演技の基本
演技の基本はズバリ「感じた事を感じた分だけ表現する」です。
よく演技の基本は「発声」「滑舌」なんて言われ演劇を始めると訳もわからず「あえいうえおあお」なんて発声練習や腹式呼吸の練習をします。また、ちょっと
演劇を経験してくるとセリフの言いまわしや間の取り方、声の使い方なんて事が気になってきます。 感じた事を感じた分だけ表現できないうちはこんなもん
練習しちゃいけません。たまたま忘年会の出し物で演劇でもやるんで付け焼刃でテクニックをちょっと身につけようってんならともかく、これからずっと演劇を
やっていけば、長くやりゃやった分だけ「発声、滑舌」なんて勝手に身についていきます。
それより、基本と思って演劇を始めたばかりの頃から「発声」「滑舌」などのテクニックを一生懸命練習する事で、本番の演技でも「テクニック」が気になっ
て、「感じた事を〜」の感じて欲しい部分が感じられず、本来持ってるはずの役者さんの魅力が演技で出せなくなっちゃいます。
で、
「感じた事を感じた分だけ」の、何を役者さんに感じて欲しいかと言うと、これがややこしい話で、舞台上で演技してる時、役者さんの中には役者さんのやって
る役と役者さん自身の2人が同時に存在して、そのどちらも「ちゃんと感じる事は感じてる状態」を感じて欲しいわけです。文章にするとホントにややこしいで
すね。
役
は台本のストーリーにしたがって色々感じて行きます。演じてる役者さんにとってはその役の気持ちも自分の気持ちとイコールです、これだけなら分かりやすい
んですが、そこには役者をやりたい私が演技をしてる瞬間の自分も存在し、その時の役者さん自身の気持ちも当然イコールです。すると何が起こるかと言うと、
1人の役者さんの中に同時に2人の気持ちが両方本物として存在します。
例えば、悲劇のエンディングで主役をやっていたとしましょう、あなたの役は愛する人を亡くし「ジュリエット、なぜ死んだんだ〜っ」と猛烈に悲しんでいま
す、ところが役者のあなたは幕がしまる時の観客の拍手にこれ以上無い満足感にひたっています。 「役の悲しい気持ちも嘘では無く、同時に自分自身の満足感
もちゃんとある」
全く相反する感情がどちらも本物として役者の中で存在します。これを舞台上でずっと役者さんには感じていて欲しいわけです。
さ
らにこれには相乗効果もあって、お互いの気持ちがもう一方の気持ちをさらに盛り上げる何て事もしてくれます。感じる事が出来たなら、やりたい事が出てきま
す、やりたい事をやりたい分だけやれば「感じた事を感じた分だけ表現する」の出来あがりです、なんて簡単。色んな邪念をなくし、素直に自分の気持ちをさら
し、気持ちよく楽しく演技しましょう。 せっかく新になったので分かりやすく書こうと思ったら、やっぱり分かりにくくなっちゃいました、どーもすいませ
ん。てなとこで今回はさようなら。
(表現)
感じた事を感じたサイズで表現できればいい訳なんですが、これがなかなか難しいし、ましてや初心者にとってはそれが一体どんな事なのか、何をしたらいい
のか見当もつきません。また表現するためには、感じていかなければいけない訳ですが、これも“経験を通じて徐々に”と言った感じになりますから、今現在感
じられるだけのところからでスタートしましょう。
感
じて行くのに分かりやすいのは『役の気持ち』です。ところが表現するのにやりやすいのは『役者自身の気持ち』です。そこで、今の自分の気持ちでセリフを
作ってそのセリフで練習する事にします。今の気持ちは当然『さあ、頑張って演技の練習をするぞ』とか『俺は、一生芝居をやっていくんだ』とか中には「世の
中の人のために役に立ちたい』という“きとく”な人も居るでしょう。出来ればチョット長めに「俺は一生芝居を続け、芝居を通じて世の中の役に立ちたい、たとえ世間に認められなくても自分自身を裏切りたくない」くらいあると、練習しやすいかと思います。
さ
あ、セリフが書けました。今の気持ちでセリフを考えたので当然『役の気持ち』と『役者の気持ち』はイコールです。これで練習して見ましょう。セリフとして
喋って見ます。どうでしょうか、そのいい方で自分の気持ちは表現できたでしょうか?おそらくダメだったんじゃないかと思います。
そ
