[寸評]
立川談志の弟子で人気落語家の筆者による自伝的エッセイ。
当然ながら弟子としての修業時代の話が大半を占め、あとは兄弟弟子とのエピソードなど。
談志は落語中興の祖、天才と言われたが落語界の異端児、毒舌家、破天荒な人で、私の持つイメージも型破り、滅茶苦茶な人という感じだ。
その談志に大学在学中に弟子入りした筆者のエピソードは、これすべて「前座修行とは矛盾に耐えることだ」という談志の言葉通り、ハンパないものばかり。
談志愛が詰まった一冊。
[寸評]
動物の犬が登場するのかと思ったら、主人公が海軍少佐の犬、つまりスパイとなって働く話だった。
与えられる任務は章ごとに変わるが、スパイものとしてのサスペンス度はさほど高くないものの、淀みない流れで各話面白く読めた。
終盤はある出来事からスリルの度合いが急激に高まる。
そしてラストは運命に翻弄された主人公らにとって穏やかなものになって欲しかったが、厳しい幕切れとなった。
理不尽な戦時下において自分らしく生き抜いていくことの困難さが伝わった。
ジム・ドイルはショッピングモールの警備員。
新聞売り場の近くにいる女性に目を止める。
女性が左脇に挟んでいた本が床へ滑り落ちて音を立てた。
カバーには『ナッシング・マン』と印刷されていた。
突然、ジムの耳の奥にものすごい勢いで血が流れ込み、頭の中が無意味な雑音でいっぱいになった。
女性が本を拾い移動するとジムは書籍売り場へ向かった。
著者はイヴ・ブラック。
いいや、ありえない。
だがカバーにそう書いてある。
[寸評]
アイルランド人作家によるサスペンス・スリラー。
物語は、20年近く前に女性への強姦や連続殺人を実行しながら逮捕されることなく生活してきたジムの語りと、ジムの最後の犯行において両親と妹を殺される中で生き残ったイヴによるナッシング・マンの犯罪実録の新刊書籍が作中作として交互に綴られていく。
この作中作の使い方が巧みで面白く読ませる。
全体に緊迫感はもうひとつと感じたが、終盤には思わぬひねりも用意されていて驚かされた。
採点は少し甘め。
[寸評]
野球を扱った表題作の中編と女子駅伝を題材とした短編「十二月の都大路上下ル」の二編。
物語はアメリカ映画『フィールド・オブ・ドリームス』を想起させる不思議系の幻のようなドラマで、古都京都が舞台というのがポイント。
中国人留学生シャオさんのキャラが最高。
ほのぼのした軽い話だし、ここで終わってしまうのかという物足りなさもあるが、幽霊譚と言ってしまえばそれまでなものの、全体に爽やかな青春ものの雰囲気で楽しく読めた。
本作は直木賞を受賞した。
[寸評]
冷酷な殺人鬼と疑われる少年と、疑念を持ちながらも少年の無実を晴らそうと奔走する女医が主人公のクライムサスペンス。
話は直線的にテンポよく進んでいくので読み通して面白かったという人もいるだろうが、随所にすんなり納得できないというか、現実味がないと思う箇所が散見される。
揺れ動く女医の心情もよく描けているとは言えず、勝手に美少年に入れ揚げていくような不自然さが感じられた。
ラストも“衝撃の結末”と言いたいところだが、予想はついてしまった。
[導入部]
子どもの頃から好きだったのは、いわゆる「名人」と呼ばれていた正統派の落語家で、お気に入りは十代目金原亭馬生。
大学一年の夏、ホール落語の会で馬生の芸人としての気迫を感じ、この人の弟子になろうと決心した。
しかしその十日後、馬生が亡くなった。
馬生の葬式に行った帰り、こんな日だからと池袋演芸場へ向かうとトリが立川談志という看板。
私は談志が嫌いだった。
談志は高座に上がり落語をやらずに馬生の思い出を語った。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
昭和十五年十一月、浅田健吾はサイパン島に向かう貨客船の甲板に立ち、海を見ていた。
浅田は一高、東大を経て横浜の女学校で英語教師をしていたが、持病の喘息が悪化して療養のため休職。
そんなとき、拓務省に勤務している友人から南洋庁サイパン支庁への勤務を誘われる。
温暖な南洋なら喘息にも良いと考え承諾した。
但し赴任には条件がついていた。
サイパン駐在の海軍少佐の手足となって情報収集と工作を行う役目だという。
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
八月の敗者になってしまった。
本当ならば四万十川で涼しげにカヌーを漕いでいるはずだったが俺は京都にいる。
彼女にフラれたから。
彼女の実家がある高知に遊びに行く理由がなくなった。
八月の京都盆地は地獄の釜のような暑さだ。
俺は大学四回生の夏休み、本来なら就職活動に励まなくてはならない時期なのに、バイトもせずただ怠惰に日々を暮らしている。
今日は理系学部に所属する多聞が焼肉を奢ってくれることになっていた。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
小松秋穂は総合病院の救急医。
半年前に婚約者の荒巻一輝を殺害後遺体をバラバラにする殺人鬼−通称「真夜中の解体魔」に殺された。
秋穂は深い悲しみを抱えながら、ようやく先月復職した。
午前二時過ぎ、救急隊から受け入れ要請が。
患者は十代男性でバイクの自損事故、胸部を電柱に強打してショック状態だという。
重傷だがなんとか無事、命を救うことができ、患者・石田涼介は意識を戻した。
石田には二人の刑事がついていた。
[採点] ☆☆☆
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