NO.11 巴里編その6「こいこい大戦シャノワール編(後編)」
暫くの休憩を挟んでから、再びこいこいが開始された。まずはコクリコ対花火である。
「それじゃ花火、よろしくね。」
「こちらこそよろしく、コクリコさん…。」
こうして、こいこいの準決勝の幕が切って落とされたのであった。
「はい、これでカス2文ね。やめ!」
「あらあら、まあまあ…。」
予想通り、派手な役の無い地味な展開となった。
「あら、タンですね。月見酒と合わせて4文になります。これでやめます…。」
「う〜ん、やられちゃったな。」
「あ〜、見ていてイライラする!もっと派手な役は作れないのか!」
ロベリアは、地味な取り合いにイラついていた。
「ま、こんな程度でイラついてたらアタシの敵じゃないね。」
グラン・マは余裕の表情を見せていた。
結局この1本目は、お互いが3文ずつまで減ったところで、花火がタンとタネ2文の合わせ技で勝利した。
「花火って意外に勝負強いんだネ。ボク、驚いちゃった。」
「いえ、そんなことないですわ。恥ずかしいです…。ぽっ…。」
続いて2本目に入った。今度は打って変わって、まずコクリコがいきなり三光を決めた。
「へっへ〜、今度は調子いいみたい。」
コクリコは機嫌が良くなり、ニコニコしていた。
「あら、今度は負けてしまいそう…。」
逆に花火は弱気になってしまった。
「花火さん、大丈夫です。神様が味方についてます!」
エリカは花火を励ますように応援した。
「エリカ〜、ボクには味方がないの〜?」
コクリコは、一寸意地悪くエリカに話しかけてみた。
「もちろん、コクリコにも神様が味方します。」
「じゃあ、結局、どうなの?」
「勝負は、時の運って言うことです!」
エリカは、力一杯、力説した。
「エリカ〜、言ってる事が支離滅裂だぞ!。」
グリシーヌは、いつもの事ながら呆れていた。
「あら、青タンが出来たみたいです…。ぽっ…。」
そうこうしている間に、何時の間にか花火が大きな役を作っていた。
「ではもう少し…、こいこいです…。」
ここでさらにこいこい。花火はまだ大きな役を狙っているようだった。
「え〜〜!困っちゃったなぁ。」
コクリコは、困ったような素振りを見せていた。
しかしながら、コクリコの方は、もう1枚あれば赤タンが完成する状態、
しかも後もう1枚の松の赤タンは、コクリコが持っていた。もちろんエリカと違って表情には出さないが。
「まだ勝負はわからないですね。おもしろいですぅ!」
シーは、いつものように、はしゃいでいた。
「もう、シーったら少し落ち着いたら?」
メルは、これまたいつものようにシーに釘をさしていた。
「ようし、赤タンが出来た!こいこい!」
コクリコは、ここで賭けに出て一気に勝負をつけようとした。
ところが…、
次の花火の番で、何と桜と桐の光札が出てしまったのだった。
花火はそれを見事に両方取る事が出来た。青タンに加えて三光も役に加わった。
「あら三光も追加ですね…。やめ。」
「あちゃ〜、ついてないな〜。」
結局、ストレートで花火が勝ち決勝に進んだ。
「さあて、ようやく本気になれそうだ。グラン・マ、勝負だ!」
「おやおや、熱くなってるねぇ。手加減はしないよ!」
そして、ロベリア対グラン・マの、事実上の決勝戦といえる戦いの火蓋が切って落とされた。
「ほらよ、これでカス2文だ!やめ!」
ロベリアは、意外なほど慎重にスタートした。まあ百戦錬磨の相手なだけに当然ともいえた。
「なんだ意外と冷静だねぇ。頭に血が昇ってると思ったのに…。」
「いや、ゾクゾクしてるよ。久しぶりに全力を出せそうだ…。」
両者の間に、まるで火花が散っているような、妙にピリピリした空気が漂っていた。
いつもはクールでやる気のなさそうなロベリアだが、珍しく真剣な表情をしていた。
たかが遊びとはいえ、しばらく退屈が続いていた為、勝負に飢えていたかもしれなかった。
「はい、タンとタネで3文、それと花見酒で6文か…。やめ!」
グラン・マは、お返しとばかりに、やや大きめの役を決めた。
「う〜ん、流れがよくないな…。」
ロベリアは、沈痛な面持ちをした。どうやら、このままの流れでは、負けそうと感じたようだった。
「ロベリアさん、頑張って下さい!グラン・マなんかコテンパンにしちゃってください!」
エリカは脳天気なほど元気に、ロベリアを応援した。
「エリカ、減給にされたいのかい?」
グラン・マは、にっこり微笑んでエリカの方を見た。
「ははは・・・・」
さすがのエリカも、苦笑いを浮かべていた。
「さて、どんどんいくよ。一気にケリをつけようかねぇ。」
