リチャードソン家はオハイオ州の閑静で豊かな計画都市シェイカー・ハイツに家を構えていた。
弁護士の父親に地元紙記者の母親、子どもは高校1年から4年までの二男二女だ。
1998年5月のある土曜日の正午過ぎ、寝室六つのリチャードソン家は炎に包まれた。
あとになって街の者たちは、こうなることはずっと前から分かっていたんだと言い交わした。
末娘のイジーはもともとちょっとおかしいところがあった、と。
イジーはとうに姿を消していた。
[寸評]
全米で370万部突破という文芸ミステリーだが、ミステリー味はごく薄い。
物語は、裕福なリチャードソン家と、リチャードソン家の貸家に入るボヘミアンな暮らしをしてきたミアとパールの母娘の、二つの家族を軸に進んでいく。
びっしり詰まった文章がちょっと手強いが、多民族のアメリカ社会を背景に、家族のあり方の問題、ティーンエイジャーの性の問題など、深く掘り下げたドラマだった。
後半の赤ん坊の親権を巡る争いはまるでサスペンス小説を読むような緊迫感を感じた。
花屋を経営する志奈子のスマホから、菜摘の悲痛な声が聞こえてきた。
房枝叔母さんが家の中で倒れているのをお隣さんが見つけて救急車を呼んだがだめだった、と言う。
菜摘は志奈子の大学の同窓生で、もう何十年も続く仲だ。
また房枝は志奈子の花屋を贔屓にしてくれていた。
急ぎ房枝の家に赴くと、警察車両が停まっている。
検視官が調べているが特に外傷はなく、病死らしい。
房枝は床に倒れており、板張りの床は水浸しだった。(「ガーベラの死」)
[寸評]
花屋の店主と刑事の夫婦の回りで起こる事件を描く六編の連作短編ミステリー。
花屋関連ということで植物が関係する話が多い。
各話とも三十ページ程度とごく短いが、細部まで練られた、しっかりとした構成の話ばかり。
いずれも単なる謎解きものには終わらず、やや重めのテーマで人間を描こうという姿勢が見える。
最後の「家族写真」という物語は人間模様が読ませるが、ちょっと作りすぎの感じもしたな。
また猫がキーとなる「弦楽死重奏」の結末は少々無理があると思った。
T駅から車で十五分、丘の斜面沿いの墓石のうち、端の小さい墓に少年Aは眠っている。
十八年間の短い生涯。
彼は人を殺し、人に殺された。
少年Aは別の少年Xに暴行を加え、死に至らしめた。
傷害致死で逮捕され、少年院で一年三か月をすごし、十七歳の春に退院した。
退院後、土木作業員として働き始めたが休みがちで、欠勤が続いた日、雇用主が寮の部屋を訪ねると、包丁でめった刺しにされたAの遺体が。
自首した容疑者は少年Xの母だった。
[寸評]
前半は、少年院を出た犯罪少年たちのその後の姿をライターが取材していくという形のルポルタージュ風な描き方。
結局、非行少年の更生の難しさを追った話なのかと身構えたが、五章立ての四章に進むとミステリーとして大きな衝撃が読み手を襲う。
思わず「えっ」と声が出てしまった。
なるほど、それでこの書名なのかと得心。
そして最後の五章でも意外な事実が判明する。
作者の巧みな筆さばきに感心した。
作品のテーマは重いが、文章は読みやすい。
そして読後感は悪くない。
ルイーズとデルが初めて会ったのは、デルがセブンイレブンに強盗に入ったときで、当時ルイーズはそこで働いていた。
一年くらい前のことだ。
ルイーズがカウンターの中に座っているとスキーマスクのデルがピストルをかまえながら入ってきた。
ルイーズは肩をすくめてレジを開け、現金を袋に入れた。
デルは授業料など学費に金が入り用だという。
「あんた、いい声してる。それに目がすてき」と言って、ルイーズは自分の携帯電話の番号を教えた。
[寸評]
安住の地を求めてアメリカ各地を転々とする、アラサーのデルとルイーズの恋人ふたりを主人公にした六編の連作短編集。
教会で強盗の人質にされたり、赤ん坊を巡る悲しく切ないお話があったり、最終話はにわか探偵の推理ものだったりと、各話いろいろと趣向を凝らしてある。
ボニーとクライドほどの強烈さも刹那的なところもないし、犯罪が軽く扱われていて、全体にテンポもイマイチと感じたが、洒落た会話もそこそこあって楽しめました。
2016年にアガサ賞新人賞を受賞。
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
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