こでまず、自分の芝居に賭ける情熱を思いっきり体の中にため込みます。ため込んだ分セリフとして外へ出して見ましょう。出して見て、自分のセリフは本当に
自分のやりたい気持ちとイコールだったか思い返してみます。ここでイコールならば何の問題もありません、とっとと次へ進みます。しかし、演劇を始めたばか
りの初心者にとってなかなかそれで自分のやる気のある気持ちとイコールだとはなりません。私も新人達にやらせてみて「君の演技にかける情熱は本当にそれだ
け?」と聞くと、たいてい「いえ、こんなもんじゃありません」と答えが返ってきます。この分かりやすい状況でも感じている気持ちと表現できる演技はイコー
ルにならず、ほとんどの場合『感じた気持ち>表現できたもの』となります。
また、より強い思いに聞かせるためイントネーションを工夫したり、間のとりかたを考えたりすると、やればやるほど、どんどんと自分の気持ちからは離れて
いきます。そこで、気持ちをため込む時、気持ちと同じだけ息を吸い込みます。「やる気で胸いっぱい」なら胸いっぱいの息を、目ん玉がまん丸で飛び出すくら
いの勢いで吸い込みます。
吸い込んだ息の体積が今の気持ちの量です。「ホントにそんなもんですか?もっと吸っとかなくていいですか?」じゃ、吸った息を全部吐いてセリフを喋りましょう。吸った時と同じくらいの勢いで一気に吐き出します。
長いセリフは一息では言えないでしょうから、セリフの点(、)や丸(。)を利用して再び息継ぎしてまた吐き出します。
今度はどうでしょう、ちょっと自分の気持ちに近づいてきませんか?腹式呼吸なんて気にしなくても大丈夫です、じゃんじゃん肩と胸を動かしてセリフを喋ってください。
何度かやってみるとセリフと自分の気持ちがどんどん近づき自分で「俺のやる気はこれぐらい、OKOK」となり、ずいぶん自分自身すっきりした爽快感が残
ると思います。この状態に慣れておいてください。ここまで来たらいよいよ他人のセリフです。台本上から出来るだけ自分の気持ち(俺は頑張って演技をするぞ
〜!)に近い物を探します。 例えば「私は、空が飛びたい」とか「私は、ロミオに会いたい」みたいなヤツです。
さ
て、セリフを喋って見ます。自分の気持ちは前にやった「演技を頑張るぞ〜」ってのですからこれとイコールな分だけの息を吸い込み(気持ちをため込み)ま
す。その上でそれと同じくらいロミオに会いたい気持ちになってください。『私はジュリエット、ああ、私のロミオ』と思いこみ、どんどんその世界にひたって
いきます。『私はジュリエット』とすっかり勘違いしたところで「私はロミオに会いたい」と言ってみましょう。息を自分の気持ちと同じだけ吸い込み、役の世
界観(気持ち)で喋ります。この時前にやった「芝居がしたい!」と同じくらい爽快感が残り、自分自身で自分のセリフに満足できればOKです。 自分の気持
ち(芝居がしたい!芝居が楽しい!)から遠い気持ちのセリフになるとだんだん難しくなります。例えば「今日はいい天気」とか「山田さんの送別式って5時か
らだっけ」なんてとてもむつかしいと思います。初めのうちは出来るだけ役の気持ちも(やる気になってる)所を探し出し、色々なセリフでだんだんと慣れてい
けば大丈夫です。その内役者自身は(芝居が楽しい〜!)と感じながら「今何時だっけ」といったセリフも言えるようになりますし、役者の気持ちはそのままに
吸い込む息の量が役の気持ちとイコールとなっても、同じような満足感や爽快感は出せるようになります。ただ、時間はかかります。最初の内はどんな演技をし
ようが、どんな役柄だろうが思いっきり息を吸って、思いっきり吐き出すシャウトしっぱなしな演技になります。しかし慣れれば必ずどんなセリフも言えるよう
になりますから、小手先のイントネーションでごまかす癖をつけないよう、堂々とへたくそなシャウト芝居をしていてください。ヘタなうちはヘタで十分です、
ムリして背伸びせず、ヘタだけどやって楽しい演技をしましょう。これが見てて楽しい(見ていたい)演技につながっていきます。
(体の動かし方)
1)
演劇の練習をする訳ですが、「どう動いたらいいのか分からない」と言う声も時々聞きます。演技をしてる時に「どう動こうか?」などと考えていたら、それは
