ウソでしょ?
ウソよね?
ウソにきまってる!!
彼が…アスランが死んだなんて…
選んだ道
隣の部屋から聞こえてきたアスラン撃墜の知らせ。
それはあたしを凍りつかせた。
緊急の事態に騒がしかった執務室も、今はもう静まりかえっている。
あれから、何時間過ぎたんだろう。
頭が上手くはたらかない。
のろのろとした動さで、右手を見た。
この手を掴んでいた人物のことが頭に広がる。
濃い色の青い髪も、透き通るような緑の瞳も綺麗だった。
彼に会うことをずっと夢見ていたの。
まだ彼のぬくもりが残っているような気がして
右手を抱きしめた。
散々泣いたはずなのに、
彼が死んだなんてウソだと思っているくせに、
涙はとどまることを知らなかった。
「君も大変だったね」
議長はいつもみたいに柔和な笑顔をたたえていた。
「いえ…あの、アスランは?」
本当はわかりきっていることを、尋ねた。
わずかな希望を抱いて。
「コックピットはまだ見つかっていないが、それも時間の問題だろうな」
ああ…議長の頭の中はもう彼の存在を消してしまっているんだ。
わずかな希望にすがることもできない。
「アスランはロゴスと通じたスパイだったのだよ」
「え?」
ロゴス?
「証拠も見つかった。それで彼は慌てたんだろう。ミネルバの女性クルーを連れて逃走した」
「ミネルバの…?」
「ああ、確かメイリン・ホークといった。彼女も仲間だったのだろう」
ウソ。
あたしは知ってる。
彼がなぜ脱走したか。
だって、傍にいたんだもの。誰よりも近くに。
「これから、対ロゴスで大変だというのに困ったものだよ。だが、君が無事でよかった」
議長の笑顔が恐いと思ったのは
初めてだった。
「これからも期待しているよ、ラクス・クライン」
ラクス・クライン?
それは誰のこと?
あたし?
あたしはミーアじゃなかった?
アスランはあたしを「ミーア」と呼んだ。
でも
彼はもういない。
これが、あたしが選んだ世界。未来。
アスランと逃げたという彼女は、彼の手をとったのね。
あたしが恐くて振り払ってしまった手を、とることができたのね。
少し、羨ましくて悔しかった。
でも今更そんなこと思っても遅い。
「はい、議長」
アスランの手をとらなかったあたしは
ラクス・クラインとして生きるしかないの。