[寸評]
ヨーロッパが第2次大戦に突入していく時代を背景とした国際スパイ小説。
ハンガリーやチェコといった比較的なじみの薄い国が舞台という点が珍しいが、ハンガリー系アメリカ人の作者による描写は、中東ヨーロッパの暗澹とした時代と街の空気を見事に感じさせてくれる。
スパイものらしく派手なアクションなどはないが、緊迫した雰囲気が全編に漂い、スマートでかつ大胆な主人公の魅力もあって、楽しめる物語になっている。
[寸評]
「小説すばる」掲載7編+書き下ろし1編の短編集。
運行距離わずか5kmほどの東京の電車、世田谷線周辺でのそれぞれ10歳から70過ぎの男女が主人公。
ほんのちょっとしたことから明るく前向きになる人たちのささいな出来事がふわふわと軽く、かつ暖かく描かれる。
どれも決して劇的なことはなく、もしかしたら翌日にはまたへこんでしまう程度のことだが、読み手までちょっとはなうたが出てしまうようないい気持ちにしてくれます。
[寸評]
第1稿完成後、作者が交通事故で大怪我を負い刊行は延期、車が題材ということもあり、出版に当たって話題が増幅された作品。
車の形をした車でないものから繰り出される奇想譚はめっぽう面白い。
物語は単調な流れで、不可思議な現象が繰り返し綴られていくのだが、次は何が出てくるかが、怖ろしくかつ楽しみ。
終盤の嵐のような盛り上がりも凄いが、分署で働く者たちの人間的なつながりや若者を見る目の温かさも心地良い。
[寸評]
無名だが異様なほど力強い絵を描く画家と、主人公の記憶から導き出されるフランス絵画史上最も謎めいた画家といわれるジョルジュ・ド・ラ・トュール。
この2つのミステリーが矢継ぎ早に提示される前半はテンポも良く、好調。
だが中盤あたりから相続話が込み入ってくると、スピーディーな展開は相変わらずなのに、登場人物が錯綜し、物語の面白みが徐々に減じていく。
終盤も、驚きよりも混乱という感じで終わってしまった。
[寸評]
沖縄に鉄道があったとは知らなかったが、狭軌の小ぶりな機関車を駆っての脱出行はなかなかにスリルもあり面白い。
主人公は囚人とは言いながら戦時下に沖縄独立論をぶつようなまっすぐな男で、これに囚人仲間、慰安婦、軍国少年・少女、果てはアメリカ兵まで行動を共にする。
数々の障害に遭いながら目的に向かって突き進む物語は、戦火の緊張がやや足りず、うまく運びすぎのところもあるが、冒険小説として素直に楽しめた。
[あらすじ]
ヒトラーの台頭著しい1938年のヨーロッパ。
ハンガリー貴族の末裔モラート・ミクローシュは、パリで広告代理店を共同経営する一方、伯父の外交官ポラーニ伯爵の命を受けスパイ活動を行っている。
伯父は祖国をドイツとそれに組する勢力から守ろうと活動していた。
今回モラートは偽造旅券を手配し、チェコからある人物をパリへ連れてくるため国境を越える。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
10歳の会田一番は母と二人暮らし。
テスト結果のことでクラブへ出勤前の母と大喧嘩し、マンションを飛び出してそのまま電車に飛び乗った。
行先は一番が生まれる前に母と別れた顔も知らない父親のところ。
祖父に住所だけは教えてもらっていた。
マンションの呼び鈴を押すと出てきたのは一番と同じ年頃の少年だった。
少年は一番の名前を知っていた。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
ハイスクールの最上級生だったネッドは警官だった父を突然亡くした。
警邏中に故障車を点検している時、酒酔い運転の車にはねられたのだ。
以来、ネッドは分署によく顔を出すようになり、父の同僚とも顔なじみになり、夏休みには分署でバイトをしていた。
そして7月上旬のある日、署のガレージにある車ビュイックについて皆から信じられない話を聞かされる。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
高林紗貴は、本の表紙などのデザイナーをしている。
母のナオは肺の病で入院中だ。
母に見せようと昔の写真を入れてある函を探っていると、鷲沢絖という男が母に、自分の描いた絵をすべて贈るという遺言書が出てきた。
鷲沢絖は30年前に自殺した画家。
紗貴は鷲沢邸に向かうと、絖の妻が亡くなったばかりだった。
その家で、幼い頃見た絵の記憶が蘇る。
[採点] ☆☆☆
昭和20年3月の沖縄。
北城尚純は刑務所にいた。
名護の居酒屋で酔いにまかせて沖縄独立論を大声でぶった翌日、治安維持法で検挙されたのだ。
飛行場に近い刑務所は連日の爆撃にあい、受刑者も鍾乳洞に移転することに。
しかしそこも砲爆撃により大陥没し、看守が死の間際に刑務所解散を宣言。
尚純らは県営の軽便鉄道で北部へ逃れようとする。
[あらすじ]
[採点] ☆☆☆☆
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