[寸評]
近年、時代小説が多い作者の久々の現代もの。
主人公の初老の介護士が、オーナー一族が支配する企業グループの内部抗争に巻き込まれるという話だが、主人公が特殊な能力を持つという設定もあるし、全体にやや強引な筋立てだと感じた。
それでも静かな前半からスパイもののような雰囲気が面白く、終盤の荒事もスリルあり。
中途半端なハードボイルド小説という感じではあったが、作者は御年八十七歳、本作では量子コンピュータの話題にまで言及し、なかなか意気盛んだ。
[寸評]
三人の高校生のヤングケアラーとしての実情が一章ずつ詳述された後に東日本大震災が起き、後半は2022年、コロナ禍後の設定で看護師となった小羽を中心に物語は進む。
ヤングケアラーを始め、精神障害、アル中、LGBT、AYA世代のがんなど、社会が抱える諸課題が鋭く描かれるが、問題提起だけではなく、素直な若者たちの青春物語でもある。
また後半は、高校時代に彼らを助けてくれた女性の過去をめぐるミステリー的進行も面白い。
山田風太郎賞を受賞した。
[寸評]
110ページ強の中編警察小説3編からなる。
3編の内2編が警視庁捜査一課強行犯係のデカ長である大河内部長刑事を主役に、1編が同係の小林係長を主役に話は進む。
作品の長さとしてはちょうどよい感じで、事件の発端は簡潔に描かれ、続いて捜査、関係者の取り調べ、推理、そして犯人逮捕と上手くまとめられている。
一方、関係者の深い心情までは描き切れていないのは仕方がないところか。
いずれも面白く読めるが、派手さはなく無難な出来の作品集という印象。
1959年、ニューヨークのハーレム地区。
アフリカ系アメリカ人のレイ・カーニーは中古家具店を経営していた。
家族のため誠実に仕事をしていたが、時には従弟のフレディが持ち込んでくる盗品の裏からの売買にも関わっていた。
6月のある日、フレディたちが起こしたホテル・テレサでの強盗事件にカーニーは否応なく巻き込まれる。
強奪品の宝石類の売買を頼まれたのだ。
カーニーは断ろうとするが、逃れさせてはくれなかった。
[寸評]
ニューヨークの黒人家具店主を主人公にした犯罪小説で、1959年、61年、64年の出来事を描いた3話で構成。
当時の街の空気、明確に黒人差別があった時代の社会状況がつぶさに描かれ、黒人による激しい抗議活動にも触れられ、さすが「地下鉄道」の作者、興味深く読ませる。
登場人物はなかなか魅力的だし、会話は生き生きとしていて楽しいが、クライムサスペンスとしてはテンポがもうひとつ。
犯罪ものとしては緊張が途切れがちだった。
採点は少し辛め。
[寸評]
戦前から戦中、戦後の激動の時代を背景とした女性の二十数年が描かれる。
ジャンルとしては千代と初衣の二人のいわゆるバディものというのだろうか。
前半は比較的淡々とした流れで、徐々に波乱に富んだ激しい話となるが、苦労もあれば楽しくも生きた主人公らの姿に、終わってみればなんだか生きる力が湧いてくるようないい物語だった。
千代の身体の秘密の描写などは女性でなければ書けないもので、ちょっとドギマギ。
直木賞にノミネートされたが受賞は逃した。
[導入部]
六十五歳の介護士の三谷は、対人関係能力、空間認識力、記憶力等に極めて秀でており、時々、内閣情報調査室の外郭団体からの依頼事項も手がけていた。
三谷は定期健診のため杉並区内の総合病院に入院していた。
相部屋となったのは生方幸四郎。
生方は外務省のエリート官僚だったが、奇行や奇声がひどくなり、精神科専門病院に強制入院させられた後、転院していた。
生方は当局の監視下にあり、三谷は生方の監視役という形だった。
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
2010年10月。
高校2年の織月小羽は東北地方の海沿いの町、網磯地区に母と祖父と暮らしていた。
近くには漁港と航空自衛隊の松島基地がある。
統合失調症の母に代わり、食事やら家事のきりもりをしている。
毎朝、凛子と航平と共に自転車で学校に向かう。
凛子の母はアル中、凛子は幼い弟の面倒も見ている。
航平も双極性障害を患う祖母の世話をしている。
小羽が学校から帰宅すると、母は服薬もせず室内を歩き回っていた。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
年代ものの賃貸マンションの一室で、女が死んでいた。
亡くなったのは部屋の住人の三十八歳の女性。
大量の睡眠薬をアルコールとともに服用し死に至ったと考えられた。
テーブルには「疲れました。ごめんなさい。」と打たれた紙。
しかし所轄の捜査員が調べると、パソコンからここ数ヶ月のメールや写真が消去されており、スーパーの宅配サービスが配達されたばかりだった。
所轄からの連絡を受け、本庁捜査一課の刑事が臨場する。
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
昭和24年、四十過ぎの鈴木千代は口入屋から仕事の紹介状を受け取った。
千代がこれから住み込みの職を乞おうとしている家の主人は、三村初衣という盲人。
独り住まいで三味線のお師匠さん。
千代は名前を見た瞬間に心を決めていた。
上野の山を北西に向かい根津藍染町に入り、目当ての家を訪れ声を掛けながら引き戸を開けた。
和室に上半身をしゃんと伸ばした初衣が座っており、お初さん、と呼びかけそうになるのを我慢する。
[採点] ☆☆☆☆
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