◎98年6月



[あらすじ]

 サンフランシスコの私立探偵ジョン・タナーに依頼の電話をかけてきたのは、恋仲にありながら6年前にある事件がきっかけで突然姿を消した秘書のペギーだった。 彼女は今シアトルに住んでおり、なんと3週間後に結婚すると言う。 その婚約者の25才の娘が2か月ほど前から行方不明のため探して欲しいというものだった。 彼女の結婚話に激しく動揺しながらもタナーは依頼を引き受ける。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ヌードモデルにポルノ業界など軟らかい描写がかなり出てくるサービス精神旺盛な話だが、全体には至極オーソドックスな私立探偵もののハードボイルド。 デジタル技術など新しい話題もうまく取り入れ、街や人々の雰囲気も良く出ており、コンパクトにまとまったいい作品だと思いました。 ただこの物語のもう一本の柱とされている大人のラブストーリーは意外と切なさが募らない展開で物足りなかった。



[あらすじ]

 江戸中期1700年代半ば、両親に死に別れた幼子は長唄の唄うたい小十郎と踊りの師匠おしゅん夫婦の養子となった。 両親に役者として厳しく鍛えられ、仲蔵の芸名を得る。 由緒ある中村座で子役として評判をとるが、呉服商の吉川に勧められいったんは舞台から身を退く。 しかし無為な日々が続き、養父母が相次いで亡くなったのを機に19歳にして芝居に戻ることにする。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 第8回時代小説大賞受賞作。 歌舞伎界のことはほとんど知識のない私ですが、この中村仲蔵の波瀾万丈の人生は人間ドラマとしてかなり面白く読むことができた。 芸の世界での能力、身分、血筋、嫉妬などの軋轢にもまれながら芸の道に励む仲蔵の姿はなかなか迫力がある。 仲蔵が歌舞伎界で揺るぎない地位を獲得してからの展開がやや浅く感じられたのは残念だが、是非本物の歌舞伎を見てみたいと思わせます。



[あらすじ]

 写真家志望のメアリーは恋人のレックスに頼まれてロサンゼルス国際空港で男にブリーフケースを渡し、大きなスーツケースを受け取る。 ところがその交換の直後ブリーフケースが爆発。男は死に、メアリーは空港爆破テロリストとしてFBIに追われる身となってしまう。 さらにスーツケースを狙う2人組にも追われたメアリーは髪を染め変装して偶然知り合った芸術家の家に転がり込む。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ごく普通の女の子がふとしたはずみ、成り行きから凶悪事件の主犯とされ、自分の身を守るため本当に危険な犯罪者、連続殺人者となっていく顛末が、本人の手記という形で描かれる。 派手なアクションと若い女性が主人公らしく恋愛劇も織り込みながら軽快なテンポで話は進む。 彼女を利用して名を挙げようとするポップアート芸術家やマスコミ関係者などのアメリカ風俗も面白い。 映画を見ているようにラストまで一気に楽します。



[あらすじ]

 昭和9年6月の深夜、佐世保湾内に停泊中の水雷艇「夕鶴」が突然爆発して沈没。原因不明の出来事だった。 時は移り昭和16年12月。日本海軍は一路ハワイ真珠湾へと向かっていた。 加多瀬大尉が水雷長を務める潜水艦伊二四号は背中に乗せた豆潜水艦による敵艦船攻撃を任務としていた。 また加多瀬の友人榊原大尉は空母「蒼龍」搭載の攻撃機搭乗員として第二波攻撃に加わることになっていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 書名どおり壮大なスケールを感じさせるミステリー。 中盤以降、現実と幻想の入り交じったような不思議な時空を超えた物語世界が展開する。 魅力的な作品と思うが、一方、物語の性質上、突然別な場所、別な時代へ話が飛ぶことが随所にあり、ついていけずにとまどう場面も多い。 登場人物の哲学めいたせりふも多く、単純に面白本を求める私としては、この特異な作品世界を楽しむところまでは行きませんでした。



[あらすじ]

 市民公園の植え込みの陰で私立青鹿女子学園高等部3年生の絞殺全裸死体が発見される。 生徒から馬鹿にされていたクラス担任の男性教師に嫌疑がかかるが確証はない。 翌日、今度は知事公舎裏の河川敷で同じクラスの生徒の同様の死体が発見される。 その頃警察内では、怠慢を注意された若い刑事が仲間に暴行を働き逮捕される事件が起きていた。

[採点] ☆☆

[寸評]

 奇想天外なSF紛いの快作ミステリーを連発していた作者のごくごく普通の犯罪ミステリー。 これが、大した進展もなくむごたらしい殺人だけが連続し、終盤でばたばたと真相が描かれるだけの凡作で、とても残念。 女生徒の連続殺人と平行して描かれる身勝手な刑事による仲間への復讐劇も、なぜこの話がこの物語で必要なのかさっぱり分からない。 相変わらず登場人物たちの名前が凝りすぎというか読みづらいのが唯一作者らしいです。


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