注・この文章はPG-12指定です。


神父さんと僕 その3

 ときに子どもというのは恐ろしい。自分の欲求に素直で一途で、世間体や大人の都合など全く考慮してはくれない。

「とうさん、大好き」
 雪男がそう言いながら獅郎のひざに乗り首にぎゅうっと抱きついてきた。
 そんな雪男はとても可愛い。本当に可愛い。頬ずりしてキスをして食べてしまいたいくらい可愛い。
「とうさんも僕のこと好き?」
「兄さんよりも好き?」
「どんな風に好き?どのくらい好き?」
 夢見るような甘い瞳で繰り出される矢継ぎ早の質問に『もちろん、とうさんはお前が大好きだよ』と答えながら、どこか嘘をついている気持ちになる。酔いつぶれた日にうっかり見せてしまった劣情には、やはりしっかり蓋をして鍵を掛けておかなくては。それなのに。
 雪男が引き出そうとしている答えはおそらくそこなのだ。
 踏み越えてしまった線より後ろには戻れなくて、でもまだ踏みとどまっている振りをする。親である俺と子である雪男という関係に。



 ふと眼をやった台所で、椅子に座った獅郎の首に雪男がかじりついているのが見え、双方の気持ちを知っている長友はギョッとした。
「甘えん坊だなあ、雪男は」
 獅郎がそう言いながら、雪男の身体をよしよしとなでている。
 雪男はまだ幼いのだから親子の情景として間違っている訳ではない。が、しかし。問題は雪男がうっとりと熱のこもった眼で獅郎を見ていることと、それ以上に。
 ・・・獅郎が雪男の身体をなでる手がいやらしく見えるのが、おそらく思い違いではないことだ。
(この腐れ聖職者がっ)
 口に出して罵倒しそうになるのを何とかこらえ、長友はふたりに近寄ると咳払いをした。邪魔をするなと言いたげな視線を向けられるが気にしてはいられない。
「雪男、勉強の時間ですよ」
「はあい」
 少し名残惜しそうにしながらも雪男は獅郎のひざから降りた。それでもまだ手は獅郎の腕を握ったままで、しばらく見つめ合う。獅郎が雪男の頭をなでる。
「頑張ってこい」
 くすぐったそうに微笑みながらうなずいて、雪男はやっと獅郎から離れた。

 長友の自室で雪男は小5の漢字ドリルに取り組んでいた。雪男はまだ2年生だが数年後には祓魔塾に飛び級で入学する予定であるから、それまでに読み書き計算、理科、社会などの基礎知識を習得しなければならない。各々の修道士が分担して教えているのだが、長友の担当は国語だった。今は主に漢字を教えている。
 大人たちにとって、雪男はとても教え甲斐のある良い生徒だった。漢字を機械的に覚えるのはそれほど難しくはない。しかし、雪男の吸収力は桁違いでいつも驚きの連続なのだ。雪男は読書量も多く文章を書くのも得意だが、「高校1年程度」にはまだ余裕があり、その分を補うため自分にまだ教えられることがあるという事実が、長友は純粋に嬉しかった。
 テスト代わりのドリルの丸つけをしていると、それを眺めていた雪男が口を開いた。
「ねえ、長友さんってとうさんと仲が良いよね」
「まあ、そうかな」
 雪男は少しうつむいて恥ずかしそうにもじもじした後、顔を赤らめて上目遣いにこちらを見た。
「あ、あのさ」
 手を止めて雪男を見る。
「・・・とうさんって恋人とかいるのかな」
 長友は眼をそらせた。思わずため息が出る。
「雪男は神父が好きか?」
「う、うん」
「で、神父の恋人になりたいのか?」
 返事はないが、見るとうつむいて耳まで赤くなっている。
「あのなあ、雪男。小さい子は大人の恋人になっちゃいけないんだ」
 残酷なようだが言っておかなければと長友は思った。
「え?」
 驚いたように雪男は顔を上げた。
「大きくなるまで待たないとな」
「いけない・・・ことなの?」
「そうだ。もし雪男が神父の恋人だって学校の先生に知られたら、雪男も燐もこの家には居られなくなるんだよ」
「・・・どうして?」
「法律でそう決まっているんだ」
 本当の理由は、力関係から大人が子どもを食い物にしているように見えるため世間体が悪いとかそんなところだろうが、取り合えず法律のせいにしておく。間違いではない。
「そう・・・なんだ」
 泣くだろうか。落ち込んでうつむく雪男を見ると、やはり心が痛んだ。



