実際に起きた残酷な物語
私が、労働トラブル防止に力を入れるようになったのは、顧問先で起こったあるトラブルがきっかけでした。その顧問先は、運送業で、従業員が20名程の会社です。
ある月曜日に用事があり、その会社を訪ねると、社長様が、神妙な顔つきで一枚の内容証明を私に手渡しました。
その隣には、暗く落ち込んだ様子の奥様が座っていました。
それは、先日、わずか1ヶ月間程で退職した従業員から送られてきたもので、内容を読むと、不払い給料と雇用契約違反による精神的損害の支払い要求、そして支払いがされない場合には、労働基準監督署に訴える、といった内容が書かれていました。
それを読んだ私は、どうしてもこの退職した従業員が言っていることに無理があると思いました。
そこで、私は、「社長、この方を雇う時に雇用契約書を交わしましたか?」と尋ねると、「丁度、その時、忙しくて、給料とかの条件は、口頭でしか伝えていないんだよ」
もちろん、顧問社会保険労務士ですから、従業員を雇用する時には、口頭でなく書面で条件を通知して下さい、と指導していたのですが、たまたま、その従業員の時だけ口頭で済ましてしまった、とのことです。
私は、自分の指導不足も後悔したのですが、実は、私が、労働トラブル防止に力を入れるようになったのは、この後に、社長様と交した会話なのです。
運送業は、運ぶ商品が工場での部品なのであれば、比較的、土曜、日曜も休めることはできるのですが、この会社では、食品や日用雑貨も運送しており、しかも、かなり遠距離まで運んでいました。ですから、深夜にトラックが走ることも珍しく無く、会社は、まさに365日、24時間稼働している状態です。
もちろん、人員に余裕があれば、社長様や奥様も休みを取ることも可能でしょうが、ご存知のように、運送業は、輸送コストの削減で、業界自体が非常に厳しい状態です。
ですから、人員もギリギリで経営する必要があるため、どうしても、経営者にそのしわ寄せが行ってしまいます。こちらの会社の社長も奥様も、ほとんど休むことなく、朝から夜遅くまで働いていました。
「先生、これが届いたのは、先週の金曜日なんだよ。実は、日曜日にうちの娘のバレーボールの試合があって、女房と見に行くのを楽しみにしていたんだけど、こんな手紙がきて、本当にたった1ヶ月で勝手に辞めていった従業員に何十万円も支払わなければならないのか?払わなければ、監督署に訴えられるのか?って不安になってしまって、とても試合なんか見に行く気分になれなかったんだよ・・・。」
きっと、社長と奥様は、久しぶりの休みに、娘さんのバレーボールの試合を見に行くのをさぞかし楽しみにしていたことだと思います。私は、今でも、その時の奥様の悲しそうな顔、そしていつもは強気な事ばかり言っている社長の何ともやりきれないない表情を忘れることができません。
私は、この時、労働トラブルというものは、いかに経営者の方に不安やストレスを与えるものであるかということを痛感しました。
逆に言えば、いかに労働トラブルを起こさせないかを考えることが、経営を行う上で非常に大切なことだということも実感しました。私は、その時以来、労働トラブルを防止するには、いかに対策を講じれば良いのかを考えるようになりました。
私は、これまでの経験から、労働トラブルが起きる原因は、就業規則や雇用契約書の充実、退職届の整備等、いくつかのポイントに絞られるのでは?と考えました。
実際、この会社のトラブルも、そのポイントをしっかり理解していれば、決して起きなかったと言えます。
私は、社会保険労務士として、どのような事で最もお客様のお役に立つことができるのか?ということを考えた時に、労働トラブルを防止し、労務管理の適正化を実現することで、お客様の会社の更なる発展に貢献したい、という思いに辿りついたのです。
■ 15年にわたり労働トラブル防止と労務管理適正化で企業発展に貢献
開業以来、一貫して労働トラブル防止に取組んできて、数多くの企業の労務管理適正化実現に尽力してきました。また、セミナー等を通じて労働トラブル防止、適正な労務管理の重要性を伝え続けています。
■ 就業規則作成実績100社以上
労働トラブル防止、労務管理適正化において重要な役割を果たす就業規則の作成実績は、100社以上となります。それぞれの企業に潜むリスクを的確に把握し、それぞれの企業に適した就業規則の作成を行い、企業の発展に貢献しています。