叙述トリックと07年NHK教育語学教養番組


*ここで話題に出す07年NHK教育語学教養番組「新感覚わかる使える英文法」は、08年10月から半年間再放送される事が決定しました。

つまりこのスキット紹介は思いっきりネタバレになります。ご注意ください。

追記更新(2008.09.23)

オチが全部解ってから見返すのも、またそれはそれで伏線や何やらをチェックする為に推理小説を二度読みする感じで結構おもしろいな。

追記また更新(2008.10.08)


一見まるで関係のなさそうは2つの事柄を並べたタイトルをつけましたが、まずは叙述トリックについての解説から。

以下の文章を読んでみてください。

娘「おじいさん、おばあさん、今まで私を育ててくれて有難うございました。
 お二人の愛情のお陰で、私はこんなにも成長しました。」
 爺「おお、姫や。行かないでおくれ。」
 婆「姫がいなくなってしまったら、これからわしら二人はどうしたらいいのですか。」
 娘「お二人とも、泣かないで下さい。壷の中には不老長寿の薬が入っています。
 これを食べて、いつまでも長生きしてください。」
 爺と婆はおい/\と泣くばかりであった。
 迎えの者「そろそろ時間がありません。」
 娘「さあ、名残惜しいですが私は月に行かなくては成りません。」
 爺「姫や、行かないでおくれ……」
 娘「さようなら、おじいさん。おばあさん。月を見たら、私のことを思い出してください。」
こうして娘は行ってしまった。



その数日後、おじいさんとおばあさんは日本人女性としては初となる、
 月面着陸のミッションを行った宇宙飛行士の漬けた梅干しをTVで自慢した。
 婆「姫ちゃんはお勉強やスポーツだけでなく家事も得意な本当に自慢の孫娘です。」
 時は21世紀、まさに日本の宇宙開発創生期のことであった。

ようは読者の思い込みを利用したひっかけ文章の事です。ミステリなどでは読者へのミスリーディングとして用いられます。性質上この映像技術が発達した時代においても叙述トリックメインの文章を映像化するのはなかなか困難だそうです。

文章のままでもブログなどで叙述トリックの短文を貼り付けた所のコメント欄を読むと大概荒れています。文章の意味が理解できていない人達が勘違いでこの文章は間違っていると叩き始め、彼らに意味を解説する人達がまた勘違いしているといった具合です。

もしくは単純にその叙述トリックの文章がスマートではなく誤解され易いという場合も勿論ありますが。個人的には上のかぐや姫の叙述トリックはそんなに上手い部類ではないかなと思いますが、その代わり基本的過ぎるのでコメント欄は荒れていませんでした。

さて、もう一例。

地下室の扉

アンナは幼い頃から両親に、決して地下室の扉を開けてはいけない、と注意されていた。
 開けたら最後、もうお父さんやお母さんと会えなくなってしまうのよ。アンナはそう言い聞かされていた。
 両親と会えなくなるのは嫌だ。アンナは両親の言い付けを守り、地下室の扉には手も触れなかった。
 しかし、アンナの、扉を開けたいという欲望は年々増していった。
 そして、アンナの12歳の誕生日、両親がプレゼントを買いに出かけている間に、アンナは地下室の扉を開けてしまった。

そして、アンナは、本当に両親と離れ離れになってしまった。

翌日の朝刊に大見出しで記事が載った。
 「12年間地下室に監禁されていた少女、救出される。」

「上手いな」と私は思っていたのですがブログのコメント欄を見るとまたえらく荒れていました。この文章がおかしくて間違っているのは、最後の文章の単語が「救出」ではなく「保護」だろうという事だけだと思うのですが。

コメント欄ではアンナは外ではなく中にいたと解説している人達もいましたが、それに反論する人達もいました。それだけだったら良いのです。読者の心理を逆手に取ったトリックですから理解されづらい性質も持っているでしょう。それでも苦し紛れか本気でそう思っているのかは知りませんが凄い事を言っている人達もいました。

曰く、「別に虐待をしているわけじゃないんだから、子供を地下室で育てるのは単なる教育方針だ。両親が逮捕されてしまう言われは無いからこの文章は間違っている!」

いつの時代の教育方針だ。

****

さてここからは07年NHK教育語学教養番組の話をします。外国語講座は色んな国の言語がありますが、英語はやはりメジャーであるだけ番組も何種類もあります。

その中で今回は週4回1日10分間放送された「新感覚わかる使える英文法」の話をします。1日10分間と言えども週4回を半年間も続けていれば実に100回+オマケ4回も放送されました。私がその半年の間に書いた番組についてのサイトの雑記を時系列順に並べます。

