NO.10 巴里編その5「こいこい大戦シャノワール編」(前編)

 

 

ひょんな事から始まった、こいこい大会、くじの抽選の結果、組み合わせは以下の通りとなった。

 

    コクリコ対エリカ

    花火対シー

    メル対グラン・マ

    グリシーヌ対ロベリア

 

「じゃあ、最初は、ボクとエリカだね。」

「エリカ、エンジン全開で頑張ります!」

かくして、波乱万丈、抱腹絶倒、七転八倒のこいこいが華やかにスタートした。

 

まずは緒戦という事で、皆が注目していた。花火が札を配っていった。

貰った札を見てにこやかな顔をしているエリカに対し、コクリコは無表情だった。

性格上、嘘のつけないエリカは、もろに表情に表れていた。

実際にエリカの札は、なかなかいいものが揃っていたようだ。

対してコクリコはまずまずといったところであろうか。

「あ、これで光札が2枚。これで持ってる桜で三光ですね!」

「エリカぁ〜、自分の持ってるのを、いちいち喋らないでよう…。」

いちいち喋りながらプレイするエリカは、賭け事にはまるで向いていないようだ。

ま、エリカらしいといえば、それまでだが…。

「やった、三光が揃った!もちろん、こいこいです!」

「残念でした。はい、タンとカスで二文ね。やめっ。」

「あうぅ…。せっかく揃ったのに〜。」

「エリカは、自分のしか見てないんだもん。相手の札の様子も見ないとね!」

…どう考えても、コクリコの方が年下には見えない、そんなやりとりだった。

「やった、猪鹿蝶だ!あ、月見酒とタネもだ。ええと、これで10文だネ。やめっ!」

「え〜ん、コクリコの苛めっ子〜。」

「やっぱりエリカには、勝負事は向かないな…。」

グリシーヌも今更ながらそう思っていた。

この後もコクリコが無難に進めていき、エリカを圧倒していた。

結局エリカは何も出来ないまま、この勝負は終了した。

コクリコの圧勝で、2回戦に進んだ。

 

 

「次は、私たちの番ですね。ヒューヒュー!」

「宜しくお願いします…。」

続いてはシーと花火の対戦だった。賑やかなシーと物静かな花火、いかにも対照的な二人だった。

「あ〜、何でこの札が出るわけ〜?せっかく今取ったのに〜。」

「では、これを…。」

「あっ、ずるい〜、私が取ろうと思ったのに〜。返して〜。」

「いただきます…。」

「…何だか、噛み合ってるのか、噛み合ってないのか、わからないねぇ。」

ロベリアは、二人の対戦をじっと見ながら呟いた。

意外なことに、無難な行動をとると思われていた花火だが、時には大胆に勝負に出たりしていた。

「これは…雨四光ですね。まあ、月見酒と花見酒もつきました…ぽっ。」

桐の光札をとって、一気に勝負がついた様だった。

「花火さん、強いですぅ。紅蘭さんに何か教わったんですかぁ。」

シーは、大きい役で上がった花火に感心していた。

「いえ、そんな事ないです…。」

消え入りそうな声で、花火は呟いた…。

2本目はシーが赤タンを決めて逆転するかと思われたが、花火はタンやカスを少しずつ決め、

最後は三光と花見酒の合わせ技でシーを振り切った。

「え〜ん、負けちゃいました〜。残念ですぅ。」

シーはショボーンとした表情で呟いた。

「あら勝ってしまいました。どうしましょう…。ぽっ…。」

花火はいつものしぐさで顔を真っ赤にしていた。

「へぇ〜、花火が勝ったんだ。てっきり、ボクはシーが勝つと思ってたよ。次の対戦、よろしくね。」

「コクリコさん、よろしく…。」

これで、2試合目も、無事に終了した。

 

「次は、あたしたちか…。メル、手加減はしないからね。」

「ウィ、オーナー。よろしくお願いします。」

続いては、グラン・マとメルの対戦。1回戦屈指の好カードといえた。

 

