周防 元水 様

 御作読みました。
「Restructure」とは何のことかと横文字に弱い小生、考えながら読み進めました。最後まで読み終わってタイトルを見返し辞書を引いて、なるほど作者はこんなことを考えていたのかと、改めて元水先生という人間について考えた次第です。
 小説を書くということは現実生活に不満を抱き、その不満を小説で満たしているのだとすれば、元水氏の現実生活における不満とはいったい何なのだろうか。
 氏は会社(企業)に興味を抱いているように感じる。それはおそらく氏がかつて在籍した会社のことが未だに氏の中に印象として残っているからにちがいない。また氏は技術者であり、その技術に対してはいささかの自負を持っているのではあるまいか。そのような氏が企業小説?をものするのは当然のことかもしれない。
 前作の「森の中の企業」には男しか登場せず、やや不自然な感じをぬぐえなかったものが、今作は紀子の登場を得て小説の体裁が整い、それが物語の縦糸になっている。そのため芯がぷれず安定した作となったといえるだろう。前作は企業が本当に中心の小説、今作は企業に生きる男と女(人間)が柱となった作ということができる。
 私は今作に共鳴を憶えた。特に最後の場面で三郎が触れることによってかろうじて自分を支えていた森の自然、そのすぐ側に紀子がいたことに深い感慨を憶えずにはいられなかった。思うに資本主義社会の労働は満足感を伴わない。いくら企業戦士でも空しさはいかんともしがたかったのではないだろうか。三郎が幾度となく疑問を抱くその疑間の本質は、愛の喪失の自覚と愛への渇望ではないか。月並みではあるがどんな人間でも一人では生きられないということか。今回主人公が何度も何度も悩む姿に、作者の主題への追求の姿勢と登場人物への慈しみが伝わってきた。
 前作より筆の冴え渡った今作、作者は大いに自信を持って次作に臨んでほしい。作者の描く女性もなかなか魅力があって興味をそそられる。女性が描けていると感じる。何より登場させ過ぎないのがうまい。女性を描く腕があるという印象を持った。

平成16年8月26日
鈴木 孝之

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