間が永遠に続けばいいのにって思ったの。

もう二度とこの人の手を離したくないって思った。

 





あたしは本当は心のどこかでアスランを妬んでいたんだと思う。

強くて、格好よくって、優しくて、なんでもできて、エリートで…みんなに必要とされて。

ラクス様と同じように。

あたしはそんな彼が、彼女が羨ましかった。

憧れであると同時に嫉妬の対象だった。

 

あたしには何にもない。

「あたし」を捨てて演じなければ誰にも必要とされない。

アスランとあたしは住む世界が違う。

だから会えた後も、アスランにはあたしみたいな人間の気持ちなんてわかるわけないって思ってた。

 

ごめんね。

わかってなかったのはあたしだったね。

わかろうとしなかったのはあたしだったね。

いつも自分のことばっかりで貴方の気持ちをわかろうともしなかった。

必要とされることへの重圧だとか、求められる偶像と現実の差だとか…。

わかってなかった。

本当は今でもわかってないんだと思う。

先のことがわからないように、人の気持ちもわからないものだから。

わかるのは自分の気持ちだけ。

もう二度とアスランの手を離したくない。




ラクス様

ごめんなさい

貴女の偽者を演じて

貴女を殺そうとして

貴女の婚約者を…好きになって








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