グラン・マは、メルの時とは打って変わって、積極的に攻めていった。
やはり、流れはグラン・マの方にあるみたいだった。
「それ猪鹿蝶だ。これで決まりだ。やめ!」
終わってみたら、1本目はグラン・マの圧勝だった。心なしかロベリアの表情が強張っていた。
「ちっ、どうやって流れを変えるべきか…。」
ロベリアは、やけに真剣になっていた。一寸、近寄りがたい雰囲気だった。
「ひぇぇ、ロベリア、怖いよぉ。」
コクリコは、ロベリアの表情を見て、怖がっていた。
「コクリコさん、静かに見ていましょう…。」
花火は、ロベリアを優しい眼差しで見守っていた。
「さあ続きをやるよ。遠慮しないでかかってきな。」
「ああ、好きにやらせてもらうさ。」
こうして、2本目がスタートした。
「そら、タンとタネで3文。やめ!」
「・・・・」
相変わらずロベリアはグラン・マにおされていた。まだ勝負の流れは変わらないらしい。
後1枚というところでグラン・マにやめられてしまうので、まだ1文も取れてなかった。
ロベリアの残った文数は6文…。大きな役が来たら終了である。
さすがにロベリアの表情が変わってきた。
このままの状態では、グラン・マ」に何もさせてもらえずに終わってしまう。
「何か、きっかけがあれば、流れは変わるんだが…、さて…。」
ロベリアは、配られた札を睨んでいた。
(ん?これは…。)
顔には出さないが、心の中で、ニヤリとした。
(最後のチャンスだな…)
ロベリアは、このチャンスに賭けに出てみることにした。
まずは持っていた桜の光札と出ていた赤タンを取った。そして出たのは梅の赤タン。
うまい具合にそれも取る事が出来て、いきなり赤タンがリーチになった。
しかも松の赤タンは場に出ている。いきなりのチャンス到来だ。
「おやいきなりこうきたか。でもさせないよ。」
グラン・マは自分の番にて、場に出ていた松の赤タンを取った。これでロベリアの赤タンは消滅した。
「やっぱりか、甘くないな。でもまだ終わってない…。」
次の番で、持っていた菊の杯で場に出ていた菊の青タンを取った。そして出たのは鹿。
場に出ていた紅葉の青タンが取れて、今度は青タンがリーチになった。
とたんにグラン・マの顔色が変わった。残念ながらグラン・マのこの番では何も取れなかった。
続いてのロベリアの番、持っていた猪でタンを取った。
これでタンが5枚揃った。もちろんこいこいをする。
グラン・マの番では、梅のカスを取れただけだった。今回はグラン・マの調子が悪いみたいだった。
思うように札が取れない状態だった。
「いけそうだ。一気にケリをつけるぞ!」
ロベリアは持っていた桐の光札を取った。場に出たのは蝶の札。
これを取れれば、完全に流れが変わりそうだった。
それに対してグラン・マは牡丹の札は持ってなかった。グラン・マの顔がひきつった…。
「だめか…。」
続いての番は、ロベリアも場には取れる札は無かった。
しかしながら…
「何だと?」
そこでめくって出たのは、何と牡丹の青タン!これで一気に猪鹿蝶と青タンが完成してしまった。
「もちろん、やめだ!」
これで一気にカタが付いてしまった。無念そうな顔をするグラン・マ…。
「よし、これで流れが変わりそうだ…。」
ロベリアがそっと呟いた。勝負はこれで混沌として、どうなるかはわからなくなってきた。
さらに緊張の度合いが高まった気がした。
そして、3本目。
両者、序盤にロベリアは猪鹿蝶、グラン・マは雨四光を決めたが、
それ以降は低い役で少しずつ削る事になり、残りはロベリアは3文、グラン・マは2文となった。
この勝負もクライマックスが近づいてきたようである。
「恐らく、次で決まるな…。」
結末が近い事を感じ取って、ロベリアは慎重になった。
配られた札は決して良くは無い。しかしグラン・マも同様のようだった。
ロベリアは、カス狙いで札を集めていった。対してグラン・マは、タネ中心のようだった。
「一寸、厳しいな…。でもこのゾクゾクした感じがたまらないねぇ。」
好勝負になって、ロベリアは如何にも嬉しそうだった。
「流石はギャンブラー…。アタシをここまで苦しめるとはね…。」
グラン・マも満更ではなさそうだった。
そしてクライマックスが近づいてきた。ロベリアはカス9枚とタン4枚(うち、赤タン2枚)
グラン・マは、タネ4枚とカス8枚が出来ていた。
そしてロベリアの番で…、
場に出たのは桜の赤タン。見事に赤タンが完成しロベリアの勝利に終わった。
「さすがだね…。やられたよ…。」
グラン・マはロベリアに握手を求めた。
「いや、どっちが勝ってもおかしくなかった。久しぶりにいい勝負をしたよ。」
