◎11年1月


追悼者の表紙画像

[あらすじ]

 浅草の路地裏にあるアパートの一室で、女の死体が発見された。 絞殺されていた女は、さいたま市在住で丸の内にある大手旅行会社の社員、大河内奈美。 調べが進むにつれ、彼女は夜に売春をしていたことが判明。 昼は美人OL、夜は売春婦という二つの顔を持つ女の「丸の内OL殺人事件」としてマスコミを騒がせることになる。 ノンフィクション作家の笹尾はこの事件を取材テーマに決める。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 久し振りに折原一の定番の叙述ミステリを読んでみた。 題材は有名な東電OL殺人事件からとったもので、それをいかにフィクションとして料理するかが作家の腕の見せ所だが、見事な腕前で自分の作品に仕上げている。 語り手を変え、視点を変え、過去と現在を交錯させるいつもの描き方で、読みやすく、安心して楽しみながら翻弄される。 ラストは唐突な感じだが、それまで楽しませてくれたので四つ星に。


夜は終わらないの表紙画像

[あらすじ]

 1985年、ワシントンDCのサウスイースト地区にあるコミュニティ菜園の草むらに14歳の少女の射殺死体が横たわっていた。 彼女の名前はイヴ(Eve)。 前から読んでも後ろから読んでも同じ。 その前の死体はエイヴァ(Ava)、その前はオットー(Otto)だった。 マスコミは「回文殺人事件」と呼んだ。 その頃新米警官だったラモーンは、2005年の今、暴力犯罪班の巡査部長になっていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 警察小説かつ家族の強い絆を描いた感動作。 型にはまった描写ではなく、人間の強さ、弱さが自然に描かれている。 ラモーンの息子の友人の死の真相が明らかになるあたりは、強い衝撃と哀しみを与える。 中盤までは定石通り、関連性不明の事件がいくつか並行して描かれ、登場人物が増えるにつれて読み手も混乱気味に。 しかし後半の終息局面は鋭いアクションシーンも交え、読後に満足を得られる作品。


ツナグの表紙画像

[あらすじ]

 人付き合いが苦手で会社でも孤立している平瀬愛美は、一度だけ参加した飲み会で気分が悪くなり、一人外で座り込んでいるところをタレントの水城サヲリに介抱される。 以来彼女のファンになったが、3か月前彼女は急性心不全で亡くなってしまう。 愛美はネットを辿りに辿って使者−ツナグと呼ばれる人を通じて死者に会えることを知る。 使者との待ち合わせ場所には少年が待っていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ツナグと呼ばれる使者に依頼することにより生涯に一度死者に会えるという設定は期待度満点だが、欲張りな私としてはもっとドラマチックに語ってほしかったというのが正直なところ。 4つの再会と、ツナグを務める男子高生の物語の5編からなるが、結婚直前に失踪した婚約者を捜し求めツナグに依頼してきた男の話が、ありきたりだがやはり最も盛り上がる。 再会のすべてがハッピーエンドでないところは良い。


冬の童話の表紙画像

[あらすじ]

 名高そらは、母の再婚相手を嫌って高校卒業後すぐに相模灘の家を出た。 義父は弟が生まれた頃から次第に家に帰らなくなり、家にいても家族に暴力を振るうような男で、母も徐々に酒に逃げるようになってしまった。 そらは東京で2年ほど男と同棲していたが半年前に別れ、化粧品会社の派遣社員をしている。 弟の光は去年、小児性脳腫瘍で倒れ入院中で、治療費も滞りがちだ。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 作品名そのまま、悲しい童話のようなお話。 不幸な境遇の二人が広い東京で偶然出会って、一気に恋に落ち、しかし幸福も長くは続かず・・・。 こんな(失礼)ストーリー、童話と思わなきゃ読んでられないが、嫌みのない話だし、サクサク進むので500ページ以上の長さは全く感じない。 しかし、男は業界で噂のワンマン社長、女は元不良少女というのは設定のみで、まるでこの描き方からは窺えませんでした。


馬を盗みにの表紙画像

[あらすじ]

 67歳のトロンド・サンデルは3年前に妻を亡くし、退職してノルウェーの東の外れにある小さな家を購入し、リーラと名付けた犬と暮らしている。 家はかなり荒れていたため、修繕しながら日々を過ごしている。 昨夜、大きな音がして目が覚めると、隣人が犬笛を吹きながら逃げた飼い犬を探していた。 手助けに出て、彼とはそのとき初めて名乗りあった。 隣人は昔、犬を撃った話を始める。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 エンタメ本ばかり読んでいる私にとって、こういう”小説”をたまに読むと、頭に涼しげな風が吹き通り、何かリセットされたような、実に新鮮な印象。 主人公の老境に差し掛かった今の自由だが孤独な生活と、家族と共にあった輝くような少年の日々が交互に描かれる。 戦時中の緊迫した空気の中、少年の思春期の戸惑いや心の揺らぎも巧みに表現されている。 自然の中で体を精一杯動かして働く姿が眩しい。


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