[寸評]
ミステリー短編四編。
ミステリーといっても犯罪がらみではなく、日常の謎系のもので、ミステリー色は弱い。
謎解きもそれなりですっきりとはしておらず、ミステリーとしては反則もあり、驚きはあまりない。
一方、どの作品も青春小説としての色が濃く、その点で雰囲気の良いものばかり。
校舎の屋上から転落死したクラスメートの謎を探る「重力と飛翔」、15年前の高校の卒業式でのハプニングをかつての放送委員が回顧する「スプリング・ハズ・カム」の静かな余韻が美しい。
ミネソタ州ブラックアース郡の田舎町ジュウェル。
一九五八年の戦没将兵追悼記念日は金曜だった。
町がパレードに湧く中、三十五歳の保安官ブロディは保安官事務所にいた。
そこに、町の嫌われ者の大地主ジミー・クインが、死んで川でナマズに食い荒らされているという通報が入る。
急ぎ川岸に向かうと、死体は仰向けで両脚が川に浸かり、顔は魚に喰われ、骸骨が笑っているように見えた。
そしてショットガンで撃たれたらしい大きな銃創があった。
[寸評]
十年ばかり前の秀作「ありふれた祈り」の姉妹篇ともいえるようなミステリードラマ。
事件はほぼ冒頭の1件だけで500ページ弱を引っ張るのだが、退屈さや冗長さは微塵もない。
大戦後まもなくの、差別や偏見の根強いアメリカの片田舎で、インディアンの男と日本女性の夫婦に向けられる視線に抗する保安官や弁護士、女性たちの行いが感動的。
本筋とは直接関係のない、食堂女店主の酔漢への温かい思いやりの言動など、胸を震わせるものがある。
採点で★をさらに加えるか迷う。
[寸評]
仕事を周旋する“口入れ屋”だが、訳ありの連中にもつい口を出してしまうのが性分で“口出し屋”とも呼ばれる若い女主人のお貫を主人公に据えた、江戸人情話の連作六話。
どの話もすらすらと読みやすく、気分が悪くなるような話もないのでそこそこ楽しめたが、人情噺としてはちょっと深みがないかな。
“口出し屋”という名前ほどには口出しのエピソードが不足気味のような。
また、最終六話に至って、まだお貫が店の主人になる経緯が再度語られるのも、もうその話はいいよという感じ。
[寸評]
全編緊迫感に満ちた本格歴史小説。
読後、なにか凄い小説を読んだなという思いに浸った。
失敗すれば死が待つ“千日回峰行”に挑む二人の師弟の仏僧をめぐる物語。
同じ出自を持つ二人が、師弟でありながら互いを忌み嫌い、憎悪をむき出しにする様が異様な迫力を持って迫ってくる。
耳慣れない用語の多い硬めの文章なのにさくさく読み進められ、これが作者のデビュー作とは信じられない。
終盤は驚きの展開が待つ。
松本清張賞受賞作で、直木賞も候補に挙げられたが、受賞は逃した。
[寸評]
退職した警官が昔手がけた事件や住んでいるマンショの住人からの頼まれごとなどを推理する連作短編五編。
退職刑事のなかなか落ち着かない日常が面白く、各話多彩な設定でそこそこ楽しめたし、しっかり練られた手堅い作品だと思う。
どんでん返しのある中身の詰まった短編もある。
だが、リアルと言えばリアルだが、結局モヤモヤしたまま終わってしまう話もあり、直木賞候補作とされたものの突出した作品とは思えなかった。
なお、第173回直木賞は受賞作無しに終わっている。
[導入部]
日本から飛行機で九時間。
カナダの西の玄関口、バンクーバー国際空港から国内線、フェリー、ボートと乗り継ぎ、最後は徒歩で。
グレート・ベア・レインフォレストは世界最大の温帯雨林だ。
熊を筆頭に六十種以上の哺乳類、二百種以上の鳥類など多種多様な生き物が生息している。
大学農学部三年の柴田と穂村は、カナダに留学して動物生態学を専攻している相羽と三人で、手摺りに囲まれた三畳ほどの物見台に腰を下ろし、狼が現れるのを待っていた。
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
二十七歳のおれんは十五で天涯孤独になってから奉公先を替えながら住み込み女中を続けてきた。
器量は悪くないし、料理、掃除、洗濯はお手の物。
言い寄る男には事欠かないが、最後で結ばれない。
いまも男と別れたせいで三年勤めた搗米屋から暇を取る羽目になり、昔なじみの口入れ屋を訪ねるところだ。
横網町のやよいや。
やよいやの時三さんなら安心と戸を開けると、帳場格子に座っているのは見覚えのある年寄りではなく、自分より若い娘だった。
[採点] ☆☆☆
[導入部]
十八世紀末、比叡山延暦寺の堂宇の一つ、東塔無動寺谷の明王堂。
冬の朔月の未明、恃照は北嶺千日回峰行の堂入りに臨んでいた。
それは当行において最も過酷とされる荒行で、恃照は九日間、断食、断水、不眠、不臥を貫き、日に三度の勤行のほか、十万遍の不動真言をひたすら唱え続けてきた。
堂入りを終えれば当行満となり、行者は阿闍梨と称されることになる。
北嶺千日回峰行は失敗が許されない。
途中で続けられなくなれば自害する覚悟で挑むのだ。
[採点] ☆☆☆☆★
[導入部]
平良正太郎は定年退職して一年半の元刑事。
治療を受けた歯医者の入っている駅ビルの駐輪場に戻り、ラックから自転車を引き出したとき、背後から高い声がした。
「司くんのおじいちゃんですよね?」
見覚えのない若い女性だったが、「きりん組のリョウマの母です」と続けられた。
孫の保育園の迎えで覚えられたらしい。
すると女性はその自転車を貸してほしいと言う。
自転車の鍵をどこかへ落としたらしいが、とにかく家に早く戻らないといけないと。
[採点] ☆☆☆★
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