「なんか目、赤くない?雪男」
 休日はいつも昼まで寝ている燐が昼食を取りながら雪男の顔をのぞき込んで言った。言われた雪男はわずかにビクッと身体を震わせた。
「目、かゆくて。ちょっとこすりすぎたかも・・・」
「ふーん?」
 納得したようなしないような返事を返しつつ、それでもそれ以上深く訊こうとはせず、燐が雪男を見つめる。
「そだ、虫取り行こうぜ。クラスの奴らが公園にクワガタの幼虫がいるらしいって噂してた」
「クワガタ・・・?いるかな」
「いるさ。腐った木の中にいるんだぜ」
 雪男がこちらに問うような視線を向けてくる。獅郎は微笑んで頷いた。
「行ってこい。あんまり遅くなるなよ」
 急ぎ気味に食事の残りをかきこんで、燐が立ち上がり雪男の腕を引いた。
「じゃ、行こうぜ」
「ま、待って兄さん」
 慌てて兄を追いかける雪男の背中を見送り一息つくと、獅郎は食後の緑茶を差し出してきた長友を横目に睨んだ。
「雪男を泣かせたな」
「事実を教えただけですよ。ああ明け透けに表現されていたらたまらないでしょう」
「にしても、泣かせることないだろ」
 苛立たしげに獅郎がつぶやく。
「世間的には認められない感情なんですから雪男にも自覚してもらわないと。貫くなら誰にも悟らせないくらいでなければ」
「別に親子でいちゃついてたっていーだろー。まだ小さいんだし」
「もうごまかしが効かなくなってきてるんじゃないですか」
「・・・・・・」
「それに、俺は神父が恋人でも作って振ってしまった方が、雪男にとっては幸せだと思ってますよ。今一時的に傷ついたとしても、エロ中年の餌食になるよりはずっとマシです」
「なら、お前恋人役やるか?」
「嫌ですよ。これ以上嫌われ役やらせるつもりですか」
 心底嫌そうな顔で長友は獅郎を見下ろした。
「あきらめる気なんて、ないくせに」
 長友は背を向け、食卓を片付け始めた。
「・・・そうだな」
 自嘲の笑みが口端に浮かぶ。
「雪男の場合はそれが課題へのやる気に繋がっているから、一概に諦めさせた方が良いとも言えませんしね」
 それは獅郎も気付いていた。雪男に無理な課題を課しているのは分かっている。慕情がその負担感を軽減するのであればそれはそれで良いことのような気もする反面、そうやって幼い恋心を利用してまで小さい雪男に無理を強いる自分の浅ましさ愚かしさが心底嫌になる。
(まあ、今さら、か)
 もともと雪男の兄への愛情を利用して、従順な子どもを大人の良い様に型に嵌めようと画策したのは俺だ。
「まあ、ああ見えて雪男は根性がありますから、そう簡単に諦めるとは思えませんけど」
 ため息混じりの長友の台詞は、まるで自分の方が折れて主張を諦めたように獅郎の耳に響いた。



