青山白雲  84.08.13〜15南アルプス 赤石岳→荒川三山
月〜水 前夜発2泊3日 単独           3120.1m
<コース>畑薙湖→赤石小屋→赤石岳→大聖寺平→荒川三山→千枚岳→千枚小屋→畑薙湖

 80.08.13〜15甲斐駒ヶ岳に登ってより次の南アルプスは赤石岳〜荒川三山を計画していた。しかし台風の為大荒れで、林道が使えなくなり今回やっと行けた。11日夜発の予定だったが、親類の不幸があり12日葬儀参列後出発、この為当初計画の第3日転付峠→身延の欲張コースを回遊に変更した。

 妻は11日1泊で静岡、白糸の滝オリエンテーリングに出掛けている。天候がずっと安定し山岳展望、高山植物共申し分ない今迄で一番充実した山行となった。小屋は地元の東海パルプの子会社、東海フォレストが経営するもので食事可なので4食丈用意、シュラフも持たずなるべく軽く(9kg、体重54kg)した。

第1日 8/13 月曜日 晴(夜中雨) 椹島→赤石小屋
赤石岳→荒川三山  小田急が空いていたので東海道線もと思っていたが、デッキ迄ギュウ詰めで2:00を我慢する。金谷より3両の電車にガサッと乗る大部分は登山者。車内で畑薙迄通しのクーポン券が発売され接続は良い。

 4:14千頭せんず駅着、ニワトリが鳴き出す。ここで一回り小さな幅の玩具の様なジーゼルの2両に乗り換えると、大井川沿いの高みをキーキー軋みながら険しい山谷をトンネルで出入りする。

 昼間なら良い景色の渓谷らしい。朝陽が差し込む頃井川駅に着く。ここより荷はトラックに積みマイクロバスになる。山男の汗?が沁み込んだ匂いがする。

 井川湖沿いの北上だが樹々が邪魔で殆んど見えない。沿道に見られた花、オオマツヨイグサ、ヒヨドリバナ、カワラナデシコ、クサギ、タマアジサイ等。花は未だだがガレ地には決ってあの大型の野草フジアザミが見られる。畑薙湖より東海フォレストのこれ又臭いマイクロバス3台に分乗すると、ガタガタの林道を行き、愈々南アルプスの南部に入って来た。台風に因るクズレは未だに酷く、今にも落ちて来そうなガレ地が左右上下垂直に続いていたりする。

 8:20東海パルプ作業場の在る椹島さわらじまに着いた。家を出てから実に9時間、各種交通機関を乗り継いで来た訳だ。この山峡の登山基地には駐車場、テント場、トイレ、売店、浴室等が在る。野外のテーブルで持参のレトルトの赤飯を食べていると、隣に座った同年代の男性に話掛けられる。浅草の方で一緒に出発、彼は千枚小屋との事で車道で別れる。千枚岳コースは緩い登りらしいが、私はのっけからの急登である事は地図で判る。
 ↓富士見平の朝
富士見平の朝  この"赤石東尾根"は別名"小赤石尾根"とも言うが、これはこの尾根が赤石岳の北に在る小赤石岳より派生するに依る。又"大倉尾根"とも言う、これは大倉喜八郎に由来する。

 この東海パルプ所有地は元大倉山林として喜八郎の持山で大正15年、88歳の翁は生涯一度でいいからと椹島より人夫200人を使い、赤石小屋を新築、駕籠で登ったという。

 この尾根は赤石小屋迄の約5時間、終始鬱蒼とした原生林の急登で、2ヶ所林道や木の間より山々が一寸見える丈で誰でも飽き々々するらしい。ソバナ、ボタンズル、ヤマハハコ、アキノキリンソウ、オクモミジハグマが咲く。林道を2回横切ったり沿って歩いたりする。ヤブサメが鳴き、樹相がシラビソ、シラカバ、ダケカンバ等亜高山帯となると、少し平になり尾根幅も広くなる。標高2000m位らしい。

 ↓朝陽の赤石岳
朝陽の赤石岳  セリバシオガマ、ヤマホタルブクロ、ヤマブキショウマ、コウリンカ、カニコウモリ、オトギリソウ、ゴゼンタチバナ、アカバナの花々そしてマイズルソウの実。

 ウラジロモミ、コメツガ等の樹々が混じり出すとハリブキ(蕾)ヒメヒゴタイ、コバノイチヤクソウそして岩場にはダイモンジソウが咲いている。ハリブキは大きな葉に棘が一杯付いている。