その前にスキット(ショート劇)についての説明です。語学番組は大体生徒役の子とネイティブの人と大学の先生による解説パートと外国語オンリーで演じられるスキット(ショート劇)パートで構成されています。そしてそのスキットパートの外国語の文章を解説パートで説明をするわけです。

この07年前半期に放映された「新感覚わかる使える英文法」のスキットは、マヌケな国際特別捜査官のJackと彼に仕事を依頼したラボの研究員Nancyの2人だけでほぼ半年間演じられていました。

国際特別捜査官のJackはラボの研究員Nancyに何故か猫を探すように依頼される。Jackは最初は馬鹿馬鹿しいと思っていたのだが、Nancyは何故か大金を持っていた。どうやら猫はラボにとってとても重要なものらしいのだが、Jackは何故捜査官が務まるのか不思議なくらいオマヌケでNancyはいつも彼に振り回される。というのが基本設定です。

5月2日の雑記

ここ2ヶ月以上NHK教育番組の英会話を見続けている。週4日で1回10分の番組と週1で1回20分の番組を見ている。ただしリアムタイムで一回見ただけでは理解できないのでビデオに録画してノートに書き写しながら見返して勉強している。

まだ2ヶ月強なので仕方ないかもしれないが、本当に英語力が付いているのかどうかがどうにも疑問だ。

でもタッチタイピングの練習をしていた時も、半年以上毎日々々練習していたらある日突然出来るようになったので、継続する事が大切なのかな。1年もやっていれば少しは使えるようになるかなあ。

番組は両方ともスキット(ショート劇)の日本語訳は出していないので(テキストには載っているだろうが買う気はしない)この番組は中学高校と真面目に英語をやってきてそれでも話せない人向けの番組だろうなあ、と思った。丸っきり英語が解んない小学生とかが見ても無理だろう。

ただし新感覚英文法の方はタイトル通り感覚に訴えてくるので英語の基礎が解っていても人を選ぶと思った。抽象的に教えてくるので、すっと飲み込めれば本当に新しい感覚が身に付くんだがねえ。

あと突っ込みたいのはスキットの内容だ。マヌケな特別捜査官のJackがNancyという女性から猫の捜索を依頼される。しかしその猫はただの猫ではなくラボから何かを持ち出していて・・・。

と言う内容なんだかまさかこれから半年間、猫の捜索の様子を見せられるのか?あとJackは確かにマヌケだが、「一切の質問は禁止」(じゃあどうやって探せと)で東京の下町や明治神宮や東京タワーを見物に行かせるNancyも大概だと思うぞ。

あとはこの2人のトレンチコートの懐は四次元ポケットか?そこから何でも取り出してくるし。

今週解った新事実は、2人が探している猫は読み書きが出来て数ヶ国語を話せるんだそうだ。どんな化け猫よと思うだろうが、実は研究室が作ったサイバーキャットらしい。その猫が書いた絵を手がかりに、JackとNancyは浅草の雷門に向かう・・・。ってまた東京見物かよ!あと絵が描けるってその猫どんな化け猫よ!

何か凄いって行ったら、こんな会話を今週の英文法に沿って行っているのが凄いわ。この脚本家は何者よ。それとこのスキットは全部英語なのでサイバーキャットを東京見物を理解しなくちゃいけない視聴者の身にもなってくれ!

まずは最初の月を見終わった頃の文章です。それでも既に16回は見ていたので「Nancyの情報の小出しっぷりじゃどんな優秀な捜査官でも調べようが無いだろ」などと考えていました。

6月15日の雑記

日々レポートには追われていますが、それでもNHK教育の英語番組は週4で見ています。

新感覚英文法の方は、その名の通り1日10分新感覚で抽象的に説明してくるので真剣に見ないと付いていけません。

しかしJackは何者なんだろう。日本のことをよく知らないし。いや、Nancyが詳しすぎるんだ。Nancyは一体どんな研究所に勤めているんだよ。

サイバーキャットという異常な存在になれつつある自分がちょっとヤダ。トランシーバーからとはいえ猫が喋っている・・・。この番組はどう見ても予算を割いていないから多分このままサイバーキャットは姿を見せずに9月まで行くんだろうなあ。逆に登場したら凄くショボくなりそうだ。

探している猫(サイバーキャット)についての情報が明らかにされつつあるけれど、化け猫過ぎて余計に解らなくなった頃です。ちなみにスキットの舞台は東京都内に限られていました。

