◎4月


隣人のうたはうるさくての表紙画像

[導入部]

 賢斗は名門私大の附属校に通う十七歳。 父が急にイタリア転勤となり単身赴任予定だったのに、弟の海斗が父と一緒に行きたがり、結局母も帯同することになった。 賢斗は祖父母宅に身を寄せようとしたが祖母が入院、祖父は認知症が発覚。 そこで学生寮を探したが空きは見つからないところ、母の大学の同級生が賃貸マンションを紹介してくれた。 そこは「心地よい暮らしを作るために多世代の住人が協働するコミュニティ型マンション」だった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 六章+プロローグ・エピローグの連作小説。 住民たちが交流できる共有スペースを設けているマンションを舞台に、そこに住む人たちを描く。 夫源病の妻、シングルファーザーの兄の子供の面倒をみる妹、結婚と子供を持つことは別と考える男など、短篇集として個々の話は面白いものもあったが、連作としては私の中ではうまく繋がらなかった。 入居者など登場人物がとても多くて、最近物覚えが悪くなった私には、誰が誰だったか混乱。 個人的にはこういう共同住宅は遠慮したいな。


銃と助手席の歌の表紙画像

[導入部]

 喧嘩で高校を退学になったばかりの十七歳の少女チャーリーは、姉ジーンの恋人ダリルが見せびらかしていた小さなインゴット(金の延べ棒)をくすねる。 ダリルの追跡を気にしながら家の前に戻ったチャーリーだったが、そこには見知らぬアボリジニの若い女がおり、家に入れてくれと言う。 女は明らかに誰かに殴られ面倒を抱えているようだ。 40ドルで一晩泊めることにして二人で家に入ると、ダリルが先回りして家の中で待ち伏せていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ウィルバー・スミス冒険小説賞受賞作。 広大なオーストラリアで高校を退学になった喧嘩っ早い少女と女子大生の二人の金塊を持っての逃走ロードノベル。 二人は衝突し合いながらも降りかかった災厄から逃れるため北へ北へと車を走らせる。 その過程で女子大生ナオの抱えた秘密も徐々に明らかになっていき緊張が増していく。 感情的なチャーリーの言動にはちょっと辟易するところもあるが、ストーリーはとにかく力業で強引に進んでいくのに引っ張られて読了した感じだ。


カフネの表紙画像

[導入部]

 四月頭の土曜日、午後一時近く、八王子駅北口のカフェで、薫子は死んだ弟の元恋人小野寺せつなを待っていた。 すでに20分遅刻している。 「遅れてすみません」とやってきた女は、デニムのつなぎ服に黒のコンバットブーツ、化粧っ気はなく戦闘機の整備士のような雰囲気だ。 弟は生前に遺言書を作成しており、小野寺は弟が指定した相続人になっていた。 しかし彼女からは、「いりません」の頬を引っぱたくような鋭く速いひと言が返ってきた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 本屋大賞受賞作。 いかにも本屋大賞で、書店員が好みそうな本だった。 現代社会の問題、家族の問題がてんこ盛りにされた内容はハードで、作中いろいろな料理も出てきて、もうお腹いっぱいという感じ。 主人公が関わる家事代行サービスという職種は私も面白く、興味深く読めたのだが、トランスジェンダーが出てきたところで、あぁまたかと思ってしまった。 最近の本はほんとうにこういう話題が多いな。 最後の場面、主人公から小野寺せつなへの提案は唐突な印象で引いた。


マン・カインドの表紙画像

[導入部]

 コロンビアの街レティシアが独立宣言したのは2044年。 独立を主導したのは遺伝子編集作物の農業ベンチャー<テラ・アマソナス>。 国境警備を開始した<テラ・アマソナス>に対してブラジル、ペルー、コロンビアの三国は、公正戦闘を専門に行う民間軍事企業<グッドフェローズ>に排除を頼んだ。 2045年7月、国際独立市を宣言した<テラ・アマソナス>の武装解除作戦が開始された。 ジャーナリストの迫田城兵は戦闘の取材に赴く。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 現代科学技術の延長線上にある2045年が舞台。 随所に登場する車のレベル5自動運転やコンタクトレンズが網膜に投影する層化視立体映像、フェイク情報を審査する事実確認プラットフォーム等々、早晩実現しそうな技術などが読んでいて楽しい。 新人類というテーマは壮大だし、主人公が死亡した兵士の家族を訪ねて回るストーリーはロードノベルとして面白さを予感させたが、物語自体には期待したほどの広がりは感じなかった。 それでも近未来SFとして興味深く面白かった。


うしろにご用心の表紙画像

[導入部]

 泥棒ドートマンダーは、カリブ海の地中海クラブの施設にいて先頃ニューヨークに帰ってきた故買屋アーニーに呼び出される。 アーニーによると、施設にいるプレストン・フェアウェザーという投資家が所有するセントラル・パークを見渡せるペントハウスには美術品がいろいろある。 それをドートマンダーが運び出せば、売り払い金額の70パーセントを渡すと言う。 ドートマンダーはさっそく準備にかかるべく仲間たちを行きつけの店に呼び出す。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 スラップスティック犯罪コメディーで、2005年発表の泥棒ドートマンダーシリーズの第12作に当たり、本邦初訳。 ドートマンダーと泥棒仲間たちの今回のヤマの目標は早々に語られるのだが、その後寄り道もあってなかなか本筋の話は進んでいかない。 それでも小洒落たユーモアとバカバカしい台詞回し、アメリカンジョークで楽しませてくれるので読んでいて飽きることはない。 一転終盤は思わぬハプニングにハラハラドキドキが加わり、スピード感のある展開で面白かった。


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