NO.3 巴里編その3 「いざ行かん、帝都へ」

 

「ふ〜ん、そういう話があったのか…。」

飲み終えたシトロン・プレッセのストローを弄りながら、コクリコが話した。

「何度も聞いた話だけど、グリシーヌらしいわ。」

花火もにっこりしながら、囁いた。

「それでそのモイアさんっていう人、今も踊ってるんですか?」

無邪気な顔をして、エリカが質問する。

「残念ながら、もう、劇団は解散している。あんな事にならなければ…。」

グリシーヌは、表情を曇らせた。よっぽどの事があったと思われる。

「訳ありってやつだね。まあ、言いたくなければ、言わなくてもいいけどさ。」

ロベリアは、さも興味なさそうにしゃべった。

「すまない、モイアは愛蘭には事情があって居られなくなった。今は、東の方にいる…。」

「東っていうと、まさか…。」

「そう、モイアは今、帝都にいる…。」

グリシーヌは遠くを見て、そっと呟いた。

「だから、私の我儘だが…、もう一度、モイアに会って、成長した私を見てもらいたい。

そして、もう一度、モイアの、あの踊りを見てみたい…。」

グリシーヌは、一気に捲くし立てた。

「皆で、あの踊りを踊りたい。モイアに見てもらいたい…。」

 

「そういう事なら、任しちゃってください!神は申されました…。」

エリカは、自信をもって語り始めた…。しかし…。

「はいはい、わかったよ。協力するよ。」

「ロベリアさん、話の途中ですけど…。」

「困った人がいれば、助けるんだろ。拗れる前に止めただけだ。」

「・・・。」

エリカは何も言えなくなってしまった。今回はロベリアの勝ちのようだった。

「う〜、ロベリアさんの、いけず〜。」

エリカは言いたい事を先に言われて悔しそうだった。

逆にロベリアの方は、勝ち誇った顔をしていた…。

「ボクも協力するヨ。グリシーヌ、そのダンス、ボクにも教えてヨ。」

「私も協力します。是非モイアさんに、見てもらいたいです。」

コクリコも花火も、すぐに呼応する。

「みんな、すまない…。」

グリシーヌは、少し嬉しそうな顔をしていた。

「グラン・マ、そういう事だが、いいか。」

「おもしろそうじゃないか。いっそのこと、帝都の連中も、誘おうか?」

グラン・マは認めてくれただけでなく、さらにおもしろい提案をした。

「一緒にやるのがカンカンだけじゃ寂しいだろ。

グリシーヌの話だと人数が多い方が見栄えがいいみたいだし。どう、やってみようか?」

「グラン・マ…。」

グリシーヌの表情が、輝いた。

「是非、やりましょう!力を合わせれば、出来るはずです!」

「ボクも頑張る。頑張って覚えるヨ。」

「素敵です。是非とも、成功させましょう。…ぽっ。」

「面倒くさいけど…、まあ、たまにはこんなのもいいか…。」

みんなの意見が呼応する。

「…ありがとう。皆に感謝する。」

グリシーヌは、感謝の気持ちで一杯だった。

「決定だね。もう一度帝都に連絡をとってみるよ。」

こうして初めての共演の話が現実となりはじめ進み始めた。

 

 

「ところで、ボク達が留守の時、巴里は、誰が守るの?」

コクリコは心配そうな顔をしてもっともな質問する。

「確かにずっと留守にしますから、どうしましょう…。」

さらに花火も心配そうな顔をする。

「大丈夫です。出かける前に神様に祈っていきますから。」

「それですんだら、華撃団は要らないだろ。ろくな事言わないな。バカだからか。」

「ロベリア、ちょっと言いすぎ。」

コクリコはロベリアを窘めた。ロベリアはバツが悪そうだった。

「心配には、及ばないよ。ジャン班長、いるかい?」

少ししてからジャンと迫水が入ってきた。

「大丈夫。巴里は、僕が守るから。安心していくといい。」

迫水は、皆を諭すように話した。

「心配しなくても、秘密兵器を開発中だ。もうすぐ、完成する。」

ジャンは、自信を持って答えた。

「こいつは、帝都の神埼重工の協力を得て…。」

「今日は、もう遅いから、説明は、また今度にしてくれ、ジャン班長。」

グラン・マが、話しているジャンを遮る。

「おいおい、何の為に呼ばれたんだよ…。」

ジャン班長は何も喋る事が出来ず、不満タラタラだった。

「班長が語りだすと長いからねぇ。」

すかさずグラン・マがそれに答えた。見事に釘を刺すことに成功したようだった。

「…とにかく、巴里の事は俺と迫水支部長に任せて、安心して帝都にいってくるんだな。」

「心配は要らない。私が必ず巴里の平和を守ってみせる。」

ジャンと迫水は、胸を張って宣言した。

「でも本当に二人だけで大丈夫?」

「大丈夫ったら、大丈夫だ!」

「ホントに〜?」

ジャンとコクリコの、ちょっと下らない遣り取りが続いていた。

「ウダウダ言ってると…。」

「セーヌ川に叩き込むだろ?いいかげん、聞き飽きたよ。」

呆れて聞いていたロベリアが、突っ込みを入れる。今日は突っ込みが冴えていた。

「おいおい、そりゃ無いだろう。」

シャノワールに笑い声が響き渡った…。

 

「私、帝都に行けるんですね。夢じゃないんですね。」

エリカは本当に嬉しそうな表情を皆に見せていた。

「エリカ、隊長に会いたい気持ちは皆一緒だぞ。」

グリシーヌは、エリカを窘める。もちろん、自分自身も楽しみにしている。

「もちろん、大神さんに会えるのも楽しみですけど、だって、だって…」

「ん、どうした?」

「だって、今度こそチョンマゲを見れるんですもの!!」

あまりな発言に、一同ズッコけた。

「エ、エリカ〜、まだそんな事言ってたのか〜。」

完全にグリシーヌは呆れていた。すっかり力が抜けてしまったようだ。

「あら、私も見てみたいですわ、チョンマゲ…。」

再び、一同ズッコけた。

「花火〜。」

グリシーヌは、もうどうにでもしてくれ、といった顔をしていた。

「アタシは、ウタマロを拝めれば、それでいいけどさ。」

ドサクサに紛れて、ロベリアは、とんでもない事をぬかしていた。

「ウタマロ?喜多川歌麿の事でしょうか?浮世絵の大家でしたね。」

花火のこの手の知識は豊富だった。もちろんロベリアが何を指して言ってるのかはわからなかったが。

「ロベリア、まさか、盗むんじゃないよね?」

コクリコが、口を尖らせて、喋った。

「心配するな。盗みは、もうしないよ。」

下手に突っ込まれると後が面倒だ、と思いロベリアは、お茶を濁した。

「さあ、もう遅いから今日は休みな。詳しい事は決まってから言うから。」

そんなこんなで今日は、これで解散となった。

 

 

それから色々と準備を始めた。手間はかかったが、皆、帝都に向かう日を楽しみにしていた。

まだ見ぬ異国の地、帝都。

一体、どんな出来事が起こるだろうか?