前回までやっていた演技をしている時の気持ちの持ち方からずいぶんとはずれてしまいます。しかし経験が浅い場合など、気持ちが動いただけじゃなかなか身体
までついてこないという事もよくありますし、相手役に向かって腰だけを曲げ、顔を突き出すようにセリフを喋っていると言うのも良く見る光景です。
気持ちが動いたら、自然に身体も動くようにするためにはどうしたらいいんでしょうか。気持ちの動きと身体の動きは非常にシンクロしています。気持ちが動く
と身体は動きます。日常生活では何でも無い簡単な事です。ところが、演技になってしまうとなかなか身体は動かなくなります。まずは簡単な動作から。例えば
手のひらをグーで握る、又は握った手で小さいガッツポーズをしてみる。足を一歩踏み出してみる、ひざをぐっと曲げてみる。等々…
気
持ちは伴わずに身体の動きだけでいいですから何度も繰り返して、身体になじませてしまいましょう。 その動きが身体になじんできたら、セリフと一緒にやっ
てみます。やりやすいのは、やはり気持ちが大きく動く時です。「ジュリエット、好きだっ」の「好きだっ」の部分で、グーを握る、ガッツポーズ、一歩踏み出
すなど身体の動きを意識しながらやってみましょう。何度か繰り返すうちに言葉に力が入ると意識していなくても自然に身体が動くようになってきます。次にも
う少し大きな身体の動きをやって見ます。バンザイのように腕を上げる、又は大きく腕を振り下ろす。2〜3歩あるく、ダッシュから急に止まる等々。これも小
さい動きのときと同様、身体になじんできたらセリフといっしょにやってみます。「ジュリエット」で走り出し、突然急停車、そこですかさず「好きだっ」なん
てどうでしょう。この状態が自然に感じられるようになったら、今度は試しに同じセリフを動かずにやってみましょう。どうですか、とても気持ち悪くないです
か?動かずにセリフを言って違和感があるようならシメタものです、次にそのセリフを言う時には自然に身体は動いています。
舞
台上での動きはこの気持ちが動くと身体が動くという事が基本になります。より大きく気持ちが動けば手を振り下ろすだけでは足りなくなり、位置を移動したく
なるでしょうし、舞台上でより目立つ位置に移動したくなるかもしれません。簡単な小さな動きから徐々になじんでいけば、気持ちが動いたから身体が動く、大
きく気持ちが動いたから身体も大きく動けるようになっていきます。
また気持ちの動きが色々に変われば(嬉
しい、悲しい、思い入れたっぷり等々)当然気持ちとシンクロしている身体の動きは色々と変化していくようになります。まずは気持ちが動くと身体が自然に動
くよう単純な小さな動きから慣れていきましょう。また、動きそのものが意味を持つような複雑な動きは、気持ちが動くと、つい手を振り下ろしてしまう、つい
一歩踏み出してしまう。ワンパターンでかまいません、こんなところから始めてください。
身
体の動かし方は、「どう動こうか?」なんて考えて動いちゃいけないし、身体が動くようにと下手な理由付けをしてはいけません。例えば「あっちに〜」と言っ
て指差したり、あっちの方向に歩いたり、「あなたと私」なんて時にあなたと私を身振りでやって見せるなんて演技はほとんど学芸会です。
身体が動く理由は、気持ちが動いたから、これだけです。後はそれと逆に演出家からここへ移動してとか、振り返ってなど動きをつけられる場合も出てくるで
しょう。その場合も同じです。気持ちが動けば身体が動きますが、当初やったように身体を動かせば気持ちも動いてきます。その動作をすると気持ちがどう変化
するのか、気持ちがどのように変化したからその動作が出てきたのか。演出家に言われたからではなく、まるで自分自身が考え出したかのようにまで錯覚して演
技して下さい。
最後に、気持ちや身体が緊張していては動くものも動かなくなります。面接や試験のような精神状態では身体はおろか気持ちも動きません。祭りやコンサートの時のようにリラックスしつつテンションを上げ、楽しく演技しましょう。
2)
「ジュリエット、なぜ死んだんだーーーーーっ」という場合など、これでもかと大きな感情を表現しなければいけません。この場合、これでもかと大きく息を吸
い、これでもかと声を張り上げ、これでもかと腕を振り下ろし、これでもかと力んでも、もっと大きな感情が表現したくなったりします。演技はどんどん力が入
