令和7年-第3号(253号)
甘露寺3月の一風景
禅の友 曹洞俳壇 選者 坊城俊樹 先生
冬の夕けんか相手が逝きし夫 末光 愛正
評 このけんか相手とは幼馴染みの人なのだろう。そんな懐かしい友人が亡くなってしまった。
昔けんかしたことを思い出している姿がいたたまれない。
そんな淋しそうなご主人の顔を見るとこの冬の夕方はことに寒さと寂寥感がつのるので
ある。
8月
旧居思ふ庭に蜩啼く頃と
初盆のお香を纏ひ帰りけり
定時制の子等と語るや星月夜
9月
補聴器の電池交換鬼城の忌
敬老日ピッコロを吹く美少年
遠富士や峠の爺のとろろ汁
10月
秋の夜を読みきかす母眠り落つ
家族居てこその栗飯佛前へ
11月
空気さえ旨しと思ふ小春かな
家康の腕に命待つ鷹の目よ
柿捥ぎて爺脚立からゆつくりと
12月
日向ぼこ他家の猫来て膝の横
トンネルを抜けて広がる冬の海
絨毯にゼムクリップの紛れ込み
1月
正月の髪に真赤なリボンの児
宮掃除終へ年寄りの日向ぼこ
侘助を一輪咲かす厠窓
2月
凍返る固まって待つ登校班
三十歳の向学心や犬ふぐり
畦道を朝帰りする春の猫
新美まさじ