勝負無し法」第3法           周防 元水

 様々な個性を持ったのが人ですが、ある一面的な物の見方からしか、自分を見ていない或いは人から見られていない、というのが現実です、たぶん。世の中色々ありましてお困りの事も多々あるでしょう。そこでちょっと解決法をご紹介。勿論私の説ではありません。大変偉いトマス・ゴードンというアメリカ人で「P.E.T」という書を著した方の説です。その道の人ならもうとっくにご存じだと思います。何せ世界のベストセラー本ですから。「な〜んだ、受け売りか」という人はちょっと判断が早すぎ。私なりに咀嚼して大変分かり易く?ご紹介致します。まずはご覧じろ。

 自分の言動に自信を持っていない人は、他人の意見が羨ましくて耳を傾けられません。乱暴だ、雑だと思われている人は、自分も自覚していてけっこうチャンスを見逃し、見放されています。発言力の弱い人は、なかなか自分の出番が回って来ずいや言うべきタイミングを失い、ストレスが溜まります。う〜ん。それぞれの持てる力を思う存分発揮させるには、どうしたらいいのか。性格を改造するのが本筋ですが、何せ時間が掛かりすぎます。自分が生きてきただけの時間が必要と言われているのですから。まあ脳の中心部分を改造するのだから致し方ないですが、そんなことをしていたらお爺ちゃんになってしまう。その時には、もう改造を決意させた社会構造そのものが手の届かない別世界に行ってしまっているかも知れません。それに「性格は変えられるか」なんて本が出ている位ですから、結局は改造出来ずに失敗するかも。と言う訳でまだまだ工夫すればこの世の中を楽しく生きていくそんな余地がありそうです。

 キーワードは「雨降って地固まる」。意見交換の重要性に着目しています。人はそれぞれ自分の考えを持っています。そしてそれは多くの場合誤りではありません。勿論否定的な考え方も含めての話です。しかし、どれも正しいがどれがより正しいか、どの考えに絞って行動するかとなると、話は一挙に難しくなります。複数の考え方を一つの考えにまとめ上げるには、大変な困難を伴う訳です。あれ程よき理解者であった人がどうして?と言う思いをされた人は私だけではないでしょう。何故なのでしょう。自分の考えが誤りではないからといって、どの人も自分の考え方の正当性を力で主張し続けるならば、或いは、自分が降参する事で解決を目指そうとするならば、そこには必ず、いくつかの悪い影響が表れてくるのは至極当然の事です。夫婦、親子、師弟、親友という関係では、その影響は測り知れないものがあるのではないでしょうか。この様な場合、自分はどうしたらいいのかを3つの対処法で比較検討していきます。的を絞って話を分かり易くするため大人対子供の場面を想定して述べていきますが、どういった人間関係でも考え方は同じ事です。

 子供の表れに対してどう対処すべきか考える時、私たちは、@厳しくすべきか、A許すべきか、の間で思い悩むのがどうも常の様です。躾の問題では必ずと言っていい程、何処に行っても厳格か寛大かの間で議論の白熱があります。どちらもそれなりの合理性はあるのです。が、もう何十年と結論は出ていないのです。不毛の論争を私たちはこれからも続けてやっていくのでしょうか。私たちは今まで余りにも多く「自分の意志を押し付ける」事や「降参する」事をし過ぎたのではないでしょうか。

 @とAは必ずと言っていい程、併用される運命にある様です。実際の経験で知るところ、@の方法では相手は、反抗、嘘をつく、弱い者いじめ、告げ口、感情を隠す・・・等の問題を表出させ、Aの方法では、自己中心的、わがまま、集団行動が苦手、衝動的、悪口や非難・・・等を表出させます。どちらも大人の前、いえ利害関係のある者や力負けする人の前ではいい子であり続けますからなかなか当事者では掴みきれないところがあります。その為自分の子育て・指導法を客観視出来ず、何かの事が起こってからああでもないこうでもないと小田原評定に陥るのです。つまり、行き詰まって@とAの間で大人は大いに思い悩む事になっていきます。

 このジレンマを解く方法が3つ目の方法です。@が「大人が勝つ法」第1法、Aが「子供が勝つ法」第2法とすると、このBの方法は「勝負無し法」第3法と言うことになります。自分も相手もお互いに「意志の押し付け」や「降参」する事をせず、どちらが正しい、間違っていると言う判定を回避する訳です。これはお互いに妥協し合うスタイルの様に見えます。ま、大体はそうなのですが、実は、時にこの方法は新たな見方・考え方を生み出すのです。ここが重要だと思うのですが、この方法により、子供が解決策を積極的に見付けようとよく考えるようになっていくのです。あの忌まわしい「奔放」や「強制」が無くなり、問題の本質がはっきりと見えてきます。その為、誰にでも納得できる解決法が生み出され、ここが面白いところであり生き甲斐を感じるところでもあるのですが、論争による精神上の成長感を味わうのです。雨降って地固まるという訳です。

<蛇足>
 様々な個性を持った人が、ここにきて初めて共通の「場」を手にしたことになります。迷う事無く自己の信じられる事に、全力を出して取り組む姿が時に見られることがあります。「勝負なし法」第3法により相手をそして自分を見つめさせる作業は、「場」を創り上げる大事な過程と言えるでしょう。どの人も精一杯力を出せる意見交換が可能になれば問題はスムースに解決へと導き出されます。逆に言えば様々な意見が出た時、どれだけその意見を集団の中に取り込めたかが、その集団構成メンバー個々の問題解決能力を測る尺度ともなる訳です。

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