り、声はかすれ、身体は全身緊張し、汗がダラダラと滝の様に流れます。 でも、演じる役者はまだ物足りないと感じ、ますます力が入りますが、観客から見る
とむやみに力んでいるだけになり、ますます感情は伝わりにくくなったりします。こうなったら悪循環です。こんな時に逆モーションを使ってみましょう。通常
「ジュリエット、なぜ死んだんだーーーーっ」というセリフを、立って言う場合、真っ直ぐ立ち腰から胸の辺りでグーを握り、セリフと同時に前かがみになり、
握った腕を振り下ろすと言った感じなると思います。
このセリフを逆モーションを使うとどうなるでしょうか。真っ直ぐ立った状態から息を吸うのと同時に後ろに反り返ります。腰の辺りにある手も頭の後ろ辺りまで持ち上げておき、セリフと同時に一気に前かがみになり、腕も振り下ろします。
真っ直ぐ立った状態よりも上体や腕の軌跡が大きくなり、力まなくても今まで一生懸命に力んでいた以上の感情が表現できたんじゃないでしょうか。
この時足を一歩後ろに引いてからスタートしてもいいでしょう。また、まず前かがみになり腕をダラッと下まで下げた所からスタートし、セリフを喋りながら思いっきり後ろに反り返る。なんて事も出来そうです。
逆モーションの方法は、まず感情を放出させたい方向とは逆に身体を移動させ、そこから一気に本来の方向に身体を反転させるという事です、なんて簡単。これ
は色んな事に使えます。例えば下手に向かって走り去る時、まず上手に重心を移動させてから一気に下手に走り出す。とか、指差す場合、指を差したい方向とは
逆に腕を持ち上げた後で本来の方向へ指を動かす。感情を放出させたい方向とは逆に目線を動かしそこから本来の方向へ目線を動かす、等々…
さらに体の動きに円運動を加えてみましょう。指差す方向とは逆に持ち上げた指を本来の方向に動かす時、指の軌跡が直線ではなく、身体から1
番離れた円を描く様に動かします。これだけで直線的に一生懸命伸ばした人差し指より、より強烈な指差しが出来ます。逆モーションとは、役者の使える空間を
全て使い切って表現するための方法です。空間はどんどん使っても小道具や大道具と違ってタダです、使える物はじゃんじゃん使っちゃいましょう。
(発生について)
発声練習と称して、「あー」とか「あえいうえおあお」とやってるのを見かけます。これはこれで単一音の大きい声を出す練習にはなっているんですが、芝居の発声はそれだけじゃないはずです。
演劇の場所、役、シチュエーション、あらわしたい事柄によって、それぞれ最適な発声があるはずです。例えば野外、テント、仮設会場などでは声がとおりにくく、より大きな、とおる声で喋らなければならないでしょう。しかしビルの中にある50
人ほどしか入らない小劇場では、小さな声で喋っても十分に聞き取ることができます。ならば、大きな声は出なくても、より表現に適した発声がいろいろと考え
られるんじゃないでしょうか。演じる場所、役、シチュエーション、感情の動きなどで使い分けられるようになりましょう。
呼吸法1)呼吸法にはまず腹式呼吸と、胸式呼吸が
あります。腹式呼吸は横隔膜が下(足)の方に下がり、胸式呼吸はろっ骨が横に開いて呼吸するということらしいです。生まれてすぐの「オギャー」は腹式呼吸
らしいですが、なぜか人間を長く続けると胸式呼吸になっていくようで、皆さん普通に呼吸しているときは胸式呼吸だそうです。 ということで胸式呼吸はおい
といて腹式呼吸の方法。眠っている時、リラックスして仰向けになっている時、風呂でウトウトしている時などは腹式呼吸だそうです。そこでまず仰向けに寝て
リラックスします。大きく息を吸い込んだりすると体が緊張しますから、リラックスして普通に呼吸してみます。横隔膜が下(足)の方に下がり、呼吸ととも
に、お腹が動いています。この状態で腹式呼吸の感覚がつかめたら、ゆっくりと腹式呼吸を意識しながら立ち上がります。 立ち上がったときも、できるだけリ
ラックスして、普通に呼吸します。しっかりと感覚がつかめてきたら、少しづつ大きく息を吸ってみます。腹式呼吸ができるようになったら、胸式、複式と呼吸
法を使い分けて見ましょう。
