青山白雲  80.08.13〜15南アルプス 甲斐駒ヶ岳 2965.6m
水〜金 夜行2泊3日 単独    黒戸尾根→甲斐駒ヶ岳→早川尾根

 遂に憧れの南アルプスに足を踏み入れた。計画は鳳凰三山迄だったが、疲れて手前で打ち切った。天候不順にも拘わらず行く先々だけは晴れる幸運だった。小屋泊まりも今迄に無く楽しいもので、植物も盛期は過ぎていたが結構見られ想い出多い山行となった。

<コース>第1日:韮崎駅→竹宇駒ヶ岳神社→黒戸山→7合目小屋泊
       第2日:→8合目御来迎場→甲斐駒ヶ岳→駒津峰→仙水峠→早川尾根小屋泊
       第3日:→広河原峠→広河原ロッジ→甲府駅

第1日 8/13(水) 晴 竹宇駒ヶ岳神社→7合目小屋泊
  甲斐駒ヶ岳
 新宿23:55発最終列車に乗るため初めてアルプス広場に並ぶ。約800人、22:10ホームへ、楽に座れたが2:00も待たされるのは辛い。しかし大部分のパーテイ登山者はそれを楽しんでいる風だった。

 夜行列車が韮崎に着いたのは3:35、約20名下車、早速配られる登山者カードに記入して駅前広場に出る。タクシーで行く者もあり15名位になる。バスは5:30なのでベンチで少し寝る。

 やがて空が白らみ始めツバメが飛び交い出す。茅ヶ岳が近いが雲が多い。握飯を食べていると程なくバスが来て、山へと向かう。山屋ばかりなので30分掛かる終点迄止らない。

 釜無川沿いに北西に向かうのだが、右手に七里岩の断崖が延々と続き、寝不足でトロトロとして幾度頭を上げても同じ景色だ。帰って調べたら駅起点で約12kmもあった。

 神社横より尾白おじら川に架かる吊橋を渡り、長大な黒戸尾根の末端に取り付く。日本三大急登と言われる。原生林の美しさは南アルプスの雰囲気を充分感じさせてくれる。道はやがて尾根通しとなり、崩落地点を越すとやや下り気味になる。先行の人は引き返して来て、どうも沢に下るようだと言う。尾根に戻ると男の子と女の子とお父さんの3人連れが尾根方向へ行くが、尾根道は正規とは思えず戻るとそれで良かった。後で小屋で会った親子に聞くと途中で道が無くなり右へ下りたら我々の道に出たとの事。

 ミヤマウラボシが生える岩の急登が続く、刃渡り手前で先程の親子に会う。奥まった所で食事中追い越したらしい。3人共元気良く男の子がリーダーだ^/^ 刃渡りは足幅で左右切れ落ち針金に掴り夢中で渡る。アキアカネが飛び交い、ウスユキソウ、ミヤマホツツジの花、梯子の急登が続く。花は無いがハリブキ、オサバグサが見られる。

 イチヤクソウ科の腐生植物、ギンリョウソウが3本馬の首の奇怪な形をして白く直立。セリバシオガマ、ミヤマアキノキリンソウの花は全行程に見られた。マイズルソウも花は無いが多い。ゴゼンタチバナは場所により花無し、花、実とあり。カニコウモリも目立たぬ花を着けている。5合目小屋を過ぎると鎖の急登、ミソガワソウ、ミヤマアカバナ、キンレイカの花、そしてミヤマダイモンジソウの小花が岩陰にあった。ツガ、シャクナゲの樹の下にコケモモがビッシリ、カラマツの野生あり。

 14:40、7合目の小屋に入る。泊客は20名余、小屋番のおじいさんの話は面白く、甲斐駒が北岳より高く3200mなんだが、北岳を2番目にして仕舞ったので認めないのだとか。小屋東方の2165mの双児峰(宮ノ頭?)が本当は双児山というのに、駒津峰先の双峰、各標高差があるのに、そちらの有力者が手を廻し双児山として宣伝に利用しているとか、何処迄本当か判らぬ話が延々と続く。

