あたしは彼を愛していた。

例え、利用して捨てられるだけの運命だとしても。

例え、彼に本当の名前を呼ばれることがなくても。

あたしを必要としてくれた初めての人。

 





accomplice






初めて彼に会った日のことはよく覚えてる。

この壮大なプロジェクトの発案者。

一般人のあたしがこんなエライ人に会うなんて

思ってなかったから、舞い上がっちゃった。

初めはすごく緊張して、敬語もろくにつかえなかったけど

彼は穏やかな微笑みで受け止めてくれた。

ユニウスセブンの落下の話から始まり

今後のあたしの活動の話まで。

誠実に教えてくれた。

だから思いきって聞いてみたの。

「あ…あのっ、議長1つ聞いてもいいですか?」

「うん?構わんよ」

「えっと…あの、あたしがラクスさんの身代わりになるってことは、もしかして…アスランに会えたりするんですか?」

「アスラン…というとアスラン・ザラのことかね?」

「ええ」

「…会いたいかね?」

「はい!!あたしラクス様のことはずっとファンだったんだけど、同じくらいアスランのことも好きで…!」

議長は同じように穏やかな、でも少し眩しそうに目を細めて笑っていた。

「そうか…。そのうち会えるよ」

「ホントに!?うれしい!!」

 


よく考えれば、国の最高トップにこんなこと聞いていいわけないのに、

その時のあたしはアスランに会える喜びで一杯で

思わず質問してしまった。

「議長は、誰か好きな人いないんですか?」

議長は不躾なあたしの質問に面食らっているようだった。

慌てて質問を撤回しようとしたら、彼の笑い声に遮られた。

「好きな人か…そうだなぁ」

笑いを収めたあと、少し考え込む。

「いるよ。2人も」

2人も?って思ったけど、

あたしだってアスランとラクス様が好きなんだし、そういうことかしら?

「この2人がいなかったら、私は世界を変えたいなんて思わなかったろう」

その瞳はどこか遠いところに向けられていた。

好きな人のことを語るのにどうしてそんな瞳をするの?

あたしは好きな人を思うと幸せな気分になるのに。

これから世界を変える、正そうとしている人がどうして

そんな哀しそうな、どこか諦めた顔をするの?

そんなこととても聞けなかったけど。

 



 

それから、隠匿するまであたしはずっと彼と行動を共にした。

彼はあたしに優しかった。

もちろん「ラクス・クライン」として。

彼の政治の道具として。

それでも彼はあたしに居場所を与えてくれて

必要としてくれた。

アスランにも会えた。

もちろん恋愛の対象として議長を見たことなんてない。

あたしが好きな男の人はアスランだし、

議長に好きな、大事な人がいるのも知ってる。

もしかしたら

この気持ちは父親を慕う気持ちに似ているのかもしれない。

あたしは父親の顔なんて覚えていないけど…

雛のすりこみのような気持ちなのかもしれないけど…

それでも

彼が命をかけた壮大なプロジェクトの

共犯者としてあたしを選んでくれたことが

うれしい

 




 

だから歌うわ


議長へ

この曲は彼のためだけに

貴方のラクス・クラインより

愛をこめて

 




 

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