神父さんと僕 その2―3

 7歳の誕生日にとうさんに貰った銃。
手に持つと冷たく、存在感のある重みを感じた。
そして、とても恐ろしかった。

 人を殺す道具だって。
扱いを間違えたら自分も傷ついて死んでしまうかもしれないって。
身を守るために必要だと言われても、怖くてたまらなかった。

 だからどうしても構える手が震える。
引き金を引く度に動揺する。

 そんな状態では一発も的をかすることすらできなくて。

 『あせらなくていいぞ。ゆっくり一つずつ覚えていけばいいんだ』
毎回そんな風にとうさんはなぐさめてくれたけど、瞳の奥でいつもとうさんは少しがっかりしてるみたいだった。
なかなか上達しない僕はとうさんを失望させているんじゃないかって、ずっと思っていた。



 とうさんの期待に応えたい。
今はより強く、そう思う。



 両手で銃を正中に構える。
ゆっくり息を整える。
銃身がぶれないように気をつけて照準器の狙いを定め、引き金を引いた。



 何度も姿勢を確認して、空撃ちを繰り返した後の実弾発射。

「お、今のは当たったぞ」

 獅郎は嬉しそうにそう言い、的をこちらに引き寄せて見せてくれた。
的の端に小さな穴が開いている。

「この調子だ。頑張れよ」

 骨ばった大きな手が両肩に置かれた。
その熱を感じながら、雪男はもう一度銃を構えた。




「お疲れ。上達したなあ、雪男」

 とうさんが嬉しそうに僕の頭に手を当て、くしゃくしゃと髪をかき混ぜた。
なんだか胸の中がざわざわする。
笑い出したいような、くすぐったいような変な気持ちだ。

「じゃあ、帰るか」

 頷いて手を差し出すととうさんが手を繋いでくれた。
とうさんの手が暖かくて、思わずぎゅっと握り返す。
自分の心臓の音がとくんとくんと鳴っているのが聞こえる。
触れた肌から何かが染み込んでくるみたい。
すごく嬉しくて気持ちいい。



 とうさんが喜んでくれるのが嬉しい。

 とうさんが褒めてくれるのが嬉しい。

 とうさんとふたりきりで一緒に居られるのが嬉しい。

 兄さんが知らないとうさんを知っているのが嬉しい。



 秘密も訓練も勉強も。

 なぜだろう、この間まで辛かったのが嘘のようだ。

 まるで灰色だった世界が急に色鮮やかに華やいでいくよう。



 とうさんの横顔を見上げる。
とうさんが好き、大好きだとしみじみ思った。
前から好きだったけど、今までとは何かが違う感じ。

 僕の視線に気付いたとうさんがこちらを見て、どうかしたかと瞳で問いかけた。

「とうさん。僕、頑張るね」

「そうか」

 安心したように微笑み、とうさんは大きな手で僕の頭をなでてくれた。



END (2011.07.25)



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