呼吸法2)空気の通り道は口と鼻の2つあります。発声をするときは口から息を出さなければ声が出ないんじゃないかと心配ですが、鼻から息を出しても声は出るんですね、あらビックリ。といっても何の事はない、鼻歌の状態です。気分のいい時など口を閉じて鼻から息を出しながら「MU〜MUMUMU〜」
なんてやっちゃいますね、あれが鼻から息を出しながらの発声です。もちろん鼻100パーセントだと何を言ってるのか非常にわかりづらいですが。また、風邪
で鼻が完全に詰まったときの「あどで〜はだづまりなんだ(あのね〜鼻詰まりなんだ)」はもちろん口100パーセントですね。この鼻から息を出しながら、口から息を出しながらの割合をいろいろに変えることに
よっても、声が変わってきます。口から呼吸というのもわかりやすいと思いますから、鼻から息を出しながらの発声をやって見ましょう。口を閉じ、鼻からゆっ
くりと息を出します。息を出しながら「んー」と音を出していきます。口を閉じたまま「んー」を「あー」のつもりの音に変化させていきます。次に口をあけま
す。できるだけ口から息をはかないように気を付けながら、「んまー」と声を出していきます。
この時はまだ大きな声じゃなくてもかまいません。
「んまー」とできたら、そのまま声を出しながら、手で口をふさいで見ましょう。息が止まらずにそのまま発声を続けることができたなら、鼻から息を出しな
がらの発声は成功です。 次に「んまー」とやりながら、口と鼻の息の出具合をいろいろに調整してみます。口100パーセントになった時に、再び手で口をふ
さいで見ましょう。本当に口からのみの発声の時には、息が止まり、手の隙間から「プシュ〜」と息が漏れるだけになります。この時の声の変化にも注意しなが
ら、口、鼻の割合を自由に変えられるようにしましょう。
呼吸法1では腹式呼吸、胸式呼吸をやり、呼吸法2では口から、鼻からを
やりました。もちろん大きくとおる声を出すのに適した方法はあるでしょうが、その声でしか演技ができないんじゃ面白くありません。腹式呼吸で鼻から息を出
す、腹式呼吸で口から息を出す、胸式呼吸で口から息を出す、胸式呼吸で鼻から息を出す、またそれぞれの割合をいろいろに変えてみる。これだけで表現力はか
なり違うと思います。
この発声でなければ正しい発声法じゃないという固定観念を捨て去り、演技に適した発声で表現できるようになりましょう。
(仕込み)
劇場入り初日の作業を書いて見ます。その際あまりにも段取りが悪く、仕込作業がスムーズに行かないと言う事も多いため、仕込作業の参考になればと思います。
また、演劇の仕込作業という事で、コンサート、ダンスなどはこれとは若干違う場合もあります。
搬入)小劇場演劇の場合、大道具は劇団内ですませても、照明、音響は大抵の場合外部業者に発注する事になると思います。
照明、音響など外部業者さんを発注している場合でも搬入作業は出来るだけ手伝うようにするようにしましょう。搬入作業がスムーズに進むのはもちろん、ほとんどのスタッフさんとはその日初めてあうわけですから、お互いに顔を確認でき1日の作業が進めやすくなります。
搬入順序は照明、大道具、音響、衣装その他という順番になります。搬入した物は次の搬入の邪魔にならない所へ照明は照明、音響は音響とパートごとにまと
めて置くようにします。基本的に照明機材は舞台上へ、大道具などは舞台袖や舞台の前、奥など照明吊り込みの邪魔にならない場所へ、音響は花道、客席通路な
どへ置くようにします。
仕込み)仕込み順は大雑把に分けると、照明、大道具、音響の順になります。
まず照明係がバトン吊りする照明機材を吊りこみます。照明バトンに吊り物やマイクなどを共吊りする場合はこの時一緒に吊っておきます。その間、大道具係
は必要な平台や箱馬など会館機材を用意したり、切り出しに人形をつけたりなど舞台袖や客席で出来る程度の作業や、角材、道具類の仕分けをしておきます。
照明吊りこみが終わったら、大道具の作業になります。作業の流れは大雑把に言うと地ガスリ、吊り物、セット組み立て、幕類という順になります。セットの
位置や大きさ、吊り物の種類によっては吊り物をセットの後にする事もあります。この時棚等の高さや目張りなどの細かい作業にこだわりすぎると全体の進行が
