AUGUST

◎08年8月


忍びの国の表紙画像

[あらすじ]

 戦国時代の天正4年。 伊勢国は三瀬谷にある山裾の館にいるのは、伊勢の支配者、北畠具教。 その具教を亡き者にするため館に向かうのは、織田信長の次男にして、今は具教の六女を嫁に貰い養子の身の北畠信雄とその重鎮たち。 ようやく討ち取ったところに現れたのは信長。 信長は伊勢の隣国、伊賀には手を出さぬよう命じた。 伊賀には忍びの術を仕込まれた者たちがいた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 書名どおり、忍びの国(伊賀)における織田信雄と地侍(=忍び衆)の壮絶な戦いを描くアクション時代小説。 とにかくそのパワフルさに圧倒される。 巻頭からラストまで、物語は力技で突き進む。 無門という名の忍者にしろ、信雄の家臣たちにしろ、あまりに強すぎて、ランボーが何人もいるような有様は少々白ける。 それでも妻にはからっきし弱い無門や信雄と家臣たちのエピソードにも助けられて、存分に楽しめる娯楽小説となった。


ランの表紙画像

[あらすじ]

 夏目環は22歳。 13歳で両親と弟を亡くし、20歳で一緒に暮らした叔母を亡くし、大学を中退して、スーパーマーケットの通販部勤務で小部屋に一日中籠もっている。 話し相手と言えば自転車屋のおじさんくらいだったが、その紺野さんは店をたたみ山形へ帰ってしまった。 環に特別製の自転車を残して。 ある日、環は意志を持った自転車に乗せられるようにある場所に運ばれる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 フルマラソン完走を目指した素人集団の奮闘記+冥界ファンタジー。 スポーツ根性ものの趣きはなく、お涙頂戴の親子の絆からドタバタコメディーめいた場面まで、盛り沢山というか欲張りな物語。 私は、初めのほうに出てくる冥界のルールが細かに書かれている部分で、ちょっとこの話にはついていけないと思ってしまいました。 それでも後半はそれなりに楽しめたのだが、ラストは予想通りの終わり方で、またがっかり。


蜘蛛の糸の表紙画像

[あらすじ]

 彫刻家の遠野は六甲山系のふもと、古い住宅街の一角にある邸に住んでいる。 戦前は大地主だったが、今は自宅と、敷地内のマンションの家賃収入で遠野は遊民生活を続けている。 モデルとして邸を訪れた林田亜美の素晴らしいスタイルを見た瞬間、創作意欲をかきたてられた。 しかし亜美はヌードにはならないと言う。 遠野はゲームをして少しずつ服を脱がせようと考える。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 理性はどこかへ吹き飛び、ただただ若い女を求めて無駄に股間を熱くさせる中年男たちをコミカルに描く短編7編。 表題作は、クラブに通い詰めた遠野が、目当てのホステスを横取りされそうになり、やくざに抗議したことからとんでもない苦境に立たされる話で好調。 ユーザー車検の悲劇など面白いものが多いですが、どれも根底にあるのは如何ともしがたい男の性(さが)に翻弄される哀れな男たちの姿で、少々つらいですな。


傷だらけの天使の表紙画像

[あらすじ]

 小暮修は新宿の公園で段ボールハウス暮らし。 初夏の朝、同じ公園住まいの通称ドーゾが、荒川競艇場近くで半死半生の状態で発見される。 昨夜、ドーゾはコグレオサムを探しに来た外国人に間違えられて拉致されたのだ。 捜査に来た藤山田警部補は修の顔を見て思い出す。 30数年前、綾部情報社という事件屋にいて弟分の乾亨の死体を遺棄した容疑で指名手配した男。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 1974年秋から半年にわたって放映された萩原健一、水谷豊主演のTVドラマの設定そのまま、33年後に修が巻き込まれる事件をテンポ良く描く。 TV放映当時は視聴率も低く、私も観た覚えはあるが記憶に薄い。 この物語は、セカンドライフ紛いのネット上の仮想世界や、東京都設立の銀行の破綻問題など、現実の話題を取り入れているが、これはあまり成功とは言えない。 亨の代わりの市役所職員とのコンビのノリはいいが。


レッド・ボイスの表紙画像

[あらすじ]

 サンディエゴ市警のブラウンロー刑事は共感覚者。 人と話している時、相手の声が感情を表す色つきの形となって見える、いわば人間嘘発見器のようなものだ。 3年前、ビル火災のさなか、レスラー志望の男に6階から投げ落とされ、奇跡的に命を取り留めて以来、その感覚を持つことになった。 ある日、公務員の不正を取り締まる市の倫理局の捜査官の射殺死体が発見される。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ”共感覚”なるものの存在を知らなかった私は、ある種SF的な、キワものめいた話を想像したが、扱いは非常にささやか。 作者の真面目さが許さなかったのか、主人公が”共感覚”であることは物語の彩り程度に抑えられており、逆にもう少し超能力刑事じみた扱いでも良かったのではと思ったほど。 しっかりと、かつ面白く読ませる物語だが、展開にしろ結末にしろ大風呂敷を広げないのは、好意は感じるがやはり少々物足りない。


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