[寸評]
作者は今まで理系の素材を上手く溶け込ませた作品を続けてきたが、今回は天文学を取り上げた。
高校時代、協力して一つことをやり遂げた仲間たちが中年になり、小さな天文台造りに再び集まる。
それぞれが悩みや葛藤を抱えながら、仲間のひとりの夢に力を貸し合う姿は、温かく爽やかな物語ではあったがそれ以上のものではなかった。
仲間たちと熱を入れていく姿には逆に少々醒める感じ。
途中で明かされる衝撃的なエピソードも唐突で中途半端な印象。
三十八歳のマイクはロデオ興業の乗り手。
裸の暴れ馬に乗り手が振り落とされるか馬がおとなしくなるまで乗り続けるライドアウトで人気を博し、マイクはスターだった。
しかしある日、タバスコという荒馬を鞍なしで乗りこなしながら、突然地面に投げ出され右足を折ってしまう。
マイクは退院し、ギプスは四週間前に取れたが足を引きずっている。
スタジアムに戻った彼は雇い主のハワードからクビを宣告される。
[寸評]
47年前の作品だが、クリント・イーストウッドが昨年映画化したことにより原作本として翻訳された。
主人公はメキシコに住む息子をテキサスの雇い主のもとに送り届ける仕事を引き受け、国境を越える。
物語の大半は、見つけ出した少年とマイクの逃避行を描くロード・ノベル。
道中の二人の交流と、男の真の強さとは、といったことが描かれていく。
車を盗まれたり熾烈な道中も紆余曲折あって面白いが、少年が徐々にマイクに心を通わせていく様がいい。
[寸評]
アリバイ崩しの本格推理もの五編の短篇集。
いずれの作品も練りに練られたプロットで、思いも寄らない推理による見事な逆転劇を見せてくれる。
しかし短篇なので仕方がないのか、時計屋探偵・美谷時乃が刑事から話を聞いただけで即座にトリックを見破ってしまうというパターンはどうか。
犯行時間が非常に限られていたり、変装に無理があったりなど、突っ込みどころがある気がした。
またタイトルがちょっと。
時計屋探偵はぜんぜん冒険してないよ。
[寸評]
瀬戸内海の港町・笠岡の旅宿で働く娘を主人公にした、安政六年から明治十三年にわたる物語。
六つの人情話の連作短編集で、幕末から明治初期という激動の時代を背景に、実在の人物が登場するエピソードもある。
いずれの短編も、悲しみに彩られた、情味豊かでたいへんドラマチックな話に仕立てられている。
また、荒海の場面などは作者らしいダイナミックなところも見られる。
主人公・志鶴の成長物語としても読める。
2019年発行の単行本の文庫化。
大手銀行の情報・報道課の秘書をしているカレンは仕事に疲れ、友人のマリアのサマーハウスを使わせてもらうことにする。
レイキャヴィクを車で出てシンクヴァトラ湖の湖畔にあるサマーハウスに着きリビングに入ると、天井の太い梁の一本に背中をこちらに向けた人間がぶら下がっていた。
それは友人、マリアに間違いなかった。
かけつけた警察は自殺と断定した。
他のことを示唆するものはなにもなかった。
[寸評]
アイスランドのエーレンデュル捜査官を主人公とするシリーズ第6作。
シリーズの他作品のような二人の同僚との捜査ではなく、今回はエーレンデュル単独で、女性の自殺の事件とも言えない微かな疑念を追求していくのと併せ、複数の若者失踪未解決事件を辿る様子が描かれる。
主人公の捜査は一体どこに向かっているのか五里霧中で、読んでいてじりじりする重苦しく暗い物語だが、徐々に導き出された事実が真相に結実していくところには驚きがあった。
[導入部]
種村久志は四十五歳、祖父が開業した種村薬局の三代目。
種村薬局は駅前の薬店でもなく、病院のそばで処方箋を受け付ける“門前薬局”でもない、住宅地の中で調剤と市販薬を販売する昔ながらの町の薬屋だ。
近くにチェーンのドラッグストアがオープンし、種村薬局の売り上げは目に見えて落ちている。
高校時代、文化祭でオオルリを描いた巨大な空き缶タペストリーを作った仲間たちともずいぶん会っていない。
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
五月の晴れた日、那野県警捜査一課の捜査員である僕は美谷時計店の扉を開いた。
カウンターの向こうには二十代半ばの店主の美谷時乃。
「またアリバイ崩しをお願いしたい」と僕は気恥ずかしさを感じながら言った。
美谷時計店はアリバイ崩しを請け負う、おそらく日本で唯一の時計店だ。
料金は成功報酬で五千円。
今回の事件は、被害者をダム湖に落として溺死させるという手口だが容疑者にはアリバイがあった。
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
安政元年(1854)、九歳の志鶴は実家の口減らしで備中国北部の寒村から笠岡の旅宿・真なべ屋に連れてこられた。
以来、主人の伊都は宿の仕事を手伝わせながら志鶴を大事に育ててきた。
笠岡の旅宿は、かつて海が荒れる満潮を嫌い、引き潮を待つ船が寄港し、船手衆や客が泊まったことから「潮待ち宿」と呼ばれた。
安政六年、志鶴ももう十四歳になっていた。
ある日、目つきの鋭い男が真なべ屋に泊まりに来る。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
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