遅れがちになるので、シュートやサウンドチェックの合間に出来そうな事なら、無視して早くセットを立て切ってしまうようにします。
小劇場演劇では劇団内で大道具をやる事がほとんどで、進行の遅れもまずここから来ます。時間一杯使って細部まできれいにセットを組むのではなく、早く
セットを組みあげ残った時間で修正すると考えた 方がいいでしょう。また場当り、照明合わせなど他作業が進行中でも出来る細かい修正、色塗りなどの作業は
どんどん後回しにし、優先させなければならない作業をキチっと終わらせるよう段取り良く進めます。
舞台上で大道具作業が進行している間、照明はフロント、シーリング、卓周りの作業になります。音響もある程度舞台が出来あがるまで舞台上の作業は出来ま
せん。卓周り、渡り回線などの作業になります。舞台上大道具がある程度出来あがってきたら、照明はSS、フットライトなど舞台に置く燈体を、音響はスピー
カー、マイクなどをセッティングしていきます。照明、音響は舞台上の作業の流れを見ながら回線のチェックをしていきます。照明は舞台上作業中は真っ暗にな
らないよう、音響は大きな音を出さないよう気をつけます。大道具の作業はこの時までにほとんど終え、照明さんはシュートに入ります。転換後の照明や立ち位
置などに合わせる場合もありますから、大道具係りもそれに合わせ転換や、セットの位置決めなどをして行きます。また、後回しにした細かい作業や修正なども
照明作業の邪魔にならないようこの時進めます。高所作業や、バトン操作など危険な作業が出てくるので、音響はこの時音を出せません、さっさと休憩に入ります。
サウンドチェック)まず機器間のバランスを取ったりでスピーカーのチューニングをし、その後マイクレベル、BGMレベルの調整をします。楽器を使う場合は
この時楽器やモニタースピーカーのバランスもとっておきます。この時は大道具さん、照明さんには休憩に入ってもらうか、明かり作りの打ちこみ作業などをし
てもらい出来るだけ無音状態になるようにします。
場当たり(キッカケ合わせ)
場当りと、演技の稽古を混同しがちになった場当りを時々見かけます。場当たりで大切なのは照明、音響、転換、立ち位置、登退場などのキッカケの無い場面の稽古をしない、演技のダメだしをしないと
言う事です。演技のダメだしを何回もしながら進行して、結局時間内に最後まで出来なかったなどという事もありえますし、あまり長時間に渡る場当り稽古にな
るとキャストスタッフとも疲れてしまいます。演技の稽古時間が必要ならば、あらかじめ場当りとは別に稽古の時間を組んでおきます。
立ち位置、キッカケ、動きの確認、その他稽古場で出来なかった段取りの確認作業をテキパキとこなし、予定時間より早く終われるように努力します。
もし場当たりが早く終わり時間があまれば、演技の稽古時間に振り当てる事が出来ます。大道具など進行が遅れている場合、場当りの邪魔にならない程度の細かい仕上げ作業などはどんどん進めていっても構いません。
明かり合わせ(絵作り、データ取り)
場当りが終わると照明さんは場面の照明を決めていく作業に入ります。照明プランそのものがシンプルな場合場当り中に同時進行してしまうこともあります
が、普通はかなり時間のかかる作業なので、演出者が立ち合いつつこの時間をとるようにする事が望ましいと言えます。また、この時間を利用して演技の稽古を
する事も可能です。この場合照明さんは練習している場面とは違う場面の明かりを作っていますから、練習場面の明かりを作るような要求を出してはいけません。また、舞台上が暗くなる場合はいったん稽古を中断し、明るくなるのを待ちます。音響は必要無い限り音を出さないようにします。
通し稽古
基本的に照明、音響も稽古に付き合いある程度本番と同じ形で行いますが、ゲネプロ(舞台稽古)と違いこの通し稽古は進行上何か不具合が起きたらどんどん
止めるつもりで行います。例えば場面の変わり目で暗転になった時など、何も分からず無理して暗転の中で動いてはいけません。いったん稽古を止め蓄光テープ
や袖明かりなどで問題を解決し先へ進めます。出ハケの場所や転換なども、問題があれば稽古を止め、安全にスムーズに行くよう問題を解決していきます。照
明、音響へのダメ出しもこの時に行います。
ゲネプロ(舞台稽古)
