E・ディフェンス

 

病院スタッフのための地震対策ハンドブック

–あなたの病院機能を守るための身近な対策-

URL: http://www.bosai.go.jp/hyogo/syuto-pj/outcome1.html




病院スタッフのための地震対策ハンドブック –あなたの病院機能を守るための身近な対策-

【成果物の内容】 将来起こり得る大地震に備え、このままではどのような被害が生じるか、それを回避す

るためには、今何をすべきで、どう具体的に行動すべきかの答えを導きだす手助けとなる のが、本ハンドブックです。

医療スタッフを対象として、自分が関わっている医療施設が来るべき大地震に襲われて も、医療施設内の人々の身を守り、さらには医療施設としての機能を保持させ続けるため に、どのような地震対策を実施することが良いのかを、本実験研究で明らかとなった事実 に基づいて具体的に示しています。

大地震による被害を想像できるような資料であるため、医療機器・什器メーカー等がこ れまでほとんど考えていなかった地震被害について新たに考えさせることができ、更には 地震対策を考慮した新たな医療機器を設計するうえでの参考資料にも成り得ると考えてい ます。

本ハンドブックとともに、E-ディフェンスで実施した世界初の医療施設の震動台実験 の動画データから、地震対策の必要性と対策方法とその効果を理解して頂くとともに、教 育や啓発に利用頂くための DVD「大地震への備え-機能保持をめざして-」を纏めました。

【成果物の概要】 医療施設が地震に見舞われた時の被害を予測します。それらの被害を軽減させ、施設の

機能を保持させるための参考資料です。また、実際の地震時の状況を把握しやすくため、 E-ディフェンスでの実験映像データを取りまとめました。

【想定される利用者】 医療従事者、病院経営者、病院設計者、患者様、医療機器・什器製作メーカー、 地震対策の興味がある方、一般国民

【成果物】

病院スタッフのための地震対策ハンドブック

DVD トップメニューとレーベル








「大地震その時病院は」 -都市施設の機能保持研究-その1/2

http://www.youtube.com/watch?v=p07UiCjutks


「大地震その時病院は」 -都市施設の機能保持研究-その2/2

http://www.youtube.com/watch?v=D6glbb3ZrFI




E―ディフェンスを用いた 地震災害時における医療施設の機能保持性能 向上のための震動台実験を実施

http://www.bosai.go.jp/hyogo/news/experiment/pdf/experiment101004.pdf




医療施設の地震対策を検証する 

   ─長周期地震動に免震構造は耐えられるか

   

     (日本医事新報 No. 4425 2009年2月14日号 p16-20)


 近年注目される長周期地震動。これを受けた場合、免震構造の病院は大丈夫なのか。また、直下型地震が起きても耐震構造の病院の機能は保持されるのか。そんな実験が先日、兵庫県にある研究施設で行われた。

    

E―ディフェンスで世界初の実験

 兵庫県三木市にある防災科学技術研究所兵庫耐震に学研究センター。

平成7年1月の兵庫県南部地震(阪神大震災)を契機に、建築物の耐震性を研究する国の研究施設として17年に設置された。
 ここには通称「E―ディフェンス」と呼ばれる国内最大規模の実大三次元振動破壊実験施設がある,巨大な振動台の上に実物大の建築物を置き、地震動を加えてその破壊過程や損傷の状況を観察するものだ。

   

医療機関の機能が保持できるか検証

 このE―ディフェンスで昨年12月と今年1月の2回にわたり、医療施設に関する実験が行われた。
 これは文部科学省が19年度から始めた首都直下型地震防災・減災特別ブロジェクト」。

