[寸評]
リアルな警察小説中編三編からなる。
いずれも被疑者の取調べ場面を中心に描かれていくのが珍しい。
三編とも緊張感に満ちていて面白いが、一編目より二編目が良く、そして終始張り詰めた空気の三編目はさらに読ませる。
作者は作家生活三十年で初の警察小説だそうだが、警察官の苦悩と正義に言及し、事件の真実が徐々に見えてくる展開がたいへん巧みで、とても楽しめた作品集だった。
ただ、「職質の女神」と噂される女性警官・瀬良の描き方は少し足りない感じがした。
[寸評]
数ページから60ページほどの短編11編。
主人公が頼まれてうそ(言い訳)を考える表題作及びその続編以外は特に表題とは関係ない。
定年退職する同僚の送別会の場所探しに苦労するとか、もらったクーポンを使おうと向かった中華料理屋が休業だったとか、日々生きていく中で誰にでもあるような日常の困りごととそれへの対処を、おぼろげなユーモアを交えながら描いていく。
いずれも軽い物語で、ごく短い短編は小説ではなくエッセイを読んでいるような気分になった。
1863年、南北戦争下のアメリカ南部ルイジアナ州。
ウェイド・ラフキンは、前年に南軍の軍医助手として歩兵連隊に従軍し傷痍軍人となって帰還したが、北軍兵士を刺し殺したことがトラウマとなり、伯父の農園で無為な日々を送っていた。
農園には有色人種の奴隷ハンナがいた。
彼女は教会で南軍の兵隊のために料理番をしていたが、戦いの中で幼い息子を見失ってしまった。
ハンナは、必ず息子を取り戻す、北軍も南軍も怖くないと言う。
[寸評]
エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)最優秀長編賞を受賞した作品だが、ミステリーと言うよりは戦争文学と言った方が合っているだろうか。
過酷な戦場風土の中で自由を求めて懸命に闘う人たちの姿が鮮烈に描かれている。
物語は登場人物六人ほどが入れ替わり語り手となって綴られる短めの章の続きで構成されていて、比較的読みやすく流れが分かりやすい。
読み応えは重く娯楽性には乏しいが、人間ドラマとして力強い。
エピローグは急に話が飛んで唐突な印象だった。
[寸評]
絵本が小道具として使われた五編の短篇集。
表題作が最も長くて五十ページ弱、他は二十数ページの短さで、さすがに読み応えに乏しい。
物語に入り込む間もなく終わってしまう感じだ。
作者独特の世界観、淡々と、かつ凜とした文章や言い回しは本書では少し薄い感じではあるが、今回はなんとなく鼻についてしまった。
それでも表題作は人生を鮮やかに捉え、余韻を感じさせるもので、巧いと思わせた。
また作家という職業の苦しさを描いたものもあり、興味深く読んだ。
1967年12月。
アメリカ陸軍の兵卒コナー・マーフィーは、北極圏グリーンランドにある秘密基地で発生した火災によって両手と顔に重度の火傷を負い、ワシントンDCの陸軍病院で昏睡から目覚めた。
火災では2名が死亡し、コナーは唯一の生き残りだったが、何が起きたのか思い出せないという。
精神科医のジャック・ミラーは、火災発生に至るまでに何があったかを解き明かすため、事故の状況を聴取しようと病院でコナーと面会する。
[寸評]
グリーンランドにあるアメリカ軍の秘密基地で起きた火災の真相を探る物語。
前半は、調査を担当する主人公の精神科医が兵卒や関係者らに調査を行い真相に迫ろうとする、オーソドックスなミステリーの流れ。
主人公の身に危険が及んだり、聴取した関係者が命を落としたりと、謎は深まっていく。
この前半も面白く進むが、後半は物語が一気に勢いを増し、予想外の展開が次々に繰り広げられ、見事なサスペンス小説だと感じた。
兵卒の恋人が良いアクセントになっている。
[導入部]
和泉刑事が県警本部の刑事部捜査第一課強行犯二係に配属されて十ヶ月。
殺人事件現場に臨場するのは二度目だ。
被害者は大量の血を流し室内の中程に倒れていた。
八階建てマンションの五階、単身者用の造りの部屋。
部屋の住人の名前は城山雅春。
三十四歳、介護事業所に勤めていて同居人はいない。
部屋には格闘の跡が残っている。
物色された形跡はなく、強い殺意が見て取れる。
和泉は隣の部屋の通報者に話を聞く。(「イージー・ケース」)
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
私は相沢さんとは布の展示会で知り合った。
順番待ちの列で話すようになり、彼女は私の着ていたワンピースや持っているバッグがその店の布を加工したものであるのに気づき、縫い物ができることにいたく感心した。
そしてワンピースを自分にも一着作ってくれないかと打診してきた。
承諾した私は毎日退社後に淡々と製作して、行きたい雑貨のイベントについて彼女に予定を問い合わせると、大丈夫です!と文字上ながら元気な返信があった。
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
木曜の夜、美弥子は玄関先で男を見送った。
男が明日の仕事を終えたあと向かう函館には妻がいる。
五十の男と四十五の女が、お互いの環境を飲み込んだ上での関係は、泥沼も見ずに終わった。
美弥子が玄関の鍵を閉めてリビングに戻ると、パソコンに一通メールが入った。
高城好子。
たかぎよしこという本名の読み方を変えてひらがな表記しただけで別人になる。
絵本作家たかしろこうこ。
十歳からの三年間、美弥子の三番目の母だった人だ。
[採点] ☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
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