[寸評]
40~80ページほどの犯罪心理サスペンスの短編6編。 いずれも、表からはうかがえない人間の心の奥底にある恐ろしさが描かれている。 面白さという点ではどの話も平均的だと思うが、真相に至るまでの展開、語りが滑らかで、楽しませてくれる。 冒頭の「夜警」や表題作「満願」、ちょっと毛色の変わった「万灯」など、緻密に構成された、しっかりと練り上げられた物語が多く、どんでん返しもそれなりに決まっている。 水準を超えた作品群だ。
[寸評]
典型的なクックの作品であるが、大変安定した語りで、容易に読者をミステリの世界に引き込んでくれる。 今回はジュリアンの死の真相を追って、親友が世界各地を旅して回る様子が描かれており(無論、観光ムードなどかけらもないが)、それぞれの土地の特色が描写され、興趣を盛り上げてくれる。 冷酷な事象が静かに客観的に語られ、終始重苦しい雰囲気に満ちているが、それがクックの世界だ。 意外性は薄いが不満のないレベル。
[寸評]
日本ミステリー文学大賞新人賞受賞。 身代金運搬を母親にという犯人の要求だが、”母親に”という部分がさほど強い指示事項とも思えないうちから、娘が誘拐されている切迫した状況の中で、遙かブラジルまで妻を探しに行くっていう進み方はどうなんですかね。 もう少し自然な流れとして納得できるように、説得力のある文章で進めて欲しいところ。 そんな流れの結果としてサスペンスが感じられず、ブラジルでの騒動もお粗末な展開でした。
[寸評]
主人公は、かの文豪デュマが生んだ三銃士のうちの一人の息子ではなく、全員の息子という奇妙な設定はともかく、内容自体は古典的でオーソドックスな中世冒険小説としてとても面白い物語だ。 もともと本文は駄洒落が多く、それらは原文訳でなく日本語の駄洒落に適宜置き換えられているのは致し方ないところか。 随所に作者自身が描いたという挿絵が挿入されているのだが、これがまた実にユーモアのある味わい深いもので感心しました。
[寸評]
主人公が居候している家の老夫婦が、月夜に対岸の温泉に行くため湖にたらい船を出すという幻想的な光景で物語は始まる。 自然に抱かれて生きている人間が、様々な理由・思惑・考え方から自然を壊し、その人工物をまた他の人間が破壊していく。 営々と続く自然の営みと、移ろいゆく儚い人間の存在感の対比が200ページにも満たない短い物語からしっかりと感じ取られる。 静かな空気に満ちた、心を優しく揺さぶるような作品でした。