弁護士事務所でメープル・ビショップは絶句していた。
第二次大戦で戦死した医師の夫の遺産整理をした結果、妻に残されたのはたった十二ドル六十七セントと告げられたからだ。
夫の診療所は、支払能力の有無にかかわらず患者をもれなく治療していたので赤字続きだったという。
住宅ローンも残っており、このままでは暮らせない。
法律の学位を持つメープルは弁護士に雇ってほしいと頼むが断られる。
その日は、ニュルンベルクでナチ戦犯が処刑された日だった。
[寸評]
第二次大戦後まもなくのアメリカで、夫を亡くした女性が写真記憶とドールハウス作りという特技を活かし事件現場を正確に再現して謎を解くミステリー。
典型的なコージーミステリーとしての性格を持つ作品だが、全体の雰囲気は暗め。
思いつくまま突き進む主人公の性格そのまま、物語は寄り道なくほぼ一直線に進んでいき、読み手も引っ張られる感じ。
軽めの作品ではあるが、事件解決まであれこれ騒動あり、面白く読めた。
あとがきによれば実在の人物が主人公のモデルだそうで驚き。
[寸評]
30〜70ページのSF、ホラー、サスペンスなどの短編7編。
冒頭のSFもの「ゼロ」には拍子抜けしたが、そのほかのヴァラエティ豊かに並べられた各短編はとても面白く、十分に楽しませてくれた。
中では「跫音」「死人に口あり」「天城の山荘」は作者お得意の幽霊ものでしっかり怖がらせてくれたし、また「ハードボイルドな小学生」は珍しいYAものだが、作者は巧みにこなしている。
しかし各編、初出は2002年から17年で、なぜ今まとめられたのか、新作が待たれる。
[寸評]
同棲中の女性が見知らぬ男と五島列島で海難事故に遭い行方不明になるという、なんだか松本清張ものにあるような冒頭から、主人公と男の妻の二人が真実を求めて現地へ向かう話。
ミステリーの体裁だが、途中に突然ファンタジーの要素が入ってびっくり。
現実的な話と読んでいたのにそれはないよな。
以後の主人公の対応もなんだか合点がいかず、クライマックスに向かってそれなりに話は盛り上がるものの、心理描写も今ひとつの印象で、もっとドラマチックになってもと感じた。
ミリーはハウスメイド。
デグロー家では家事のほか、九ヶ月になる娘のオリーヴの子守も時折頼まれていた。
そのオリーヴがミリーを“ママ”と呼んだことに母親が激怒し、ミリーは解雇されてしまう。
べつの仕事を探さなければ。
収入が絶たれたいま、すぐに次の仕事を見つけられなければアパートの家賃の支払いも難しい。
そしてその後の三週間で清掃やベビーシッターの面接を九回受けたがだめだった。
おそらく私の身元調査をして不採用になったのだろう。
[寸評]
「ハウスメイド」の続編で、主人公はミリーで同じ。
途中までの話の流れは前作の二番煎じかと思わせたが、その後そうくるかとニヤリとさせられ、終盤にはさらにまた驚かされた。
前作同様、少ない登場人物でたいへん読みやすく、最後までスピードを上げてどんどん引っ張っていく。
主人公を絶望の淵に落としておいて逆転するというありきたりな展開ではあるが、それが面白い。
ミリーのおせっかいな性格は少しうざいが、話の流れ上許せる。
今年中に“3”が邦訳されるそうだ。
[寸評]
前職で心身を病んだ青年が友人に誘われ工場で期間工として働く。
その何も起こらないようでいてささいなことが起こる日々を描く、少しとうのたった青春物語とでも言えばいいか。
主人公は独身で恋人もおらず酒もタバコをやらず、特に趣味もないが、それなりに納得した毎日を過ごしている。
淡々と生きているが、理不尽なことには最後には抗うところも。
静かな語り口に微かなユーモアと悲しみをにじませ、巧みに起伏を持たせた物語でとても良い。
小説野性時代新人賞受賞作。
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
私は覚醒する。
視界一面に光があふれ、口の中の砂粒を吐き出す。
繰り返される音は波の音だ。
ここは海岸。
延々と続く砂浜の向こうからお揃いの服を着た二人の男女がやってきた。
警察官だ。
名前を聞かれるが分からない。
ここはロサンゼルス郊外マリブ・ビーチの外れで、今は2064年10月26日だと女の警官が言う。
警官に保護され警察署に入る。
私は何かの犯罪に巻き込まれたようで、複数の人間によって砂丘の上から投げ落とされたらしい。(「ゼロ」)
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
タクシー運転手の青吾が夜勤を終え帰宅した時、家の中は真っ暗だった。
カレンダーで同棲中の多実のシフトを確認すると『旅行』とあった。
昨日から一泊旅行に出かけていたんだった。
しかしLINEを送っても既読はつかない。
翌朝になっても、その翌日も。
次の日、警察に出向き、行方不明者として届け出るが、警察の対応は他人事だった。
マンションに戻ると、多実の弟と名乗る男が訪ねてきた。
姉の勤務先から無断欠勤しているとの連絡を受けたと言う。
[採点] ☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
宮田は浜野と共に工場で期間工として働いている。
宮田は大学を卒業してからは生きることでせいいっぱいだった。
何も起こらないまま、何も望まないまま、三十歳になっていた。
工場で唯一の友人の浜野は同じ高校の出身で地元も近い。
工場では単純作業を延々繰り返す。
作業を始めると、意識に霧がかかった気がする。
定時業務と残業の間に十五分間の休憩が挟まれ、そのときに菓子パンが配布される。
このことが従業員内でちょっとした問題を引き起こす。
[採点] ☆☆☆☆
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