ロベリアは、グラン・マとガッチリ握手をした。
事実上の決勝戦といえる戦いは、こうして終了した。
あまりに緊張感あふれる戦いに、みなただ黙って見ているしかなかったのであった。
少し休憩を挟んで、いよいよロベリア対花火の決勝戦が始まった。
「グラン・マに勝ったことだし、サクッと終わらせようかねぇ。」
「お手柔らかにお願いします…。」
二人はお互いに向き合った。
「花火じゃ、さすがにロベリアには勝てないよね。」
「うむ、残念ながらな…。しかし一矢ぐらいは報いてほしいがな。」
コクリコとグリシーヌは、二人を見つめながら呟いた。
「まずは軽い挨拶代わりだな。こいこい!」
ロベリアはタネ1文を簡単に作った。どうやら大きい役を作って、一気に勝負を決めるらしい。
「あら、困りましたわ…。」
花火は本当に困ったような顔で呟いた。
しかしそれとは裏腹に、光札が2枚と杯の札が集まった。
(何だと?ちっ、予定変更だな…)
このままでは花火の方が大きい役になってしまうので、ロベリアはタネをもう1枚取って逃げることにした。
だが思ってる札が出ず、何も取れなかった。
「では…、失礼…。」
花火が出したのは桐の光札。一気に三光、月見酒、花見酒が完成した。そしてさらに…、
「あらまぁ…。」
さらに続いて場に出たのは松の光札。その結果、四光になってしまった。
月見酒、花見酒も加わって何と、一気に勝負がついてしまった。
「もちろん、やめです…ぽっ。」
意外にも花火が先手を取った。まさに予想外の展開である。
「はっはっは、やられたよ…。この借りは3倍にして返すからな。」
心なしか、ロベリアの顔が引きつっていた。
「さっさと続きをやるぞ、早く準備しな!」
さっきの事が余程ショックだったのか、ロベリアがイラついているようだった。
「は、はい、ただいま…。」
怖い顔を見せたロベリアに、花火は少々怖がっていたようだった。
「さっきのはマグレだろうからな。アタシの実力を見せてやるよ…。」
ロベリアはグラン・マと戦った時のような真剣な顔つきになった。
(ちっ、また流れが変わったのか?まずいな…)
今回はロベリアの元には、たいした札が来てない様だった。
対照的に花火の方には、いい札が集まっている様だった。
(こいつは、さっさと逃げた方がいいな)
ロベリアはタネに狙いを定めて、すぐにやめようと思った。
しかし今回もなかなか思う札が出なかった。
逆に花火の方は、赤タン、青タン共にリーチがかかり、さらに、ススキと桜の光札も出ていた。
(ようやくタン4枚か。何とか逃げられそうだ)
ロベリアが安堵の表情を浮かべた次の瞬間、悲劇はおこった。
花火が出したのは松の赤タン…。場にあったのは光札で三光完成。合わせて12文。
そしてめくって出たのは菊の青タン。場にあったのは杯…。
タン2文、赤タン、青タン、月見酒、花見酒、おまけに三光。合わせると…、何と26文!
「まあ、何て鮮やかな…。私、勝ってしまいました。ぽっ…。」
「ば、バカなぁ〜」
まさか一文も取れずに敗北するなど、全くの予想外だった。ロベリアは呆然として何も言えなかった。
「すごい、すごい、花火の優勝だぁ!」
コクリコは大袈裟に喜んでいた。逆にロベリアは、あまりのショックに何も言えなかった。
「いや、花火が勝つとは思わなかったよ。ちょっと困ったねぇ。」
グラン・マは少々困った顔をしていた。
「オーナー、どうなされたのですか?」
メルは心配そうに、グラン・マの方を覗いてみた。
「いやあねぇ、勝つのはアタシかロベリアだとばかし思っていたからさ、用意した賞品がねぇ…。」
そう言いながらグラン・マは、何やら瓶らしき物を出した。
「ムッシュ迫水から貰ったブランデーだけど…。」
「ああ!?それは、最上級のカルバトゥス…。まだあったのか!」
グラン・マが取り出したのは、プレミアもののブランデー。
以前ロベリアは、迫水からこれをブン取った事もあるほどの上物だった。
「花火、お前は酒なんか飲まないだろ?アタシに寄こしな!」
「いえ、父が好きなので土産にします。いい物を用意出来ました…ぽっ。」
「ロベリア!未練がましいぞ!いい加減、諦めるんだな!」
グリシーヌの言葉に、ロベリアは何も反論出来なかった。
「ちくしょう!リベンジだ!明日はコテンパンにしてやる!」
「言っとくけど、もう賞品はないよ…。」
「あんだと〜!」
相変わらず、賑やかな巴里の連中だった。
帝都までの道程は、まだ半分少々…。あと、2週間弱はかかりそうだった。
しかし、ドタバタは続きそうである。
帝都にて両花組が再会した時、一体何が起こるのだろうか?