7月29日の雑記

NHK教育の英語教養番組の『新感覚英文法』は7月から名詞編に入ってくれたおかげで大分楽になった。1日10分間が謳い文句の番組だが、その10分間で膨大な量の情報を矢継ぎ早に送ってくるので相当集中しなければならず、動詞編の3ヶ月は毎日息が詰まって仕方なかった。

この番組のスキット(寸劇)のサイバーキャット探しは相変わらす変だ。

失敗したら2人ともNorth Pole送りにされるのに、何でこいつらはのんきにボート漕いだり釣堀に行ったりもんじゃ焼き食べたりしているんだよ。

というより North Pole(北極)送りって凄いな。普通せめてまだ土地のあるシベリアかアラスカ送りではないか?冷戦が終結してから、失敗した捜査官の収容所もますます酷くなっているらしい。

“シベリア送り”のワードがNHK教育にふさわしくないのだろうか。

それにしてもだんだんJackとNancyの正体がサイバーキャットよりも気になってきた。北極送りにされる組織に在籍しているのにもんじゃ焼きを優先させる肝の据わりっぷりは何だ?

Nancyはネイティブなのだけど、日本文化に異様に詳しいのは台本としても、顔つきが西洋人にしては淡白で日本語が異様に上手いのでネットでプロフィールを調べたら『日本人』と書いてあった。

父がアメリカ人のハーフで日本の普通の高校を卒業したらしい。

この番組はNHKの英会話講座に独自につけられているレベルの目安で、レベル3〜4(中学3年〜高校レベル)と位置づけられている。らしいがそれにしてもついていくのが大変だ。油断するとあっと言う間に向こうに行ってしまう。

講師の田中先生のプロフィールを見たら、この先生は慶応の教授で応用言語学者らしい。言語学者なんだ。だからあんな内容なんだ。

6ヶ月中4ヶ月分を見終わり、そろそろ疑問が膨れ上がってきた頃です。言い忘れていましたがスキットの内容は全て英語で、この番組では日本語訳は出てきていません。テキストには書いてあるでしょうが買っていませんでした。

しかし意味はつかんでいたはずなので、話の展開に重要なフレーズや伏線は把握していたと思います。

9月3日の更新

英語もいよいよ大詰め!まさか猫探しで半年かけるとは思わなかったわ。結局サイバーキャットは何者なんだろう?

サイパーキャットの顔が少し見えたが陶器みたいな顔だな。去年やっていた番組の辞書猫TANGOくらいの能力はある猫だといいが。

ここでようやく辞書猫TANGOの事を思い出していました。「新感覚わかる使える英文法」の前番組(講師は一緒)に出てきたマスコットのCG猫の事です。辞書猫というくらいですから先生やネイティブの女の子と一緒に解説役をこなしていたスーパー猫でした。

9月13日の更新

英語はいよいよ大詰め!なのだかこのサイバーキャット探しはあと一週間で風呂敷がたためるのか?「実はNHKの撮影でした!」というオチじゃないだろうな。

このスキットを半年間1つのストーリーとしてみていくと、何週間もだらだら過ごすと思ったら突然ヒントが沸いて出たりと、勉強用だから仕方ないかとも思うが上手なストーリーテイリングとは言えなかったな。

この前「サイバーキャットはせめて辞書猫TANGOくらいの外見はあって欲しいな」と思ったら、本当にTANGOそのものの外見をしていた。声は多分違うと思うけど。

なんでこれに気づかなかったんだろう。新感覚英単語の後番組で凄い猫が出てくるなら辞書猫TANGOの可能性は高いだろうに。

来週がいよいよ最終週なのでどうなるのかは楽しみだ。

9月最終週の4回はオマケ回だったので、9月13日の時点ではもうラストに入っていました。しかし今考えてみればここまで切羽詰っても私はまだのほほんとしていましたね。

9月30日の更新

9月13日の雑記でも書いたが、新感覚英文法!え〜この番組の説明パート部分は最新の応用言語学に基づいた本当に新感覚の表現英文法を放送してくださり、かなり力が付いた気がします。
 「新感覚」という謳い文句は巷にあふれていますが、本当に新感覚だとついていくのが大変だという事がよく解った番組でした。田中先生には本当にお世話になりました。

さてスキット部分ですが、ここ半年間雑記でも書いてきましたが本当に猫探しで半年間使うとは思いもしませんでした。最初の4ヶ月間は東京観光、次の2ヶ月間は箱根観光。最後の2週間で怒涛の展開。

