篠沢大滝キャンプ場
8月14日 〜 8月16日
おまけ



 悲劇や災いというものは予期できぬものだ。

 今回は夜出発。普段とは支度のルーティンが変わってしまったことが、
それに拍車を掛けたのだろう。
後で身に降りかかる不幸など知る由もなくイグニッションを
ONにした。

 道路は昼と違った姿を見せてくる。
初訪問「白州」への期待からだろうか?

いつの間にか子どもたちの喧騒が消え、
振り返ると天使の寝顔がそこにあった。
「夜のしじま」とは良く言ったものだ。
ラジオからは聴きなれた
「ジェットストリーム」のオープニングが流れる。

深夜の富士五湖道路もそれに合わせ、快調にVOXYを凪がす。
 NAVIの表示が
「お茶とみかん」から「桃とぶどう」に変わるころ、

machi
がメモリディスクに切り替えた。
「お互いのことをもう、探るのはやめよう・・♪」
まだ
MR-2に二人で乗っていたころによく聴いた曲だ。
軽く口ずさんでは昔話に花を咲かす。
槇原 敬之が
VOXYをタイムマシンに変えた。

 夏休みで満サイトのキャンプ場に、
早い
INを依頼するのは無謀な行為だろう。
時計の針は午前8時過ぎ。
川の水がまだ冷たいだろうが、
「フレンドパークむかわ」へ
VOXYの鼻を向けた。
 早朝のせいか人気はまばらだ。
我先にと遊具へ向かって走り出す堕天使たち。
多くの遊具を占拠した二人だったが、突然
toaが泣き出した。
「歯が痛い・・」口の中を見ると左奥歯が見事に欠け、
歯茎は口内炎ができたように腫れている。
明日は「シャトレーゼ・アイス工場」を見学の予定だ。
無論、アイスの食べ放題がメインなのは言うまでもないが、
普段の不摂生が祟ったとはいえ、
toaには予期せぬ災いであった。

 真夏の太陽が天辺に上がってまもなくチェックINを済ませる。
先ほどまで川遊びをしていた二人だが、
早くも横を流れる川が気になる様子だ。1時間程度で設営を済ませ、うるさい堕天使たちと川へ。
先ほどよりも上流に位置するここの水は、その冷たさに容赦がない。
だが、照りつける太陽とのアンバランスが心地よく、見上げた空は真っ青だ。
その空と同色のライフジャケットをまとった堕天使たちの唇が
紫に変色したのを機にサイトへ引き返す。
 冷えた体を少しでも早く暖めようと、
家族風呂の予約を1時間早めてもらい準備を整えていた時だった。

「パパ、パ○ツは?」支度する手を休めずにmachiが聞いてくる。
「・・・」
「どこに入れたの?」今度は外にいる俺に、確認するように言った。
俺の頭の中を昨日の記憶を取り戻すごとくロボットが走る!
「ワ・ス・レ・タ・・」
いつもは車載を終え、シャワー後の着替えと同時に自分の衣服を用意するのだが、
今回は夜の出発でシャワーを浴びなかったため、
洋服は入れたものの、別の場所にある下着は頭の中から抜けていたのだ。

「どうするの〜?」笑いをこらえながら、堕天使の母が問う。
前回のキャンプでの忘れ物が多かったため、今回はかなり慎重に準備を進めたはずだった。
それなのに一番先に身につけるものを忘れさせるとは。
堕天使は存在しても、神はこの世にいないのだろうか? 
神がいないのならば、そいつが俺に試練など与えられるはずもない。
これはこの夏の異常気象がもたらした天災だ! 
混乱している俺に、今から買いに行こうなんて選択肢はない。
そして俺は

「ハカナイカライイ」
そう、翌日までのノーパンを決意したのだ。





 翌朝、ノーパン生活14時間目。
いつもはキャンプ場からあまり外出しない
jam家だが、
堕天使の母が懇願していた「明野ふれあいの里」のヒマワリ畑と、
堕天使たちのリクエストで「シャトレーゼ・アイス工場」を目指す。
もちろん「例のアレ」の購入も忘れてはいない。

