◎17年12月


開化鐵道探偵の表紙画像

[導入部]

 明治12年、工部省鉄道局の技手見習の小野寺乙松は、井上局長に命じられて、神田相生町の長屋に住む元北町奉行所同心の草壁賢吾を訪ねる。 局長の依頼は、鉄道工事の現場で起きた事件の調査だった。 京都、大津間の逢坂山トンネルの工事現場で、測量数字の書き換えや、落石や資材置場の材木が崩れるなどが続けて起きていた。 承諾した草壁は、局長と小野寺と共に、さっそく工事現場へ向かう。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 明治期、日本の近代化を担う鉄道建設の現場を物語の舞台とした設定がまず良い。 ここで元八丁堀同心が、ホームズとワトソンよろしく助手を連れて推理を展開するというアイデアの勝利か。 さすが鉄道会社勤務の作者で、鉄道関係の描写には淀みがない。 ミステリの内容はオーソドックスな本格ものだが、動きのある物語で、事件が次々に起こって読み手を飽きさせない。 最後、関係者を一堂に集めての謎解きも分かりやすい。 採点はちょっと甘め。


ビンボーの女王の表紙画像

[導入部]

 立花麻衣子はラジオ局の総務で派遣社員をしていたときに誘われて、東洋テレビの朝の情報番組のADになった。 「モニスタ!」は月曜から金曜まで週5回の放送。 番組で流すVTRを作るチームのうち、3つある芸能班のひとつに所属している。 ADの仕事は時間が不規則で食事もろくに取れず、週に2回は徹夜。 直属の上司はディレクターの成田。 居丈高でよく怒られるし “クラッシャー上司”の典型だ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 過酷な労働の日々に疲れ仕事を辞めた主人公が、日雇いの生活に落ちていくうち……というお話。 主人公にとってかなり深刻な日々が続くのだが、彼女の性格そのままからっとした描き方で、お話が暗いトーンにならないのがいい。 作者はテレビや映画の脚本家だそうで、ありふれた話がドラマチックに綴られていき、見せ場もしっかり用意され、後半の突発的な出来事などは作りものめいてはいるが、全体にエンタメドラマとして気軽に十分楽しめる。


いくさの底の表紙画像

[導入部]

 太平洋戦争中のビルマ。 部隊の編成完結早々トラックで運ばれ、街道で下車し、山道を徒歩行軍に入った。 北部シャン州、山の中のヤムオイという名の村が目的地だった。 商社「扶桑綿花」の社員でビルマ語に堪能な依井は、通訳として将校待遇で部隊に加えられていた。 指揮官は賀川少尉。 重慶軍の遊撃隊が活発化している地域であり、警戒しながらの6時間の山道の行軍でようやく村の入口に着く。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 日本軍将校の殺害事件から始まる戦争ミステリー。 犯人捜しの論理で読ませる本格推理もの。 犯人の独白が時折挟まれる構成で、動きは少ないものの、退屈はしないし、真犯人の衝撃はなかなかのものではあった。 戦争、日本軍の特質が事件に関わっているが、殺害に至るだけの動機、激しい憎悪、怨恨というあたりの理屈がもうひとつ理解できず。 年末のミステリーベスト選びなどでかなり評価の高い作品だが、私には合わなかったようです。


約束の表紙画像

[導入部]

 ロサンジェルス市警警察犬隊のスコット巡査はジャーマン・シェパードのマギーを連れて逃亡中の殺人容疑者を追って捜索区域に入った。 一方、探偵エルヴィス・コールは国防総省の依頼で燃料製造している会社の上級管理官の女性の依頼で、突然連絡の取れなくなった部下の技術者エイミーの行方を捜していた。 エイミーの息子の幼なじみの家を訪問するが応答がない。その時、多くの警官が現れる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 本作は、スコット巡査と警察犬マギーのコンビ第2作であり、同じ作者の私立探偵コールと相棒のシリーズとがコラボした物語。 それぞれ過去の作品を読んでいなくても大丈夫。 二つのコンビがつかず離れず、また協力し合いながら複雑な事件の真相を追っていく。 かなり入り組んだ話だが500ページ以上をスピーディに飽きさせず引っ張る。 ただ主犯格が執拗にスコットの命を狙うあたりはちょっと理解できず。 また登場人物が非常に多くて混乱した。


夜空に泳ぐチョコレートグラミーの表紙画像

[導入部]

 中学1年の啓太は母子家庭。 夏休み限定で新聞配達のバイトを始めた。 啓太が住むのは大きな街から四駅ほど離れた小さな町で、駅を見下ろす南山手エリアの夕刊を自転車で配達して回る。 同級生の近松晴子の家にも配達する。 晴子の祖母の烈子さんはちょっとした有名人だ。 八十才を越してがっしりした体つき、中学まで毎日晴子を送迎し、誰かが晴子を泣かせたりしようものなら火を噴くように怒る。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 登場人物が少しだけつながった短編5編。 とりわけ女性の強さが感じられる作品集で、厳しい日常、生活環境にある女性がたゆたうように生きていきながら、それでも前を向いており、おぼろに光の見えるラストが用意されている。 物語の設定も興味を引かれるものになっているし、展開もドラマチックだが極端でないところがいい。 いずれもしっかりと人間が描けた物語で、本作が作者のデビュー作とはとても思えない。 今後が気になる作家だ。


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