最後の2週間でいきなり「後2時間以内にサイバーキャットを捕まえないと私たちは抹殺される」とNancyがJackに泣きながら訴え、しかしNancyは視聴者に向かってウインクする。しかも今まで散々ロケをしてきたのに最終週の舞台はNHKスタジオで、Nancy曰くラボから逃げているはずのサイバーキャットはNHKテキストの表紙に載っている。しかもJackはとても捜査官とは思えないくらいのオマヌケ・・・。

なので「まさか『実は撮影でした』オチじゃないだろうな。しかしこれは真面目なドラマじゃなくてスキットだからなあ。逐次今日の英文法に沿った会話を書く脚本は凄いと思うが、風呂敷をたたむ気はないのかな?」

と思ったのだが・・・まだ撮影オチの方がマシだった。

Nancyが全ての黒幕だったのか!いきなり特撮の女ボスみたいなのに変身した超展開にも驚いたが、Jackがそれを予測していてNancyの一枚上を行って「忘れたのかい。俺は優秀なインターナショナルプライベート捜査官なんだぜ」にはもうただただ真夜中なのに本当に叫んだ。

ようし、整理をしよう。

Nancyが初めに状況説明した「私はラボの職員で、そこで研究していたサイバーキャットが逃げた。私と貴方(Jack)は悪い奴らにサイバーキャットを連れてこいと言われた。失敗したら私達は北極送りにされる」は全部Nancyの嘘。

サイバーキャットはラボから逃げてはおらず普通にNHKにいる。正体は前番組に出ていたTANGO。TANGOはブラックマーケットに流せば大金が手に入るタナカファイルというものを持っている。Nancy曰く、「悪い奴らが大金目当てにサイバーキャットが持っているタナカファイルを狙っている」が実はファイルを狙っている悪い奴と言うのはNancy自身のこと。

つまりNancyは金目当てでどこにいるか解らないTANGOを探すためにJackに依頼したが、その際に「サイバーキャットは私が所属しているラボから逃げた」と嘘をついた。視聴者である私は5ヶ月と3週間、97回目の放送を見るまでNancyのこの嘘をこのスキットの基本設定だと信じていた。

Jackは友達の力を借りてNancyの正体を探り当て(友達は出てこないが伏線はあった)、TANGOを救い出す事に成功。そうJackはあれだけオマヌケに見えて実は本当に優秀なインターナショナルプライベート捜査官だったのだ!これでミッションコンプリート!

見事に風呂敷をたたんだな。これは立派に叙述トリックじゃないか?JackとNancy以外登場人物が最後まで1人も出てこなかったので他に判断材料が無く、5ヶ月以上暢気に東京・箱根観光をしていたから「オマヌケ捜査官Jackと彼に振り回される可憐な相棒Nancy」という図式にまんまと騙されていた。

ずっとロケだったのに最後いきなりNHKスタジオに戻ったのは撮影オチではなく、サイバーキャットの正体はTANGOである事と、いきなり特撮の女ボスみたいなのに変身したNancyに緑色の照明を当てるというロケでは不可能な演出のためだったのだろう。

初めて見たときはTVに掴み掛からんばかりの勢いで「私はこの番組を半年間で97回も見たんだぞ!」とマジで叫んだが、よくよく思い返してみたらきちんと伏線は張ってある。

JackとNancy以外登場人物が最後まで1人も出てこなかったので、サイバーキャットの情報は全部Nancyの説明でしか知らされていない。ようするにどんなに基本設定であろうともNancyが嘘をついていれば全てひっくり返る程度の性質だった。JackはJackでいくらオマヌケにしか見えなくても捜査官なら裏くらい取るだろう。そして実際に取っているらしき場面もあった。

「なるほどね。見事に引っかかりました。私の完敗です」それが正直な感想だが、NHK教育語学教養番組に対するものではないな。いや、スキットの感想ばかり書きましたがちゃんと説明パートもしっかりみて勉強しましたからね!

こうやって雑記から英語番組の感想だけを抜き出してみると私の引っかかりっぷりが我ながらよく解るというものです。映像作品でも、それもミステリでもなんでもないNHK教育製作語学教養番組のスキット(寸劇)であっても叙述トリックは仕掛けられるということでしょう。半年間を思い返してみても伏線はありましたし矛盾点は見当たりません。

今週の英文法に沿った会話をさせるわけなので、半年間の連続ストーリーとしてみると不自然になりがちでしょう。それにも関わらずこんな仕掛けを用意してきたこの脚本家は只者ではないと思いました。

(2008.02.09)

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