 強烈な日差しの中、グングン伸びるヒマワリは夏の花の代名詞だ。
訪れている観光客もヒマワリ同様かなりの数だった。
しかし、それだけの人数を以ってしても、
俺の秘密に気づく人間はいるまい。
上昇する気温とは裏腹に涼しい顔をしている俺だが、
少し歩くと汗が吹き出てきた。気づけば俺の履いている短パンも、
汗をかいて濡れている部分が少しずつだが目立ってきた。マズイ・・ 
このままでは俺の秘密を悟られる可能性が高い。
昨日からの14時間には感じられなかった焦燥感が俺を襲う。
さらに追い打ちをかけるように堕天使たちが、
向い側にあるハイジの森に行きたいと言い出した。
馬鹿な! お前たち、これ以上ここにいたら、
パパがノーパンだということがばれてしまうぞ! 
お前たちはノーパンの子と呼ばれていいのか!? 
心の中でそう叫びながら、
アイスを餌になんとかその場を去ることに成功したのだった。


<マウスオーバー>

 ノーパン生活16時間目。ついに焦りから解放される時がきた。
当初は
NAVIで検索した紳士服店を目指したのだが、
庶民の味方の某ショッピングセンターを見つけ、
そこでようやくパ○ツを購入。
寝巻のような服しか持ってこなかった俺に
machi

「そんな格好じゃあみっともないから、服とズボンも買ったら?」
と言ったその手には、既に数点のジーンズの短パンとシャツがあった。
しかし、試着をするにしてもノーパンのままではできるはずもなく、
とりあえずは車に戻る。
 無事ノーパン生活終了かと思ったそのとき、
けたたましく携帯が鳴った。画面を見ると仕事の電話だ。
少しためらったが、緊急かもしれないと思い、
電話に出る未だノーパンの俺。
5分程で電話を切ったが、真夏の車中は強烈なサウナだ。
汗だくになって着替え、
ようやくノーパン生活とともに俺を襲った災いも終了。
 意気揚揚と店内に戻った俺は数枚のシャツとズボンを1本購入。
靴以外は全て新品を身にまとい、次の目的地へ向かう。

 シャトレーゼはなかなかの盛況ぶりだ。
心配だった
toaの虫歯もバファリン効果で痛みが和らいだようで、
いくつものアイスを貪っていた。
以外なことに
keiはソフトクリームを一つ食べただけで打ち止め。
見渡せば家族連れが多く、
子どもから大人までアイスを食べていない人間を探す方が難しい。
タイムリミット40分の数分を残しシャトレーゼを後にする。






 1日の中で一番気温が上がるころ、今日初めて川へ下りる。
今日はライフジャケット+浮き輪で「キャニオニング」を満喫予定。
川では既にいくつかの家族とグループが各々に楽しんでいる。
堕天使たちと川に入ると昨日同様、水の洗礼を受ける。
慣れてきたころ二人を連れて岩場へ。
 keiはライフジャケットを信頼しているのか、
一人でもどんどん進んでいくが、
toaはまだ滝壺になると足がつかないので、
上に行く時は俺の助けが必要だ。
それでも甘えず、懸命に上流を目指す。
坊主になって改心したのだろうか? ようやく上へ到達し、
人工的に作られた滝までやってきた。かなりの水圧だが、
中に入ると少しの空間があり、
まるでサーフィンで波の中をくぐっている様相だ。
 滝遊びを終え、いよいよキャニオニングにチャレンジ。
先ずは
keiに見本を見せるがごとく俺は浮き輪に乗った。
うつ伏せに寝て川の流れに沿い岩場を1mほど滑り落ちる。
この時だ、浮き輪の左側が上がってしまい、
滑り落ちると同時に見事に反転。
さらに落ちた場所には大きな岩が。
腰の辺りを強烈に打ってしまったが、そこはパパの意地。
痛みを伴いながらも

