◎7月


女王様の電話番の表紙画像

[導入部]

 28歳の志川は不動産会社をある事情で辞め、回春マッサージ嬢をデリバリーする店の電話番をしている。 クィーンズマッサージ『ファムファタル』は女王様が各種マッサージをしてくださるというコンセプトのお店。 志川は客からの電話を受け、女王様を割り当てていく。 店には電話番が六人、全員が女性のアルバイト。 志川の一推しは美織女王様。 彼女はなんと五十歳。 その年代のひとが風俗店で働いているのに驚いたが、彼女には手堅く指名が入ったりする。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 この世界はスーパーセックスワールドだと気づいたアセクシュアル(無性愛)の女性が精神的に彷徨しながら、行方不明となった風俗嬢を探す。 まずはこういう性向の人がいるんだと勉強になったが、主人公は将来のこととか悩みながら、他人と時にぶつかりながら生きていく。 物語は微かなユーモアのある主人公の独白で語られるが、いろいろな出来事が起こる割に抑揚のない調子で、面白みは今ひとつ。 結局何も起こらなかったような不思議な読後感。 直木賞候補となったが受賞は逃した。


グロリアソサエテの表紙画像

[導入部]

 大正期、数え十七のサチは、宗教哲学者・柳宗悦の家に住み込み女中奉公している。 奥様の柳兼子は、日本でも指折りの声楽家だという。 夫妻には男の子が二人あって、上の子は宗理、弟が宗玄で二人とも京都の小学校に転校したばかりだ。 家には、奥様が柳家にお輿入れの際に生家がおつけになった女中のばあやもいる。 ある日、志賀直哉から筍が送られてきた。 小説の神様が筍を届けさせるなんて、ここはとんでもない家だ、まるで御伽噺だとサチは思った。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 大正末期から昭和初期における思想家・柳宗悦と「民藝」運動の始まりと拡がり、そして柳家の家族のあれこれを女中のサチの語りで綴っていく苦悩と情熱のドラマ。 夫に献身的に尽くしながらも、声楽家としての自らを前進させていく宗悦の妻・兼子のりんとした姿勢がとても良い。 幸せから一歩引いたような女中サチの未来が一気に開かれるような幕切れに晴れ晴れ。 料理の描写が多いのも特徴で、その豊かさに驚かされた。 また巻末の「参考文献」の多さには圧倒された。


暗殺の冬の表紙画像

[導入部]

 スヴェンはスウェーデン南西部ハルムスタッド市警の警察官。 一九八六年二月末の深夜、彼は警察無線でパルメ首相が撃たれて死亡したことを聞く。 その一時間半後の三月一日未明、警察の交換台に電話が入った。 かけてきたのは男で「車の中で女をレイプした。ティアルプ農場の近くだ。またやるよ。じゃあな。」と言って電話を切った。 スヴェンはひとり農場へ向かった。 農場近くの林道脇に車が停まっており、女性が後部座席で倒れたまま動いていなかった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 北欧ミステリーと言えば寂寥な風景の中で人生の深淵に迫るような語りが特徴だと思うが、本作は典型的な現代北欧ミステリーだ。 “ティアルプの怪物”による連続殺人事件をめぐっての捜査側の33年間にわたる物語。 500ページ超えの長尺だが登場人物は比較的限られており、じっくりと物語に浸ることになる。 暗く地味な話だが、人間の罪について思いをめぐらせられる。 重厚な秀作だと思うが、帯の「十年に一度の傑作。」はあくまで出版社の惹句と割り引いて読みたい。


けんぐゎいの表紙画像

[導入部]

 その娘の名は、ふゆという。 本所の三笠町にある棟割り長屋におっかあと妹のりよと三人で暮らしている。 ふゆのからだには、六つの齢に罹った重い疱瘡のせいでほぼいちめんに痘痕があった。 顔にもからだにも粟をばら撒いたような凹みが無数にあり、眺めているとぶつぶつと音がしてきそうだ。 利発なふゆは、読み書き十露盤はきっと役に立つということで、十の齢に疋田重右衛門のところに手習いに通い始めた。 一方、りよは九つで船宿に奉公に出された。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 江戸時代、世間から虐げられ、性的にも搾取される女たちの逆転劇。 時代小説というよりも、世間の“圏外”に追いやられた女性の自我の目覚めを描いた現代劇を思わせる。 パンク調の文章、主人公の語りはなかなかとっつきにくいが、それが本作の一貫した調子だ。 とりわけ前半が長く暗く重い印象で少々苦しいが、後半、主人公が医者の修行をして医療施設を開くあたりから開放的で力強い話になる。 後半の話をもっと読みたかったな。 読書中に直木賞受賞を聞き驚いた。 採点は辛め。


流星と桜の表紙画像

[導入部]

 桜子は、幼稚園から高校まで一貫教育を行う鐘ヶ丘女子学園の高等部に編入した。 桜子が一年生の当時すでに三年生だった清香は、真昼でもなお輝きを失わない流星のような人だった。 成績優秀、スポーツ万能、加えて梨園の名家の一人娘。 そんな清香は折に触れ桜子の傍らにいるようになっていたし、演劇部をやめた後は桜子が所属していた茶道部に中途入部までしてきた。 なぜ清香が自分に構うのか、桜子は不思議に思っても、嫌だと思うことはなかった。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 私立探偵ものだがミステリー色は薄く、主人公・桜子の成長譚的な作品。 四話連作だが、探偵仕事は二話だけでそれも日常の謎的なもの。 主人公はいくら呉服屋の娘とはいえ、今どき普段から和服、探偵のバイトも和服って、引いた。 桜子は父親との確執があるのだが、面と向かって話をすることなく周りを回るもどかしさ一杯の展開でじれったい。 物語の終いにはこのところ食傷気味のアレがまた出てきて、もういい加減にしてという気持ち。 素直に私立探偵ものが読みたかったな。


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