[寸評]
人生の描き方に凄みがあった「汝、星のごとく」のスピンオフ3話で、前作は是非読んでおきたい。
1話目は北原先生の前作以前の姿を、2話目は青埜櫂の担当編集者の今の奮闘を、3話目は暁海と北原夫婦のその後が描かれる。
いずれも前作と上手にドラマを繋げていて、2作品全体で大きな物語になっている。
北原先生が良い人すぎないか、また離婚の話が多すぎてちょっと閉口したが、前作と変わらず、いずれも胸苦しく心を揺さぶられるようなドラマチックな話でした。
[寸評]
孫娘、母、祖母の3世代3人の視点で時代を遡って語られる3話からなるが、主体は最も長い3話目、ダム建設により湖底に沈むことになった村で生涯を生きた女性を描いたもの。
「十の輪をくぐる」系統ではあるが、作者の新境地とも言えるような作品で、ダム建設計画に夫と共に懸命に反対した女性の闘いの物語だ。
公権力の切り崩し等により、村人の団結が、そして家族が徐々に引き裂かれていく様がリアルで、喪失感が切ない。
覚悟と葛藤が胸に迫る大きな感動作。
ビリー・ロウはアメリカ南部にある高校のアメリカンフットボールの選手。
トレーラーハウスで母親ティナと弟、そして大嫌いな母親の恋人トラヴィスと暮らしている。
ある日の練習で、ビリーはディフェンスのラインバッカーの2年生に悪質なラフプレーをしてしまう。
そして練習後、コーチから明日の夜の試合での欠場を宣告される。
そのことが原因でトラヴィスと喧嘩になり、彼を殴り倒してしまい、トレーラーハウスを飛び出す。
[寸評]
複雑な家庭に育つ18歳のアメフト選手の自ら制御できない暴力の衝動の噴出と、有望な彼をなんとか選手として引き上げたいコーチの男が落ち込んでいく深い闇の物語。
現代アメリカ南部の閉塞した社会環境、貧困、人種差別、DVなどが、序盤からとまどうほどの暴力的な汚い言葉の連続で綴られていく。
また終盤は短い章の連続で、畳みかけるように緊張した状況を持続させ読ませる。
作品全体として、人間の暗い感情が横溢したやるせない暗澹としたミステリーだった。
[寸評]
女子中学生を語り手とした物語4話。
私にとっては異次元の、今どきの十代女子の語り口調についていけるかと身構えたが、陽キャのレナレナの語りは抜群にテンポよく、心地良い文章リズムですんなり頭に入ってきた。
遙か昔、高校生の頃に庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」を読んだときの衝撃を思い出した。
主人公は思いきり喜怒哀楽に溢れ、まっすぐにパワフルに生きている姿がとても自然で、くだけた口調のわりに友だちを思う心が伝わってきてなんだかホッとした。
[寸評]
飛行機、とりわけジェット戦闘機の操縦に魅入られた、ストイックな天才的パイロットの物語。
次はどう展開していくのか先の読めない主人公の数奇な運命の一生の物語はたいへん面白い。
自衛隊基地からバンコク、バングラデシュと航空業界を転々としていく主人公に合わせ、移り変わっていく土地の空気が嗅げるような描写もいい。
宗教観も変わるような超音速の世界のリアル、空を飛ぶ爽快感が感じられ、異色の作品だが、物語本体から装丁までなんともかっこいい本だ。
[導入部]
北原は高校の化学教師。
父は老舗旅館の跡継ぎだったが経営の才覚がなく、北原が小学校に上がる前に旅館を潰した。
両親は自己破産せず借金を返済し続けた。
高校は勧められた難関私立を経済的理由であきらめ公立高に進学。
大学は奨学金を利用し院へ進んだが、共働きの母親が入院し、大学院を中退し地元で教員の職に就いた。
11月の深夜の公園で、スケートボードをしている大学生風の男と自分の高校の女生徒がいるのを見る。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
大学生の都は3年生の6月末にイタリアへの1年間の長期留学に意気揚々と出発した。
しかし現地では異文化に馴染めず、語学学校では周囲のレベルについていけず、ホストファミリーにも心を開けなかった。
結局1ヶ月と少ししか持たずに帰国。
診断は適応障害だった。
帰国から2ヶ月経った今も、大学には休学届を出したまま、帰国後も彼氏や友達に本当のことを言えず、近所にある祖母の家に毎日入り浸ったまま無為に過ごしていた。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
玲奈は都内の中学二年生。
友だちからはレナレナと呼ばれている。
校内には帰国子女も多い。
ママは公然と不倫している。
週二回は彼氏の家に泊まって、翌日そのまま会社に行き夕方帰ってくる。
それを容認しているパパのこともよく分からない。
部活はバスケ。
帰宅し週末の大会に向けてトレーニングしているとママから電話が。
彼氏がコロナ陽性になったので玲奈も学校を休んで大会には出られないと。
玲奈の怒りは頂点に。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
少年の名は易永透。
2000年に東京の四谷で生まれた。
目立たず口数の極端に少ない、おとなしい子どもで、透はただ飛行機だけに心をうばわれた。
空をあおぎ、走ってジェット旅客機を追いかけていた。
11歳のとき、父親の仕事の関係ではじめて本物の飛行機に乗る機会を得た。
エアバスA320。
機内で透は通路をひたすら前進し、客室乗務員に呼び止められた。
コックピットを見せてほしいと言うが、座席に連れ戻される。
[採点] ☆☆☆☆
ホームページに戻る