首都直下でマグニチュード7程度の地震が起きた場合に、重要施設(医療施設や情報通信施設)がいかに機能を保持するかをテーマにしている。

 実験で使用された試験体の「病院」は縦8メートル、横10メートル、高さ18メートルの4階建て(写真1)。耐震構造を持つRC造だ。
 内部には、診察室や病室はもちろんのこと、X線撮影室、人工透析室、手術室などが実際の使用状況に近い形で再現された(図1)。
 医療施設の耐震実験をこれだけ大規模に実施したのは、世界でも今回が初めてとみられる。
まず、12月の実験は免震構造を持った建築物として行われた。
 免震構造は近年は病院にも普及し始めている技術,建築物の基礎の下に積層ゴム(写真2)などを設置して、水平方向の揺れのエネルギーを吸収する。
 免震構造は、周期が長いものほど性能が高いとされる。初期のものは2秒程度の周期だったが、現在は3~4秒のものが多く建設され、超高層ビルでは5秒のものもあるという。
 一方、1月の実験ではこの免震部分を取り外し、通常の耐震構造とした。

    
長周期地震動と短周期とを比較

 地震動は、12月の実験では「三の丸波」と呼ばれる長周期地震動が使用された。

これは東海・東南海地震が起きた場合、名古屋市の三の丸で想定される地震動で、震度5強に相当する。
 これに対して1月の実験では、短周期地震動として、直下型地震の地震動が使用された。

兵庫県南部地震の時に神戸海洋気象台で観測された地震動の80%レベルのもので、震度6強に相当する。
 長周期地震動は、数秒から10数秒の長い周期でゆっくりと、ゆらゆら揺れるのが特徴。

震源地が海溝など遠い場合に発生しやすい。
 これに対して短周期地震動では、短い周期でガタガタッという強い揺れが起きる。

   
十勝沖地震から注目された長周期地震動

 長周期地震動が広く知られるようになったのは、15年9月の十勝沖地震から。

このとき、苫小牧市にある石油コンビナートで44時間に及ぶ大規模な火災が発生した。
 これはタンクに貯蔵されていたナフサが長周期地震動で液面揺動(スロッシング)を起こし、貯蔵タンクの「浮き屋根」を外したのが原因とみられている。
 また、19年7月の新潟県中越沖地震では、遠く離れた東京・港区の六本木ヒルズ森タワーでエレベーター事故が発生した。長周期地震動に共振してエレベーターが大きく揺れ、ワイヤーが切断したのだ。
 エレベーターの停止装置は短周期地震動のみを感知する仕組みになっていたため、長周期地震動が起きてもエレベーターが作勤し続けたことが事故につながったとされる。

    

固定されていないベッドが動き出す

 E―ディフェンスの実験は公開で行われた。加震前の秒読みが始まると、実験棟全体が緊張感に包まれる。
 長周期地震動の実験では、加震開始直後は何も物は動かないように見える。

それがしばらくすると、ゆっくりと、大きく建物が揺れ始めた。
 やがて屋上に設置した高架水槽から水が噴き出し始めた。スロッシングで水槽の蓋が外れ、試験体の周囲は水びたしになった。揺れが収まったのは数分後だ。
 一方、短周期地震動の実験では、加震開始直後に強い揺れが起き、物が激しくぶつかり合う音が発生。しかし20~30秒ほどで揺れは収まった。
 実験後に点検した結果、建築物自体は、免震構造でも通常の耐震構造でもあまり損傷はなかった。電気、水道、ガス、スプリンクラーなどの配線、配管も今回は無事だった。
 しかし、建物内部ではもちろん被害が発生していた。各所に設置されたビデオカメラには、長周期地震動と短周期地震動で異なる被害の様子が記録されていた(写真)。

     

共振すると地震動の1・5倍の揺れに
 まず、長周期地震動では、
キャスターが固定されていない医療機器やベッド、什器類(椅子、カートなど)はいったん動き出すと制止が効かなくなる。
 激しくぶつかり合うので、その場にいる患者や医療従事者が負傷する危険性は十分にある。また、医療機器の突起物が突き刺さって壁に穴を開ける被害(写真3)も観察された。
 キャスターを固定していても、他の什器が衝突してくる危険性はある。また、床にあるチューブなどにひっかかって医療機器が倒れることもある。
 実験を担当した佐藤栄児主任研究員は、「通常、免震構造では地震の揺れを3分の1から4分の1に減らしますが、共振すると地盤と同じ程度か、1・5倍から2倍近くの揺れになってしまいます」と解説する。
 病院にはキャスター付きの機械や什器類が多い。免震構造にしたからと言って安心はできない。
 