 それから数日は表面上何もないように進んだ。雪男が過剰にべたついてくることもなくなり、かといって課題に気乗りしないようでもなく、まるで時計を逆に回して、あの過ちが無かったことになったかのように平穏に過ぎていく日々。
 少し寂しく感じながらも、雪男が諦めたのならその方が良いだろう、と獅郎は思った。ただ時折背中にふと感じる熱を帯びた視線が気にはなる。
 そんなある日、廊下の壁にもたれかかって、燐が暗い顔で俯いていた。獅郎が通りかかるのを丁度待っていたようだった。
「とうさん」
「どうした」
 ただならぬ様子におそらく雪男のことだろう、と獅郎は思った。いつも明るい燐を暗い顔に変えられるのは雪男だけだ。
「雪男、毎晩こっそり泣いてる」
 思わずため息が出る。俺のせいか。俺の・・・
「何か思い当たることはあるか?学校でいじめとか」
「ない、と思う。俺が知る限りでは、だけど」
 燐の眉間にしわが寄る。自分にさとられない様に泣く雪男を、わざと普段平静を保っているように見せかけている雪男を、気付いていながらも慰めることができず、歯がゆい切ない思いをしているのだろう。
「教えてくれてありがとうな、燐。俺が聞いてみるよ」
 燐の頭をぽんぽんと撫でる。燐が弟を想う気持ちは純粋で、まぶしくもありうらやましくもある。翻って自分を見れば・・・ため息しか出ない。複雑な心境を押し殺して、獅郎は燐の髪をくしゃと混ぜるとその場を後にした。



「雪男、燐が心配してるぞ」
 勉強が終わって2人きりの部屋の中、横に座った獅郎に静かに顔をのぞき込まれ、雪男は戸惑った。
「・・・兄さんが?」
「ああ。『俺に気付かれないように毎晩こっそり泣いてる』ってな」
 バレていたのか、と息を飲み視線を下に落とす。
「どうした?とうさんにも言えないようなことか」
 言えない。とうさんには絶対に言えない。だっていけないことなんだ。
 雪男は下を向いて貝のように口を閉ざした。それを見て獅郎がため息をつく。
「なんで泣いてるのか、とうさんに教えてくれないか」
 優しい言葉をかけられると涙がこぼれそうになる。
「雪男」
 優しい声で名前を呼ばれるとたまらなくて、ぎゅっと眼をつむった。
 ふと、大きな手が頭の上にぽんっと置かれた。そのまま頭頂部を優しく何度か撫でられる。少しくすぐったいけど気持ちいい。顔を上げると心配そうな憂い顔。
 獅郎は雪男の眼鏡を外すと机の上に置き、雪男の頭を自分の胸にぎゅっと押し付け身体を抱きしめた。
「泣きたかったら俺の胸で泣け。独りでこっそり泣いたりするな」
 イヤイヤと首を振る。そんなに優しくしないで欲しい。諦めようとして押さえつけている気持ちがあふれてしまう。
 だって好きになっちゃいけないんだ。いけないことなんだ。だから・・・。毎日そう自分に言い聞かせているのに、とうさんを好きな気持ちが止まらなくて、恋しくて愛しくてたまらなくて。毎晩、涙があふれて止まらなくなる。胸が痛くて、張り裂けそうで。
「雪男」
 低い静かな温かい声。とうさんの声。優しい声。心にしみるよう。
 とうさんの手が僕の身体を撫でる。あったかい。身体にしみるよう。
「雪男」
 とうさんの声が僕を呼ぶ。身震いするほど、嬉しくてたまらない。瞳を上げると間近にあるとうさんと眼が合った。瞬間、ああやっぱりこの人が好きだ、好きでたまらないと思う。こみ上げる気持ちが涙として眼からあふれ出た。
「とうさん」
 とうさんの身体を抱き返す。ぎゅっとしがみつきながら額をとうさんの肩口に押し付ける。
「とうさん、とうさん」
 涙が全然止まらなくて、ひっくひっくとしゃくり上げながら泣いた。抱きしめられる腕の力がさらに強くなる。
「長友に何か言われたんだろう?」
 耳のそばで囁き声が聞こえる。
「何を言われたんだ?」
 答えようとして何を言われたのか順を追って思い出すと、それを伝えるには『とうさんの恋人になりたい』と言わなければならないことに思い当たり、血が沸騰して顔から火が出そうになった。耳も熱い。その顔を見られたくなくて、とうさんの胸により深く顔をうずめる。とうさんがため息をつくのが聞こえた。
「すまない、雪男。赦してくれ」
 突然謝られたことにびっくりして顔を上げる。
「なんで、謝るの」
 とうさんは曖昧に笑うだけで何も答えてはくれなかった。
 ストレートに気持ちや質問をぶつけても、いつも何かはぐらかされているのには気付いていた。とうさんは本当はどう思っているのだろう。『恋人にして欲しい』と頼んだら恋人にしてくれる?また、この前みたいなキスをしてくれるのかな。
 見つめているととうさんは僕の髪を優しく撫でてくれた。柔らかい眼差しに今にも溶かされそうな感じ。
 ふと気が付いた。そうか、秘密なんだ。いけないことだから、認められないことだから、だから何も言ってくれないんだ。
 秘密ならいいのかな?僕はとうさんを好きでいてもいいのかな?
 雨がやんで雲が切れてうっすらと日が差し込んできたような気分で、雪男はふっと笑みを浮かべた。



