◎15年4月


刑事群像の表紙画像

[あらすじ]

 東京大田区の路上、ガードレールに寄りかかる形で、三十代後半の女性の全裸死体が発見された。 正面から首を絞められ殺されたらしい。 公道での放置のため、早くもネット上には写真付きでツィートも。 テレビでニュース報道されると麻布で歯科医院を開業している医師が、ネットで流れた写真を見て、自分の婚約者だと通報してきた。 警視庁捜査一課の刑事・大河内はさっそく歯科医院へ出向く。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 単純と思われた女性殺害事件だったが、二年前の別の事件との関連が浮上し、捜査が難航していく中、奮闘する刑事たちの姿と事件の真相が語られる。 退職した刑事の転落死も絡み、事件はかなり複雑で二重にも三重にももつれており、読んでいてすんなり頭に入っていかないところも。 展開が速く飽きさせない作品ではあるが、「刑事群像」という書名から、もっと刑事たちの姿や葛藤、ぶつかり合いなどを主体に描き込んで欲しかったところ。


ザ・ドロップの表紙画像

[あらすじ]

 ”カズン・マーヴの店”のバーテンダーをしているボブがその犬を見つけたのはクリスマスの二日後だった。 四時から二時のシフトを終え店を出て集合住宅地の歩道を歩いていたところ、道路沿いに出されたゴミ容器からカタカタいう音と鳴き声が。 蓋を開けるとけがをした子犬がいた。 子犬を押し上げたところでそばの家からナディアと名乗る女性が話しかけてきた。 ボブはその犬を飼うことにする。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 ボストンの下町を舞台としたレヘイン色の濃いノワール中編。 といっても、主人公がちょっと愚鈍な感じに描かれているのは意外だ。 終盤を除き、犬の持ち主だという男が現れる程度でさしたる波乱はない。 短い作品なので、ノワールの雰囲気だけで持たせた感じ。 ラストは作品の印象を一挙に決定づける衝撃で幕を終える。 帯にある「孤独な男と一匹の犬の出会い」からのドラマは、期待した割に意外と語られず、個人的には残念でした。


狗賓童子の島の表紙画像

[あらすじ]

 弘化三年(1846年)陰暦五月、出雲から海上二十里の隠岐「島後」の西郷港に十五歳の流人の少年が降り立った。 九年前挙兵した大塩平八郎の高弟のひとり、西村履三郎の息子・常太郎だった。 大塩の乱後捕縛された常太郎は六歳から親類に預けられ、今般遠島を言い渡されたのだ。 島の者たちは、悪政に苦しめられる民衆のため立ち上がった大塩とその仲間を思い、常太郎の来島を迎えた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 寡作だが出せば傑作・飯嶋和一待望の最新歴史小説。 冒頭、流刑の島に降り立った少年を島民が総出で迎える場面から心が躍るような物語が始まる。 前半の大塩平八郎の乱のくだりや、常太郎が島の中で村人と暮らし成長していく様子はとりわけ興味深く、面白く読める。 後半のコレラ渦への対応がやや長く感じ、その後の隠岐住民と松江藩との対立の話も緊迫感はあるが、常太郎不在のままかなり長く語られるのは構成としてやや不満です。


太宰治の辞書の表紙画像

[あらすじ]

 みさき書房に勤めている私は、担当している作家の三冊目の本が大きな賞の候補になり、出版元の新潮社で作家と待ち合わせ選考結果の連絡を待つことになった。 作家を待つ間に脇の柱を見ると、”100年前の新潮文庫 創刊版 完全復刻”と書かれ、復刻本の見本が置かれていた。 巻末の刊行案内には懐かしいピエール・ロチの名が。 そこから別の作家に連想のページがめくられていく。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 春桜亭円紫という落語家が登場する文学系ミステリ《私》シリーズの最新作で短編3編。 10数年振りの新作ということで、主人公も大学生から結婚して子供がいる年齢になっています。 連想が連想を呼びそこから謎が生まれる、言葉が次の言葉を紡いでいく完全なる文学系のミステリで、読み手を選ぶ本。 思わせ振りで謎かけめいた文章から、作者が楽しんで書いていることがよく分かるが、私はこのシリーズのいい読者ではないようです。


ラスト・ワルツの表紙画像

[あらすじ]

 東洋一の快速列車、満州鉄道の特急<あじあ>号は満州国の首都・新京を定時に発車した。 表向きは大東亜文化協会の事務員、本当の貌は日本陸軍のスパイの瀬戸礼二は、前方の席で落ち付きなく座る在満ソ連領事館のモロゾフ書記官を見ていた。 瀬戸は、金と甘言、脅迫でモロゾフを掌握し、相応の金と引き換えにソ連の内部情報を入手してきた。 今日は列車内で接触することになっている。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 日本陸軍の諜報部”D機関”シリーズの第4作で短編2編と中編1編。 満鉄特急を舞台とした短編はスパイものとして展開も速く、動きがあり切れ味鋭い好編。 短編のもう一作は、アメリカ大使館での仮面舞踏会を舞台に、日本の公爵夫人の語りという異色作で、ロマンチックな雰囲気も楽しめ、スパイものとしても及第点。 一方、ドイツ映画界を背景とした中編は、登場人物に魅力がなく、鋭さもなく、展開が派手目の割に盛り上がりに欠けた。


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