また、揺れで医療機器とベッドが離れたりするため、点滴のチューブなどが外れる危険性もある。
 高架水槽も被害を受けた。佐藤氏は、新潟県中越沖地震の時も、高架水槽の蓋が外れて中の水が汚染され、医療用に使えなくなった病院があると指摘する。   

   
短周期地震動では固定しても被害が

 一方、短周期地震動も揺れはすさまじい。キャスターをロックしたにもかかわらず、人工透析装置がベッドの上に倒れたりする被害が観察された(写真4)。

また、ICU室では、天井から吊した棚に置かれたモニターがベッドの上に落下してきた。
 このほか、スライド式ドアが外れたり、床に直置きしたCTのガントリー部分がずれたりする被害も。スタッフルームでは、書棚の書籍が散乱し、エタノール瓶が落下した。
 佐藤氏によれば、
実際の直下型地震でも、医薬品が床に散乱し、薬品名が分からず使用できなくなった例があったという。「免震構造も十分ではないのですが、耐震構造だけの方がやはり被害は大きいですね」

      

改めて地震対策のマニュアル徹底を

 防災科学研究所では、今回の実験結果を踏まえ医療施設の地震対策を改めて検討するという。その中には、新しいキャスターの開発も含まれる。

21年度には、今回の試験体を再び利用して、そうした対策をとった実験を行う予定だ。
 それでは、医療機関は今後どのように地震対策に取り組めばいいのか。
 佐藤氏は「
一番いいのは、建物を免震構造にして、医療機器などを固定することだと思います。しかし、なかなか建て替えも難しいでしょうから、まず固定できるものは固定し、棚などはロック機構をかけて物が飛び出さないように対策をとることが必要になるでしょう。

 廊下や病室に余計なものは置かないといったことも大服です。改めて、地震対策のマニュアルを徹底することが重要だと思いますね」と指摘する。   

    

病院の耐震化率は50・8%

 ところで、病院の耐震化はどこまで進んでいるのだろうか。厚労省が昨年11月に明らかにした調査によると、20年5月現在で新耐震基準(昭和56年策定)をすべて満たしている病院は半数に過ぎないことが分かった。
 これは全国の約9000病院を対象に厚労省が調査したもので、8130病院が回答した。
 それによると、病院の病棟、外来、手術検査の各部門で「すべてが新基準」と回答したのは4132病院(50・8%)。「一部が新耐震基準」は2694病院(33・1%)で、「すべてが新耐震基準ではない」が1010病院(12・4%)もあった(図2)。


 17年2月に実施した前回調査と比べても、「すべてが新基準」と回答した病院の割合は14・4%しか増えておらず、耐震化への取り組みは遅れていると言わざるを得ない。
 さらに、災害拠点病院ですら、回答した565病院のうち「すべてが新基準」と回答したのは331病院(
58・6%)にとどまった。一方、「一部が新耐震基準」は209病院(37・O%)、「すべてが新附震基準ではない」は22病院(3・9%)だった。  

    
民間病院の耐震化補助 来年度から2分の1に

 こうした結果を受け、厚労省は21年度予算で民問病院が耐震化をする場合の補効率を従来の3分の1から2分の1に引き上げる方針だという。

 病院の機能を保持するため、免震構造でも地震対策の必要性が今回のE―ディフェンスの実験で明らかになった。その一方で、27年前の耐震基準すら満たせない病院が半数近くもあるという現実。そのギャップに、医療機関を取り巻く環境の厳しさを、改めて痛感させられる。