「ただいま」
 仕事の付き合いで久々に酒を呑んだものの、どうしても1ヶ月前の失態を思い出してしまって気持ちよく酔うことができず、早々に抜け出して獅郎は帰宅した。
「お帰りなさい早かったですね」
 食堂でくつろいでいた長友が出迎えた。
「まあな」
 とぼとぼと前を通り過ぎた後、一応確認しておこうと獅郎は振り向いた。
「子ども達は」
「もうとっくに寝ていますよ」
「そうか」
 低いテンションのまま自室に向かい、安楽椅子に腰を埋めると額を押さえ、深くため息をつく。気持ちよく呑めないのならいっそのことやめてしまうか。そんな気分にすらなる。
(ん?)
 何かが動いた気配がして眼をやると、ベッドがいくらか膨らんでいる。獅郎は近付くと上掛けを剥がした。
「雪男?!」
 驚いて声を上げると、布団の中に眼鏡をかけたまま丸くなって眠っていた雪男が眼を覚ましてのっそりと起き上がり、眠そうに眼をこすりながらベッドの上に座り込んだ。
「あ、とうさん、お帰りなさい・・・」
 まだとろんとした眼をパチパチとしばたたいて、雪男がふんわりと笑った。
「ここで何してるんだ、雪男」
 こくりこくりと眠気に負けそうな様子の雪男を見て、獅郎は脱力すると隣に座り込んだ。雪男が寄りかかってくる。眠い子どもの重みと熱いくらいの体温が感じられた。
 近づけるなと頼んだのにと、内心舌打ちしつつ雪男の方を見る。おそらく待っているうちに眠くなって寝てしまったのだろうが、呑みに行った日を狙って忍んでいたのだから確信犯だ。
(こういうのを夜這いって言うんだぞ、雪男)
 動機は訊かぬまま、このまま寝かせてごまかしてしまった方が良い。そう判断して雪男の眼鏡を外しサイドテーブルに置くと、頭と身体を抱きかかえてそっと横にした。身体の下から腕を抜いたとき、雪男のまぶたが開き不思議な碧の大きな瞳が姿を見せた。わずかに潤んだ瞳が艶っぽい。
 寝かしつけるのに失敗したと感じるのと同時に、勢い雪男を組み敷くような体勢になっていることに獅郎は焦った。雪男の薄く開いた唇が動く。
「とうさん」
 雪男の腕が頭の後ろに回り込む。
「キスして」
 雪男は囁くと、迷う獅郎の頭を引き寄せた。
「お、おい、ゆき・・・」
 語尾を飲み込まれる。軽く唇を触れただけで顔を離すと、何故か雪男が不満そうな顔でこちらを見上げていた。
「そういうのじゃなくて、こう」
 再びくちづけた唇から小さい舌が遠慮がちにこちらに割り込んでくる。途端、過日の失態が何であったかが分かり頭が痛くなるものの仕方がないと腹を決め、獅郎は雪男の舌に自分の舌を絡めて吸い上げると、今度は雪男の口中に侵入した。
 息継ぎができずに苦しそうな様が初々しく、可愛いらしい。思わず笑みが出る。
「息は鼻でしろ」
 一度唇を離し、瞳を見つめてそう言うと、また深くくちづけた。小さな口腔を貪るように蹂躙する。罪悪感がむしろ欲望の窯に火をくべ、背徳感が背筋のしびれるような甘美さを演出する。
 ふいに、大粒の涙が雪男の瞳からこぼれ出た。