先程までは、どちらかというと穏やかな雰囲気の中、ゲームが行われていたが、

急に緊張感が漂いはじめた気がした。明らかに空気が変わっている、そんな感じだった。

周りにいる人も息を潜め、じっと見つめていた。そんな中でゲームが始まった。

「メル、たかが遊びなんだからもっと肩の力を抜きな。緊張しすぎ。」

「ウィ、オーナー。」

そんな事をいわれても、メルの表情は固いままだった。しかしゲームは意外な展開を見せる事になった。

「タンとカスで、二文。やめです。」

「堅実だねぇ。でも、時には大胆に勝負する事も必要だよ…。」

まずはメルが地道にコツコツと決めていた。グラン・マの方は、あまりいい札が来てない様だった。

「はい、月見酒とタネ。四文でやめです。」

結局、地道に札を取り続けた結果、1本目は、メルが取った。

予想外の展開に、皆、意外そうな顔をしていた。

「グラン・マが殆ど何も出来ないなんて、メルって強いんですね。」

エリカは、圧勝したメルに感心していた。すっかり身を乗り出している。

「まあ、これは運にもよるからね。次は負けないよ。」

グラン・マは、まだ余裕の表情だった。

しかしメルの勢いは止まらない。

少しずつ取った後で、ここぞとばかりで三光を決めてしまった。殆どメルの勝利が確定的になってきた。

メルの十五文に対し、グラン・マは、三文…。もう後がなかった。

「さすがに困ったねぇ。でもまだチャンスは…、あるよ。」

崖っぷちのはずなのに、何故かグラン・マには余裕があった。

「これに賭けようか、それ。」

まず松とキキョウの光札をたて続けにとった。どうやら大きい役になりそうだった。

「よし、これで三光だ、もちろん、こいこい!」

「さすがオーナー、やりますね…。」

対照的に、メルの方は、札が取れないでいた。

「よし、これで四光。こいこい!」

「え?まだ、こいこいですか?」

やめとばかり思っていたメルは、唖然としていた。

「これでもう少し、追加するよ。」

周りは固唾を飲んで見守っている。果たしてどうなるのだろうか?

しかし両者とも札がとれず、延長戦になった。どこかからため息が聞こえてきた。

「この勝負、メルの勝ちだな…。」

ロベリアだけでなく、皆がそう思っていた。

緊張の一瞬。メルが札をめくる…。しかし、メルは何も取れなかった…。

続いてグラン・マの番。めくって出たのは…、柳の光札…。そして場には柳の札がある。

何と土壇場で五光が完成してしまった。これには皆びっくりした。

「まったく…、悪運だけは強いんだな…。」

ロベリアは、まさかの大逆転劇に感心していた。

「さ、反撃開始だよ。覚悟しときな。」

勢いは完全にグラン・マへと傾いた。こうなってはメルにはどうしようも出来なかった。

大胆に攻めるグラン・マに対して、メルは成す術もなかった。

勢いは止まる事もなく、3本目はグラン・マの圧勝。グラン・マが2回戦に進んだ…。

「完敗です。さすが、オーナー…。」

まさかの逆転に呆然としながらも、メルも感心していた。

「いや結構苦戦したよ。メルもなかなかやるじゃないか。」

グラン・マは非常に感心していた。

 

「さ〜て、ようやくアタシの番だね。軽く捻ってあげようかねぇ。」

「甘いな、逆に捻り潰してやる!」

最後は、ロベリア対グリシーヌ。一触即発の危険な対戦である。

グラン・マとメルとの対戦とも違う、危険な空気を感じていた。

この二人が対戦したら何かが起こるのでは?と花火はびくびくしていた。

 

そして、予想通り怒号の飛び交うゲームとなっていた。知らない人がみたら

ケンカでもしているように見えたであろう。そんな感じだった。

「ほらよ猪鹿蝶だ、やめっ!」

「ロベリアにしてやられるとは…、何たる事!悔しい!」

1本目はロベリアの圧勝だった。グリシーヌはカスで一文取るのがやっとだった。

「何回やってもアタシには勝てないよ。顔洗って出直してきな!」

「うるさい!勝負は最後までわからぬものだ!次を見ておけ!」

相変わらず両者は喧嘩腰だった。まるで巴里版すみれとカンナの口喧嘩のようだった。

それにしても心臓に悪いと思える。ハラハラドキドキのしっぱなしだった。

打って変って、2本目はグリシーヌが好調だった。

「それっこれで四光だ、やめっ。」

「なかなかやるじゃないか。まぐれってやつかい?」

「やかましい!実力だ!」

どうやら喧嘩腰は最後まで続きそうだった。

「これで勝利間違いなしだな。見たか、ロベリア!」

「勝負は…、まだ終わってないよ。素人にゃわからないだろうが、ツキはまだこっちにあるみたいだ…。」

「負け惜しみを言うな!」

「あの、グリシーヌ、喧嘩はしないで…。」

熱くなっている親友に、花火は心配そうな顔をしていた…。

「ほら、ツキはまだこっちのものさ。そら青タンだ、やめ!」

カッカしているグリシーヌをよそ目に、しっかりと青タンを決めたロベリアだった。

「うぬぬ…。」

対象的に、悔しそうな顔をしていたのは、グリシーヌだった。

結局、その後タンやカス、月見酒を決めたロベリアが勝利した。

「ま、所詮は素人。アタシの敵じゃないね。」

「く、無念…。」

「勝負あったようだね。次もおもしろい勝負になりそうだ。」

グラン・マは、微笑みながら呟いた。

 

 

これで1回戦は無事?終了した。そして、準決勝の組み合わせは…

 

コクリコ対花火

グラン・マ対ロベリア となった。

 

それにしても…、ここまで終わるのに大騒ぎだった。

結局、皆、はしゃいで疲れたようなので、少し休憩を入れる事になった。

ずっと退屈な日々が続いていたので、こんな事にでも皆、熱くなれるのだろう。

さてさて、どんな結末を迎えるやら…。