 14:15赤石小屋に到着、良く気の付く若夫婦がやっておられる。前後して登っておられた白髪の65歳という男性、大阪からで山歴も長いらしいが、もう年なので食事付小屋の所しか行けない、明日も山頂往復してここに又泊まるとの事。この方と大分話し込む。夕食は味噌汁とテンプラ。弁当を貰い19:00には寝たが、夜行の疲れも重なり鼾の人も少なくとても良く眠れた。

第2日 8/14 火曜日 快晴 赤石小屋→赤石岳→荒川三山→千枚岳→千枚小屋
 ↓カールのお花畑
カールのお花畑  夜中相当長く激しい雨が降っていたが、朝起きて見ると月が出て雲一つ無い。もう起きておられる奥様にお礼を云って3:45には懐電を手に小屋を出た。じめじめした道を登って行くと、やがて東方白み始め富士見平に着く。

 日の出を見ようと2人の青年が待っていた。夕べはテントで雨には参りましたという。東に白峰南嶺が笊ヶ岳を主峰に長々と横たわり、その上方に富士が朝焼けで白雲の上にポッカリ浮かんでいる。振り返ると赤石岳や荒川三山が威厳を持って立ち並ぶ。

 宿の御握りを1っ丈食べ歩き出す、小赤石岳への稜線(冬道)と別れ赤石岳との中間点、赤石のコルへのトラバース道へ。湿生お花畑に入り高山植物と次々に対面する。ウサギギク、ミヤマホツツジ、コバイケイソウ、ミヤマアキノキリンソウ、ヤマブキショウマ。樹々はナナカマド、ハイマツ、シャクナゲ、ダケカンバ・・・メボソがチチリ、チチリと鳴いている。赤石岳に朝陽が射すと赤っぽく雪渓も見えた。赤石岳の名の元、ラジオラリヤ板岩と思われる赤紫色の石を見る。海中の放散虫の死体だそうだ。
 ↓赤石山頂にて
赤石山頂にて  ハクサンフウロ(ピンク)、タカネグンナイフウロ(紫)、タチフウロ(白)。そしてオヤマソバは赤いのも混っている。イワユキノシタのような黄花があったが判らない。

 トモエシオガマ(シオガマギク)、ヨツバシオガマ、エゾシオガマ、タカネシオガマ等だが詳しい事は時間が無い。モミジカラマツ、ムカゴトラノオ、ヒナコゴメグサ、クルマユリ、ミヤマミミナグサ、シナノオトギリ、ホソバトリカブト、ミヤママンネングサそして草原で素晴らしい花の高地形であるタカネマツムシソウに逢う。

 テガタチドリを見て間も無く沢に出た、水を補給、展望台地に登り付くと漸く登山者も増えて来た。これからの道はとても苦しいがカールを横切る時は、お花畑となりミヤマキンポウゲ等の黄色で埋め尽くされ慰められる。イワオウギ、タカネウスユキソウ(タカネヤハズハハコ)、イブキジャコウソウ、ヒメヒゴタイ、イワギキョウ、エゾリンドウ。チングルマはもう早々と実を結んでいる。

 ↓奥西河内岳
奥西河内岳  稜線(赤石コル)に出た。荷物を置いて山頂へ。7:08遂に南ア南部の雄峰、赤石岳3120.1mに立つ! 

 360°見回すと北東に北ア、西に中ア、南は聖岳、上河内岳、大、小無間山が連なり、東は白峰南嶺の彼方に富士、北は荒川三山の遠くに塩見岳や白峰三山・・・前後して登っていた若者にシャッターを押して貰う。

 コルに戻り小赤石岳へ、ここからはハイマツの上に大きく立派な赤石岳を眺める。少し下った肩よりの谷を隔てた荒川三山の雄大な姿。暫し腰を降ろして眺め、改めて南アルプスの各山塊の巨大さに驚かされた。ここから見る限り東京近辺と違い林道、禿山のずたずたが全く見られない。

 奥西河内岳(前岳)西の凄まじい大崩壊をカメラに収める。足下には広大な準平原、大聖寺平がハイマツを草原のようにして横たわる。時々行き交う登山者が素晴らしいですねと声を掛けてくる。皆この感動を分ち合いたいのだ。
 ↓大聖寺平より悪沢岳
大聖寺平より悪沢岳  "大聖寺平"手前で似ているので付いた"ダマシの平"共に雄大な眺めで、高原全体が奥西河内の沢に飲み込まれるように傾斜している。この辺の縦走路のハイライトか。

 三山への登りに掛かる。花は終ったがギザ葉でそれと判るチョウノスケソウを見る。

 荒川小屋の上辺りで、椹島より逆回りの浅草の方にぱったり出会う。何処で会うかと思ったが意外に早いですねと言われる。これより聖岳迄行くつもり等短い会話を交わし、又何処かでお会いしましょうと別れた。名も告げず。山旅の楽しさと儚さを感じた。