 国体のルートとして建替える話があるが、山岳信仰団体は反対しているそうだ。(その後この小屋は国体前新築されたとか)凄い岩場には足掛かりが削って付いているが、高齢の行者でも鎖丈で登るという。マウンテンサイクルを担いで登った人がいたらしいが、機械物等使ってと怒っていた。ランプを灯し自然のままが良いというおじいさんは、人手が足りないので助手を務める女性2人によりカレーを配る。19:00就寝。

第2日 8/14(木) 晴 7合目小屋→山頂→早川尾根小屋泊
   ↓御来迎場で
御来迎場で  3:30若者1人出発したのに続いて私も起き水を詰め、お気を付けてと言うおじいさんに見送られ暗闇に向かう。4:30、8合目御来迎場着、先着の若者と山の話をしている内、5:00過ぎ奥秩父の上に日の出、左に八ヶ岳が雲上に、北は甲斐駒より続く鋸岳のギザギザの稜線、甲斐駒山頂は雲中だ。

 右に目を遣ると甲斐駒より東南に派生する摩利支天峰、そして早川尾根の彼方に北岳が朝陽に赤い。早川尾根続きに鳳凰三山が形良く地蔵岳のオベリスクもハッキリ見え、その左肩に富士。この日富士では岩雪崩が起き12名死亡の大事故ありと帰ってから知る。

 山頂へは花崗岩の白い岩肌の急登が続くが、ハイマツを始めて見る。森林限界は8合目への闇の内に抜けたらしい。トウヤクリンドウ、シラネヒゴタイ、ミヤマゼンコ等の高山植物の花。6:20南アルプス北端の雄峰、甲斐駒ヶ岳2965.6mに登り付く。竹宇駒ヶ岳神社より、11km、行動時間8:45を費やした。(差2200m) 
  ↓山頂より鳳凰三山 山頂より
 小社のある山頂からは勿論360°富士、鳳凰、北岳、仙丈岳、鋸岳、北アルプス、八ヶ岳、奥秩父。目立たぬ灰色の鳥が1羽岩に止っているのが淋しい。帰って調べたらイワヒバリらしい。摩利支天へザクザクと下る。登らず鞍部手前より尾根道へ戻る。

 この辺より花が多くなる。コバノツメクサ、セリバシオガマ、ミヤマホツツジ、コガネギク、ウサギギク、ミネウスユキソウ、ミヤマアキノキリンソウ、トウヤクリンドウ、シラネヒゴタイ、ミヤマコゴメグサ。木々はダケカンバ、ミヤマハンノキ、ミヤマナナカマド、コメツガ等。

 六方石より展望の良い尾根通しで360°の駒津峰へ、仙丈岳のカールが良く見える。親子組相変わらず元気にコンチワと登って来た。仙水峠への途中で先行の若者が綺麗な花ですと写真を撮っている。早速持参のポケット図鑑で調べると、ミヤマシャジンの群落と判る。通り掛かった若者も加え3人で暫し植物談義となる。
   ↓仙水峠より甲斐駒と摩利支天峰
摩利支天  仙水峠からは甲斐駒と摩利支天が、白崩山の別称がピッタリの白く頭上にのしかかるよう。花崗岩質は南アでも甲斐駒山脈だけらしい。関西の若者や例の親子と前後しながら栗沢山へ。ここも大展望だが鳳凰、北、仙丈、駒は雲中となった。私達はここでお昼よと笑いかける女の子、若者はコーヒータイム、私は岩陰で昼寝。

 岩場の苦しい道が続くが風が爽やかで助かる。アサヨ峰で追着いて喜ぶ親子と話が弾む。鳳凰は行ったが雨に祟られた、今日は同じ早川小屋で明日下山等。ミヨシの頭迄は岩場の激しい上下、左右はハイマツ、ダケカンバの森林だ。

 お花畑に出る。タカネグンナイフウロ、トモエシオガマ、アカショウマ、マルバダケブキ、イブキトラノオ、ミヤマキンポウゲ、ミヤマトリカブト、ヤマハハコ、ゴゼンタチバナ等咲乱れ。カエデダイモンジソウが1株岩陰に見付かった。数m先首の下の赤いオスとメスらしい1つがいはウソらしい。