全て本番同様に進行します。開演ベル、緞帳、衣裳、メイク、アナウンスなども全て本番同様に行います。ただ、本番同様だからといって危険なアクシデントが起こった(起こりそうな)時には、いったん稽古を止める事
も重要です。本番同様だからとイチかバチかで進行してしまい、怪我やセット、機材の破損などが起こってしまったら本番に支障が出ます。全て本番通りのゲネ
プロと言えど本番がスムーズに進行するための最終確認の稽古です。ゲネプロで失敗し問題点を全て明らかにし、スムーズに本番が進行するようなゲネプロにし
ます。
すばらしいセット、奇抜な演出も観客を楽しませる事になりますが、そのために安全性やスムーズな仕込み作業が犠牲になると、最悪の場合本番を迎える事も出来なくなります。無理の無い仕込みプラン、仕込みスケジュールを組み、十分な稽古時間を取り、安全で、キャストの力が本番でフルに発揮できる仕込み日になるよう心がけていきましょう。
(演出)
まずズバリ“演出”ってどんな事をいうんでしょう。
例えば学校や会社の朝礼など、普通はほとんど演出と言う事を考えていないと思いますが、これに演出が加わるとどういった事になるんでしょうか。まず、学生
や社員など出席者が全員そろったところで突然会場が暗転になります。と、同時に舞台上にスポットライトがあたります。いかにも荘厳な音楽が大音響で流れ出
すと、舞台下から学校や会社の旗かシンボルマークがスポットライトの中へせりあがってきます。
マークがあがりきるとマークが真っ二つに裂け炭酸ガス(ブシューッと噴出す真っ白い煙のような奴)が上下から噴出し、同時に音楽は校歌か社歌に変わりその裂け目から校長先生か社長が登場し、校歌か社歌をBGMにおもむろにワイヤレスマイクで今朝の訓示をシャウトする。こんなところでしょうかね。結婚式やオリンピックの開会式なんかもここ数年(ロサンジェルスオリンピック以来でしょうかね)どんどん派手になってるようですし、いろんな事を考えて、盛り上げてやればいかにも“演出”されてるように見えます。
次に茶道の話。もっとも私は茶道の先生じゃありませんから詳しい事はわかりませんがこれも演出がスゴイらしいですね。
じゃ、茶道で暗転したり大音響のBGMがなったりスモークや炭酸ガスが噴出するかって言うと、こんなもの何にもありません。茶室に入る客は80cm四方程度の小さな入り口から入り、入った茶室はたった2畳の狭い空間。茶室の主人(正式にはなんて言うんでしょう)は客と向き合ったり背中を向けてたり、で、床には花やら掛け軸やらが飾ってある。このさりげないところが強烈に“演出”されてるわけですね。 これで世界や人生を表現するってんですからこの“演出”も立派に“演出”ですし、日本庭園などの枯れ山水やもちろんヨーロッパの庭園もそうですね。建築なども入りやすいようにとか権威を感じさせるようになど色々“演出”されてるようです。
ということは、“演
出”ってのはいろんな事を考えて盛り上げりゃいいって物でも、わかりやすきゃいいって物でもなさそうです。色々“演出”されているものについて考えてみる
と、どうもこれらの強力な“演出”感は作り手側が体験者に何を感じてほしいのかの意思が明確に働いているように思われます。
しかし“演出”が目に付きすぎると疲れたり嫌味になってしまいます。すると逆の“演出”されている事を意識させない“演出”もありそうです。
なんとなく“演
出”ってのがわかってきました。“演出”ってのは作り手が体験者に向って、何がしかの意思を持って作り上げる、例えば自宅に帰って何も考えずテーブルの上
にヒョイと置いた鍵束などは演出されていませんが、他人からは無造作に置いたように見えるように意識して配置されたテーブルの上の鍵束は、たとえ無造作に
置いたものと同じであっても、“演出”されていると言う事ではないでしょうか。
自宅の部屋を絵や写真で飾ったり玄関マットをどんな模様にするかってものも、第三者(お客さん、時によっては自分自身の事もあるかも)の目を意識した途端に“演出”と呼べそうです。じゃ、演劇で演出ってのは具体的にどんな事するの?てなところもなんとなく判ってきたんじゃないでしょうか。てな訳で、『演劇で演出家は何するの?』という核心部分は明日のココロだっ。