 シナノキンバイ(黄)、ミヤマキンポウゲ(黄)、ハクサンイチゲ(白)等が群生する中、オヤマリンドウ、イワインチン、タカネコウリンカ等を見た。コマクサ様白っぽい草ハハコヨモギか。急登でコルに到着、ここでも空身で奥西河内岳を往復する、小広く展望は良い。戻り狭い魚無河内岳を過ぎコケモモの咲く平坦部で昼食。ガスコンロでインスタント・テンプラ蕎麦を作る。この後1時間陽に焼けぬ様ヤッケを着てトカゲ(山屋隠語、昼寝)とする。
 ↓荒川小屋上より小赤石岳
荒川小屋上より小赤石岳  タカネナデシコ、タカネスイバ、イワベンケイ、ミヤマウイキョウ、ヤツガタケタンポポ? 等を見ながら13:41悪沢岳3141mに苦しい登りで辿り着く。本邦6位、南ア3位の高さで、狭義の赤石山脈の最高峰だ。

 しかしもうガスが出て来て景色は殆んど駄目になった。イワヒバリが傍の岩陰で餌を漁っている。名の通り丸い丸山ではハイマツが大分骸骨の様に枯れていた。タカネヨモギ、ヒナザクラ? ミヤマダイモンジソウ(岩場)、タカネビランジ(岩場)、等。

 14:50千枚岳、赤石が良い眺めというがもはや何も見えずここより下山。ダケカンバの下草にマルバダケブキとサラシナショウマの多いお花畑を通って、千枚小屋に入る。人が多いが引水されて便利、夕食はハンバーグ。食後図鑑を見ていると道中前後していた青年が話掛け、一頻り植物談義となる。昨夜と一転して鼾が煩く余り良く寝られなかった。

第3日 8/15 水曜日 快晴 千枚小屋→椹島
 ↓魚無河内岳より悪沢岳
魚無河内岳より悪沢岳  今日も良い天気だ。ここからは朝の富士が良く見える。御主人に挨拶して未だ薄暗い内出発。チチリ、チチリと甲高くメボソが、チチー、チチーとルリビタキが鳴く。亜高山の鳥でルリビタキの方が少し上に居るそうだ。

 トモエシオガマ、カニコウモリ等を見ながらカラマツ、ウラジロモミ、コメツガ、シラビソ等針葉樹の中を只管下って行く。少し入った所に在る駒鳥池は、淀んだ小沼だった。

 シラカバ、ダケカンバの多い所で倒木の為やっと赤石、荒川が見えた。林道を何回か横切り着いた"蕨の段"は、シダが多く"清水平"は伐り開かれた平地だった。ヒヨドリバナ、エンレイソウ、ヤマトリカブトの花。水3分とあるが林道にも引水がある。マツ林で朝陽の中白峰南嶺を見ながらの一服、ウグイスが鳴く。ムラサキナギナタタケがあった。伐採で開けた所より荒川が見え、ここで時間の調整で1時間の休みを取る。

 小石下三角点は更に展望が良い。ナンブアザミ、ヤナギランが咲いていた。広葉樹林の下り、奥西河内の沢音を聞く頃は登って来る人と逢うようになる。タマアジサイ、ヤマアジサイ、ガンクビソウ、ヌスビトハギの花々を最後に吊橋より林道へ。椹島9:00のマイクロバスより畑薙湖で定期バスに乗り、富士見峠では一服停車、4:00掛けて静岡駅へ出て新幹線で帰る。今回天気は安定、午後の雷雨全く無しだった。

<荒川三山の山名>
地理院称長野称静岡称山梨称源頭
前岳荒川岳荒川岳奥西河内岳奥西河内の
中岳中岳奥西河内岳魚無河内岳魚無沢の
東岳東岳地蔵岳悪沢岳悪沢の
                  私採用↑

<コースタイム>
第1日:出発(タクシー)23:20→畑薙湖7:17→椹島8:20→赤石小屋14:15
第2日:出発3:45→赤石岳7:08→悪沢岳13:41→千枚小屋15:20
第3日:出発4:35→椹島8:58→静岡駅14:20→帰着16:50

<歩いた距離>  <行動時間>
山道歩行休止
第1日78:45→14:154:151:155:30
第2日183:45→15:209:002:3011:30
第3日124:35→8:583:201:004:20
37km

<掛かった費用>交通費¥15980 小屋代¥7300 計¥23280
<使用地図>昭文社4万 南ア南部  地理院2.5万 赤石岳

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