 15:30早川尾根小屋に入る。倒れ掛かった酷い小屋で床も斜めだ。若者の小屋番、夏だけ居て他は開放との事。北岳の眺めが良いとガイドにあったが、樹が育ってしまい駄目、アサヨ峰のみ遥かに見えた。裏でアキタブキを栽培している。親子、関西の若者他10名。中央通路の半分を猛者もさ風4人パーテイが占め、反対側を親子、単独等の6人となる。夕食は缶詰がおかずだ。
   ↓早川尾根の山旗雲
山旗雲  関西の若者は北沢峠西の戸台から入ったが、マイクロバスが来ず甲斐駒を省略、明日は地蔵岳を経て青木鉱泉泊りの計画。小屋番の若者は子供達と仲良くなり、山の怪談話で怖がらせる。夜荷揚げしていると懐電で照すケルンがどうしてもお地蔵さんに見え、昼間だとケルンに戻っている話など。

 60過ぎという品の良い老婦人は山歩き3年目というが肩も足腰も確りしている。肩を叩く私にサロンパスをくれた。子供達に菓子をあげたり山小屋を楽しんでいるようだ。来る途中会った片手首の無い老人が、時間的に無理と判断し戻って来た。明日は甲斐駒、そして仙丈というので皆驚く。老婦人と山談義、植物談義に話尽きず皆賑やか、然し反対側の猛者パーテイーは終始だんまり、そして「うるせーぞ」の一喝で皆しゅんとなり19:00就寝。

 

第3日 8/15(金) 小雨後晴 広河原峠より下山
 暗い内から猛者連中が通路でゴウゴウとガソリンコンロを使い出し、寝ているどころで無くなる。食事を掻き込んで出て行きやっと静かになる。明けてみると小雨が降っている、今日は駄目らしいと下山に決める人、予定通り出発する人、私も疲れたので鳳凰三山は止め下りるとしよう。夕べ遅く着いた若者と朝食、甲斐駒へ行くと言うので参考になりそうな事を説明する。親子、関西、甲斐駒行、小屋番に挨拶、合羽を着け出発。

 広河原峠は樹林中の憩いの場だ。この後の山行で幾度も経験する南ア特有の急降下が始まる。シラビソ、ウラジロモミの原生林で、倒木の多い苦しい降りだ。休んでいる老婦人に追い着く、峠で弁当だったらしい。転ばぬ様に気を付けて下さいと言うと、もう2回滑りましたとの事。やっと沢に出て洗面、道も良くなりソバナ、クサボタン、ノコンギクの花を見る。蕾を持ったフジアザミの荒々しい棘の有る大きな葉には驚く。

 スーパー林道に出ると広河原は車とテントで埋っている。大樺おおかんば沢の奥に北岳はガスの中。マイクロバスで一路甲府へ、山を抜ける迄1:30も掛り、甲府の蒸暑い夏に投げ出される。山小屋等での人々との交流では、1人旅の良さを充分味わえた。

<コースタイム> 第1日:出発21:00→新宿23:55→韮崎3:35〜5:30→竹宇駒ヶ岳神社6:00→黒戸山辺10:30〜11:30→5合目13:00→7合目小屋入14:40  第2日:出発3:30→8合目御来迎場4:30〜5:20→山頂6:20→仙水峠9:15→アサヨ峰12:30〜14:00→早川尾根小屋入15:30  第3日:出発6:10→広河原峠6:30→広河原ロッジ8:30→甲府10:40→帰着14:20
<歩いた距離>第1日:山道10km 第2日:山道10km 
          第3日:山道4km 車道2km
<行動時間>第1日:6:00→14:40 歩行6:20 休止2:20  第2日:3:30→15:30 歩行9:30 休止2:30  第3日:6:10→8:30 歩行2:15 休止:05
<掛かった費用>¥12520(内、小屋代3700×2)
<使用地図>昭文社4万 南ア北部   
         地理院2.5万  甲斐駒ヶ岳/長坂上条/仙丈ヶ岳/鳳凰山
<地名の異称>甲斐駒ヶ岳→東駒(木曽駒の西駒に対し)、白崩山

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