「ロロ、どうして俺を助けた。俺はお前を・・・」
利用していただけ?分かってるよ兄さん、そんなことは。
現実なんて、真実なんて辛いだけだよ。今までずっとそうだった。
だから
ねえ、兄さん。嘘をついてよ。優しい嘘を。
優しくて甘い夢を見せてよ。いつも、みたいに・・・・・・。
残照
それは始め、僕にとって天から降って沸いた災難のようなものだった。ただ人を殺せば良いだけの簡単な任務ではなく、弟役としての潜入工作。学校生活、勉強に家事、誰かの家族であるということ、何もかもが初体験で慣れない事ばかり。しかも記憶操作されているとはいえ、対象から見て「以前と変わらない弟」を演じなければいけない。
そんなことは無理だ。誤魔化せる訳が、続く訳が無い。そう、思った。実際、始めの頃は右往左往して、眼が回りそうだった。
それに、兄さんの僕に対する異常な執着が鬱陶しかった。彼が嫌いだったし、正直、気持ち悪かった。
それなのに。確かにそうだったはずなのに。
いつの頃からか彼の、ルルーシュの弟であるということが苦痛でなくなった。
むしろ兄さんの執着が、愛情が心地よく感じられるようになった。ずっとこのまま2人で生活できたらいいのにと思い始めた。
誰にも壊されたくなかった。僕達の関係を、生活を。本来その愛情を受け取るべき「妹」であろうと。
でも、ナナリーは、その「妹」は死んだんだ。結果として僕が殺した訳ではなかったけれど、これは喜ぶべきことだ。目障りな咲世子も一緒に消えたし、これで邪魔者は居なくなった。兄さんの家族は僕だけで良い。
そう、思っていたのに。
「俺はお前が嫌いなんだよ、大嫌いなんだよ!」
「何度も殺そうとして、殺し損ねただけだ!」
「出て行け!二度と俺の前に姿を見せるな!」
ぶつけられた感情が、言葉が痛い。
ギアスを使った訳でもないのに、心臓が締め付けられるように痛んだ。
今まで優しい兄として振舞ってくれていたのは、僕を弟として扱ってくれていたのは、全部、嘘、だったんだろうか。自分が殺されないように、僕を利用するために、そして何より、ナナリーの安全を確保するため。それには兄さんの記憶が戻っていないと偽装する必要があったから。
ナナリーが居なくなったら、そんな偽装をする必要はない。だから僕はもう僕は不要だってこと?
でも
「はは・・・ははははっ。くっくっく・・・」
自嘲の笑いが漏れる。
分かっていたはずだ。兄さんの記憶が戻ったら終わりだって。期間限定の箱庭。崩壊の刻はあらかじめ設定されていた。
僕達は元々兄弟でもなんでもない赤の他人で・・・そんなことは知っていたはずなのに。
僕が認めたくなかっただけだ。兄さんの嘘にすがってでも。
夢の時間はもう終わりだってことを。終演のベルが鳴って、弟役はもう御役御免だったってこと。
僕が信じたかっただけだ。兄さんの嘘を。夢の続きを。
僕に未来をくれると言ってくれた。
「僕が弟だから」と命を助けてくれた。
僕の居場所を守ると約束してくれた。
シャーリーを殺したことを褒めてくれた。
僕達が幸せになるために、ギアス嚮団を壊しに行った。
それに、ずっとそれまでと変わらない優しい兄さんで居てくれた。
優しい甘い声で「ロロ」と僕の名前を呼んでくれた。
僕が、兄さんの傍に僕の居場所があるって信じていたかったんだ。
「信じて、いいの?」
「ああ。俺達、兄弟だろ」
嘘でも、いいんだ。
だって
兄さんが好きだから。兄さんの傍に居たいから。
兄さんの力になりたいから。
兄さんの弟で居たいから。
「二度と俺の前に姿を見せるな!」
もう、兄さんは嘘をついてくれる気はないんだろうか。僕の兄だという嘘を。
もう、兄さんのために僕にできることは何もないんだろうか。
僕の居場所は、もうここには無いのだろうか。
ルルーシュ、あなたの傍には。
あなたのために、何か――僕に、できることが
ある、かな。
まだ、何か。
(END 2008.08.30)
あとがき(反転)
ロロって、3話の「違う。兄さんはゼロじゃない」を見ると、自分の願望を信じ込もうとするタイプなんじゃないかと思うのですが(逃避型というか)、それまでの人生が現実を直視するには辛すぎたせいで、ずっとそうやって自分の心を守ってきたんじゃないかと思うと・・・とても切ないです。「兄弟」っていう偽の関係に縋っちゃったのはロロの弱さなのかなとも最近は思います。
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