「これは危険だからムリするな」
と、自分が一番ムリをしたのを承知で注意。
 keiもこのときは頷いていたが、
祖先が鶏なのだろう、次の瞬間には流れに身を任せていた。
そして岩場を滑り落ちると綺麗にキャニオニング成功。
俺の体重では浅過ぎたのだろう。
その後も
keiはもちろん、他の子どもたちも同じように遊んでいた。

 このくらいの流れと深さでは溺れることはないから
大丈夫だろうと思っていたが、
身をもって自然をなめてはいけないと忠告を受けた俺だった。









 二日目の晩は何事もなくまったりと過ごすはずだった。
しかし、山の天気は変わりやすいものだ。突然の雨にうたれ、
張る予定のなかったフルフライを急遽設営。
夜中に結構降ったのか、
翌朝シェルの下にかなりの水が溜まっていた。

 いろいろあった今回のキャンプもいよいよ撤収だ。
これも慣れてきたのか、
終了までの時間が短縮されてきた。
そして行きよりも綺麗に車載できている。
そんな自己満足に浸りながら家族写真で無事終了。
 11時
OUTで時間的に余裕はあるが、夏休みのこの時期、
不安定な道路状況に備え10時半前に出発し、帰りは高速を使用。
NAVI情報ではそんなに混んでいないようだ。
これなら2時前には到着できるはず。
来たときとは異なる高速道路を快適走行していると、
大月
JCが迫ってきた。
ここを河口湖・山中湖方面へ向け左車線を走行するのだが、
そのまま合流できると思っていたのと、
NAVIの案内を信じていた俺が甘かった。
あれ?っと思った瞬間には入口を通り過ぎていた。

 堕天使たちの「お腹すいた攻撃」もあり、
途中ではないが、談合坂
SAで昼食を。
空腹を満たすも目指すは家とは逆の東京方面。
次の
ICで下り、Uターンで再度高速へ。
今度は間違えることもなく無事合流。
山崎精肉店にて「夜のお伴」を購入しようやく帰宅。

 車から荷物を降ろし、プシュっといきたいところだが
keiのサッカーがあるためしばしの我慢を強いられる。
この暑さの中、片付け後のビールを我慢するのは理性を要する。
 それでも汗だけは流そうとシャワーを浴びながらふと腰骨を見ると

「なんじゃこりゃ〜!」
そこには約10cmのあざがあった。
俺は思い込みの激しい人間なのだろうか、
見た瞬間から痛みを覚えた。
 あのキャニオニングもどきで
岩に打ち付けられたときについたのだろう。
自分だけ痛いのは我慢ならない幼稚な俺は、
痛みのお裾分けを
machiにしてみた。

「うわ、何それ!」
驚きはあるものの、心配している様子はあまりない。
堕天使の母は嘘が上手なのだろうか。


 冷えたビールを想いながら、今回の写真をベッドで見ていると、

「よく聞き取れなかったけど、
留守電が入っていたよ、キャンプ場から・・」

machiが言ってきた。お礼の電話か?
どこまでものんきな俺。

とりあえずキャンプ場に電話をしてみる。
「今日4番をOUTしたjam家ですが・・ 
留守電が入っていたので・・」と言うと

「あ〜、ペグのケース忘れていかれましたよ。
隣のサイトの方が届けてくれて。」
なんと! パ○ツ忘れにプラスして、
今度はキャンプ場に忘れてくるありさま。

「すみませんが、着払いで送ってもらえますか?」
恐る恐る尋ねる俺。

「構いませんよ、念のため電話番号を教えてください。」
対照的な声のおばさん。

電話を切るとまたしても堕天使の母からのダメ出し・・ 
 撤収が終わり綺麗に車載もできたと、
自己満足に浸っていたときにはまだ完了していなかったのだ。
そう、ペグケースは自宅から約100km離れた場所で、
去りゆく主に声もかけられずにいたのだ。

間抜けな主人を持った、麗しきソリッドステークの悲劇であった。

 悲劇や災いというものは予期できぬものだ。

 だが、その事態に対応する力を人間は持っている。
そしてそれを楽しめる余裕も持っていると俺は信じたい。
たとえ堕天使の母や堕天使たちに揶揄されようとも。