演技してるとき目から星をキラキラといっぱい出しながら演技してる役者さんはなかなかカッコイイものです。その逆にどんよりと濁った目で演技してる役者さ
んには魅力を感じにくいものです。演技をしている時の役者さんの中には、役者さん自身の気持ちと、その時演じている役の気持ちが同時に存在します。一般的
に演技してる時には役者さん自身の気持ちは隠して役の気持ちのみを表現しようとしています。しかし完全に自分自身の気持ちを隠し通す事はまず無理です。ま
た、私が演出する時は、この『役者さん自身の気持ち』も隠さずに表現して欲しいと思ってます。例えば新人が「人前に出てセリフを喋るのはとても照れるな
あ」などと感じながら稽古をするとその「照れてる気持ち」は一生懸命役をやってるつもりでも、すっかり演技に反映されます。「稽古不足で…」
とか「まだヘタクソなんで…」なんてのも分かりやすい気持ちです。本人が意識してないにもかかわらずこの時「役の気持ち」と「役者自身の気持ち」を同時に
表現しています。練習するにしたがって、テレや引いた気持ちは取れ「一生懸命に役の気持ちになっていよう」というチョット前向きな気持ちが見えてきます。
はたまた「このセリフはこうしゃべって、こんなイントネーションで」なんて考えが見える時すらあります。ただ、照れながらやってる演技なんてほとんどの場
合見ていて楽しい物じゃありませんし「イントネーションが…」などとやってたらどんどん濁った目になっていっちゃいます、そこで役者さんは気持ちのコント
ロールをする事になります。
演
技をしてる時というのは、学芸会や人数合わせのスタッフの代役を除けば、役者をやろうと思ってる人が役者をやってる時間ですから楽しく思ってもらわなきゃ
いけません。ただ、楽しく思えったって楽しくないものは楽しくないし、「これは楽しいはずだ」なんてどっか間違ってます。しかし、海賊船の稽古でも新人達
だったり、演技が煮詰まって来たりすると「楽しくなく、苦しい」気持ちになって稽古してしまうこともあり「楽しくやってよ」とダメだしすると「つらいけど
一生懸命に楽しく思おう」なんて変な気持ちになり「楽しく思ってる」ように見える演技を「つらい気持ちで」一生懸命にやってたりします。
本物の自分自身の気持ちの切り替えなんで、とても難しいですが、なんとか楽しい気持ちで演技に挑んで欲しいものです。じゃ、楽しく思うためにはどうすれ
ばいいんでしょうか。まず、いい演技、上手い演技をしようとする気持ちを捨て、昔やった〜ごっこ(私の世代なら忍者ごっことか)のつもりになり、「今から
ロミオごっこ、とかジュリエットごっこの時間」と思っておきます。
さらに不安があっては当然楽しくなりません、セリフはしっかりと暗記し、自分なりの役の解釈(いずれやりますが性格分析などの役作りとはチョット違いま
す)もはっきりさせ、現在できるだけの不安は取り除きます。さらに「私はまだ下手だから」なんて思ってても楽しくありません。ここはすっぱりと「私はヘタ
だ、どうだすごくヘタなんでビックリしたろう」くらいは居直ります。またまた居直りついでに「台本もらったばっかりでどうしろってんだ」とか「煮詰まって
るんだからしょうがないじゃないか」なんてのも居直っときましょう。
さ
ていよいよ演技するぞっとなった時には、気持ちを「さあ、待ちに待った私の出番、かんばろう!」と盛り上げておき、演技をします。自信を持ってやってない
演技ほど見てて背中がむず痒くなる物はありません。色んな不安は全部居直りましょう。「発声か悪い?いいじゃないかヘタなんだから」「滑舌が悪い?いい
じゃないかヘタなんだから」「セリフの解釈がおかしい?いいじゃないか俺はこう思ったんだから」と居直り自信マンマンで下手な演技をしましょう。ここまで
出来たら演技中に「みんな俺の演技に圧倒されて感動してるぞ、ウヒヒヒ…」と勘違いしときましょう。
『楽
しく、自信を持って、勘違いしながら』演技できたならば、もうかなりの量の星が目から出てるはずです。『演技を試験や能力テストを受ける時のような気持ち
でやるのをやめて、台本のシチュエーションの中を、自分の役で遊ぶ、これ以上ないくらい精一杯夢中になって遊ぶ。』こんな気持ちで演技に挑んで欲しいと思
います。