◎02年5月



[あらすじ]

 1978年。 TVドラマ脚本家の私のもとに30年ぶりに知人の甚野彌太郎からはがきが来た。 私より13、4才年上だった彼は、昭和10年代に食堂だった私の生家によく来ていた人で、終戦後GHQ司令部で働いていて突然行方不明になっていた。 なんと彼は、米軍将校による民間日本人射殺現場を目撃し、口封じのため30年近く監獄に放り込まれていたという。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 彌太郎の過酷な30年は確かに特殊な、しかしいかにもありそうな話であり、大半が監禁状態の物語はやはり変化に乏しい。 また肝心の彌太郎をはじめ登場人物もみな魅力がない。 元ヤクザだという彌太郎は粗暴で気難しく、聞き手であり物語の語り手でもある脚本家が突然恫喝されたり殴られたり、語り手同様読んでいてとまどうことが多い。 そんな仕打ちを何度も受けながらも彌太郎の誘いにのこのこ出かけていく脚本家の心情も分からない。



[あらすじ]

 南軍の残党に両親を殺されたマニータは農場主のラクスマンに養われていた。 17才の1875年、買物に行ったベンスンの町で、賞金稼ぎのストーンと"刀"という見慣れぬ剣を持つサグワロに出会う。 ストーンは、ラクスマンこそ狙っていたお尋ね者ローガンとみて、ローガンの目印である頬の傷跡を確かめるため、ラクスマンに頬髭をそり落とさせるが・・・。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 珍しい日本人作家による本格西部劇。 賞金稼ぎや、駅馬車、インディアンの襲撃等々、西部劇の要素がしっかり詰め込まれ、そこに刀さばきも鮮やかな日本人を加えて、変化と娯楽色を増し、気軽に楽しめる連作集になっている。 そう言えば
「レッド・サン」なんていう映画もありましたね。 ウェスタンの雰囲気はそれなりだが、腕っ節の強い男2人と気の強い女の珍道中といった趣もあり、職人作者による娯楽作として十分な面白さ。



[あらすじ]

 ボビーは母と二人暮らし。 親友のサリー・ジョン、キャロルとはいつも一緒だ。 ボビーの11才の誕生日、アパートにひとりの老人が引っ越してきた。 その老人テッドは本に詳しく、誕生日に母親から大人用の図書館利用カードをプレゼントされたボビーは、テッドと仲良しになるが、母親はいい顔をしない。 やがて夏休みとなり、ボビーはテッドから奇妙な依頼をされる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ホラー風味をまぶしたファンタジードラマ。 全体が5編の長中短編からなり、まとめとなる最終編を除けばそれぞれが独立した話であり、また微妙につながってもいるという特殊な構成。 キングの作品だからもちろん面白く読めるのだが、ノスタルジー色にしろ恐怖度にしろ薄味で、全体に抑揚の少ない物語は純文学の香り高い薄味ミステリーといったところか。 なお、大判サイズの単行本も同時に発売されているが上下巻でなんと5600円です。



[あらすじ]

 太平洋戦争末期のフィリピン。 峠の攻防で、告げられぬまま囮にされ一人生き残った輸送部隊の中尉は、本隊が峠を奪い返した後、自隊の役割を悟り狂気の笑い声をあげた。 やがて彼は徒歩で弾薬輸送を行う中隊の小隊長としての任務につく。 兵の多くがマラリアに罹り、食料も武器もろくにない行軍。 その一行に偵察飛行中に撃墜された米軍パイロットが加わる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 戦いをはるかに超えた極限状況での人間としてのルールを描いた衝撃作。 もっとも、一番の衝撃は30そこそこの著者がこの凄惨な物語を書いたという点で、1950年代生まれの私なんぞはこの手の物語はいろいろ読んだり聞いたりしたことがあります。 それでも若い世代でここまでリアルに描けるところは凄い。 終盤ちょっとした衝撃を用意してあるが、序盤に種を明かしてしまってあり、少々疑問に思うほどひねりもなくストレートな物語です。



[あらすじ]

 アメリカの田舎町ブラッドストーンで起きた連続猟奇殺人。 被害者は女性ばかりで、体を切り裂かれふとももの内側にダイヤの形の印を付けられていた。 捜査担当は州警のスミス警部補だが、彼とは犬猿の仲の地元の治安官ケラーも犯人を単独で追う。 精神科医によれば犯人は自分が殺人を犯した自覚がないそうな。 町の男の中には疑心暗鬼に陥る者が出てくる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 登場人物5人ほどの視点で入れ替わり立ち替わり物語が語られていくのだがこれが面白い。 話し合う2人の視点で交互にとか、追う者と追われる者の視点で交互に、といった具合で心理面もサスペンスも盛り上がる。 そもそも犯人は自覚がないとかで、したがって犯人を推理するのは無駄と割り切って、この闇夜に跋扈する狂気と恐怖の世界に浸るのがこの本の正しい読み方だろう。 終盤を除き暴走度が今ひとつの感で☆4つを逃す。


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▲ 「レッド・サン」

 1971年製作のアメリカ西部劇映画。 1870年のアメリカ西部、大統領に献上する宝刀を強盗団に奪われた日本の侍が、手下に裏切られた強盗団のボスと共に、荒野へ共通の敵の捜索に向かう物語。 三船敏郎にチャールズ・ブロンスン、アラン・ドロンという当時の日米仏3大スター競演ということで話題になりヒットした。