[寸評]
日中の協力による警察と中国の黒社会の二つの組織が入り乱れて、日本に潜伏している香港の元大学教授を追う。 ちょっとあり得ないほどのド派手な銃撃戦アクションが描かれるのだが、その死屍累々の臨場感、緊迫感には圧倒される。 ただ物語はほぼ一直線で、もう少しひねりがほしかったところ。 警官が日中とも有能すぎるほどだし、日本側警察官のくだけた物言いにも違和感を感じた。 直木賞候補となったが受賞は逃したが、月村了衛にはもっと面白い本がありますよ。
[寸評]
短いもので3ページ、長いもので40ページ弱の13短篇をsweet、Spicyなど、味わいの5章に分類。 作者には珍しい性愛もの(『anan』掲載)からSF仕立て、恐怖の結末まで、多彩なモザイクのような作品集。 妖怪、推し、スワッピング、BL、擬人化したソファ等と変幻自在に題材を料理している感じだ。 主人公が猫に転生する「神様はそない優しない」は思わぬラストに驚くも、やさしい気分で終われたのは良い。 推しを描く「Droppin' Drops」も印象に残った。
ミネソタ州ミネアポリスに暮らす十二歳の少年ルークは優秀な生徒ばかりが通う学校の中でも群を抜いていた。 その年で一流大学への飛び級を打診され、両親はただ驚いた。 また彼にはちょっとした特殊能力があった。 周りのごく小さなものを手を触れずに動かしてしまうのだ。 そんな六月のある日の真夜中。 ルークは三人の男女に両親を殺され、薬で眠らされて誘拐される。 彼は自分の部屋そっくりに設えられた部屋で目覚める。
[寸評]
<研究所>に誘拐され異様な実験を繰り返される超能力少年少女たちが起こす反乱劇。 二段組み700ページを超す大長編だが、さすが巨匠キング、最初から最後までスラスラと読めてしまう。 後半、ルークが研究所を脱走してからのサスペンスの盛り上げも堂に入ったもの。 ただ西部劇さながらの銃撃戦は痛快だが、研究所側の捕獲部隊の無策というか杜撰な計画はあまりに強引で呆れた。 クライマックスの超能力を駆使してのダイナミックな展開もキングならではだ。
[寸評]
内容的に独立した推理短編五編の作品集。 いずれも一編一編異なる趣向の、読者への挑戦状まで詰め込んだ多彩な設定のミステリーだ。 例えば、推理小説の原稿を汚してしまい虫食い文章の修復を試みる二編目など、このアイデアで一編作ってしまうのかと驚きもあったが、それがそのまま面白いには結びつかない。 表題作は興味は惹かれたが、私の読解力がないのか、オチ分からず。 瞬間移動者の殺人を描く五編目も、アイデアと本格推理の融合はしっくりこなかったな。
[寸評]
作者が所属する句会で生まれた俳句をタイトルにした短編小説十二編。 試みが面白く、どのような題材でもそれなりにしっかり面白いものにする職人技を感じさせる。 ちょっと嫌な人間の出てくる話が多いようだが、長くても30ページ程度の中で、どれも最後は情感を持って上手にまとめられている。 中では巻頭の女性のやり場のない想いを綴った作品と、兄の野辺送りとそこで出会う女子中学生との交流を描いた作品がじっくりと描かれる情景と共に心に沁みた。