「おい、泣くなよ」
 言いながら涙を唇ですくい、泣きぼくろにもくちづける。雪男の首筋に顔をうずめ、抱きしめた。
「とうさん、好き」
 雪男の囁きが耳をくすぐる。
「俺も好きだよ、雪男。愛してる」
 そっと囁きかけ、抱きしめる腕の力を強めた。
「本当に?」
 顔を上げて瞳を見つめる。
「ああ、世界中の誰よりもお前を愛してるよ。雪男」
 優しく額を、髪をなでる。しばらくなでてから、もう一度ちゅっとくちづけ、身体を離すと横に寝転がり肘をついて雪男を見下ろした。雪男がこちらを向いて丸くなる。その背を逆の手の肘で抱きこんでまた髪をなでる。
「けどなあ、雪男。酒呑んできた日はやめてくれ。頼むよ」
 ため息混じりに告げると、雪男は不思議そうな顔をして首をかしげた。
「どうして?」
「とうさんはいつもは隠してるけど本当は狼なんだ。だから、雪男は食べられちゃうかもしれないぞ」
「食べられちゃうの?」
 少し怯えを浮かべた瞳がむしろ煽情的で、獅郎は一度深呼吸をするとぐっと腹に力を込めた。
「酒呑むとさ、我慢が効かなくなるときがあるんだ。だから、俺に近付かないでくれ」
「・・・・・・はい」
 何か言いたげに、上目遣いで雪男が獅郎を見た。表情を緩めて促すと、赤面して何度かためらった後にやっと口を開いた。
「あのね、とうさん」
「なんだ?」
「じゃあ、お酒呑んでないときでもああいうキスしてくれる?」
 思わずため息が出る。
「分かったよ。でも、みんなには内緒だぞ」
「うんっ」
 雪男がとても嬉しそうに笑った。可愛いなあとつられて笑いながら、頭をなで額をくっつける。
「好きだよ、雪男」
 もう一度軽くキスをして、それから雪男が眠りにつくまで背中をとんとんと優しく叩いた。



「行ってきまーす」
「行ってきまーす」
 明るい声を響かせて、双子は学校へと向かって並んで歩き始めた。
「なんか、良いことあった?」
 雪男の顔をのぞき込んで燐が言った。
「えへへ、ないしょ!」
 弾けるように笑って駆け出した雪男を追いかけながら、雪男、元気になって良かったなと燐は思った。



「とうとう手を出しましたね」
 吹っ切れた様子の雪男を見て思うところがあったのだろう。長友がそう言ってきた。
「明るい朝の風景に何を言う、長友」
 じと、と睨まれ、思わずため息が出る。
「・・・最後の一線は越えてねーよ」
「当たり前です」
 はあ、と長友が息を吐いた。
「まあ、いいですけど。周りに迷惑かけないで下さいよ」
「分かってるよ」
「それから、ちゃんと責任取って下さいよ」
 そう言い捨てて長友は向こうへ行ってしまった。
 責任って何だよ、と思いつつ、まあこの歳で浮気もないだろ、と思う。
 老いらくの恋、か。そう思うと自然と口端に笑みが浮かぶ。

 まさに、『怖るる何ものもなし』だ。

END(2011.08.09)



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