◎99年10月



[あらすじ]

 末永は中堅プロダクションのテレビ番組作成ディレクター。 車を運転して家に向かうと我が家をパトカーが取り巻いていた。 逃亡中の強盗殺人犯が我が家に押し入り、妻に銃を突き付けて立て籠もっているという。 家に携帯で電話をかけるとはたして犯人が出てきてある取引を持ちかけられる。 妻を助けるため末永は急ぎ準備に取りかかる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 物語は主に、末永の妻による過去の忌まわしい出来事を中心とした回想と、犯人との取引を受け準備を行う様子や妻との出会いを回想する夫による語りの2つのパートが交互に展開する。 この妻の回想部分が、底知れぬ悪意による非常に不快な出来事を被害者の視点から語るものでページをめくるのも辛くなる。 終盤のまさに驚天動地の展開で相当挽回したものの、もう少し気持ちの良い話が読みたいですね。



[あらすじ]

 ビリー・ボブはアメリカの国境警備隊であるテキサス・レンジャーの一員だったが、敵と遭遇中に誤って親友でもあった同僚のL.Q.ナバロを撃ち殺してしまう。 今はテキサス州で弁護士をしているが、L.Qのことが常に頭から離れない。 ビリーは暴行殺人容疑で逮捕されたルーカスという19才の少年の弁護を依頼される。 彼は本当はビリーの息子だった。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 親友を過失により死なせてしまい、自らを狭い世界に閉じこめ抑制の日々を送るという典型的なハードボイルドの設定。 主人公は子供には優しいが不正には過度の暴力で対抗してしまうあたり実にアメリカ人好みだが、私には暴力衝動の強い変人男とも思えた。 雰囲気はとてもいい本なのだが、少々長すぎて十分整理されているとは言えない。 知り合いの息子の無軌道ぶりや証拠不十分で釈放された殺人者、麻薬捜査官らの物語における役割も結局よく分からず。



[あらすじ]

 フリーカメラマンの絹田信一は母を事故で失い、2才の時に母と離婚した父親とは24年間会っていない。 ある晩、早坂という女性からその父親が死んだとの連絡を受ける。 絹田は恋人の美加と親友でオカマの鯉丸の3人で墓参りに行き、形見として父親が描いた島の絵を譲り受ける。 この頃より、見知らぬ者たちから誘われたり脅されたり、彼の身辺は慌ただしくなる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 さほど派手さもない現実味の薄い小品だが、熟練した作者の手によってなかなか楽しめる作品になっている。 新宿、麻薬といった風俗描写や人間模様などそれなりに描かれ、際だった破綻もなく、テンポもほどよく進み飽きさせられることはない。 書きようによっては金の亡者たちの争いや主人公を取り巻く三角関係などもっとドロドロした話になるところ、明るめのあっさり風味に仕上がっているのも作者の持ち味というところか。



[あらすじ]

 3年連続銃剣道日本一の自衛官佐木義男は、女絡みで辞職勧告を受け東千歳駐屯地を出る。 紹介された再就職先にはどこも空しさを感じさせられた。 札幌すすき野で昔の上官と酒を飲んだ後、路地で男2人に追われている女を助ける。 一条リリーというかつての人気ストリッパー。 殺人現場を目撃して逃げている彼女を佐木はガードすることに。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 日本推理作家協会賞を受賞した
「幻の女」をもう1歩と感じた私でしたが、この物語も政界を震撼させるメモを巡る争いなどという使い古された設定にまず疑問。 また終盤の真相を語るあたりもっとシンプルに分かりやすくできないものか。 ラストも楽観的すぎるのでは。 と、不満はあるけれど相変わらず活劇場面は迫力があるし、特異なキャラクタを多く配して、話の展開も速く、最後までグイグイ引っ張り面白さは十分。 主人公2人の描き方も好感が持てる。



[あらすじ]

 江戸時代後期、東海の3万石の小藩。 わずか30石の武家の3男坊新吾は、友人の太郎左、仙之助と直心影流高田道場に通っている。 このたび藩校が開かれることになり、剣術の教授に高田道場と興津道場の道場主が挙げられた。 比較的身分の高い師弟が通う興津道場は高田道場を目の敵にしていた。 教授の行方は門弟5人ずつの御前試合で決せられることに。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 6短編と1中編からなる。 短編はいずれも10代後半の少年剣士たちの爽やかな青春時代劇で、清新の意気に富んだ彼らの姿がとても眩しい。 男同士の友情や新吾と幼なじみの娘志保とのやりとりなど実にほほえましく、殺陣場面も多いものの、上手くまとめられており、どれも気持ちのいい作品になっている。 しかし中編は藩の転覆を狙う勢力のどろどろした陰謀の話で他の短編と雰囲気が異なり、説明調の語りも多く残念でした。


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