深夜のファミレス。さっちゃんと銀時は同じテーブルを挟んで座っていた。別に約束していた訳ではない。さっちゃんは仕事までの時間潰しのために、銀時は子供たちが寝静まった頃こっそりとパフェを食べに店に入ったところで、偶然に出くわした。
普段のさっちゃんならば銀時への思いの丈をぶちまけてしまい、まともな会話にならないが今日は店の雰囲気もあってか、さすがに大人しくしている。そうしていれば、傍目にはいい雰囲気の二人に見えないことも無いのだが、さっちゃんの世間話というには少々物騒な仕事の話に銀時は眉を顰めた。
「お前さぁ、お庭番衆がなくなって、カタギに戻ろうとは思わなかったわけ?」
「思うだけなら思ったけど、やっぱりこれが一番楽だし」
「始末屋が?」
「慣れた仕事だから」
さっちゃんは平然と澄ました顔で言う。
普通に考えれば、道義的にも法律的にも責められるべき事だが、ここにそれを咎める者はいない。それでも、注文の品がテーブルに置かれ店員が去るまでの間、微妙な沈黙が生まれる。
「でもよ、お庭番衆と始末屋じゃあ微妙に違わなくねェ?」
「仕事自体はあの頃とそう変わらないわ。特に私は幕府関係者からの依頼が多いし」
「ふうん。そんなもんなのかねェ、組織ってやつは」
アイスを口に運ぶ銀時。その表情には口に出さずとも含むものがある。さっちゃんは少し困ったような表情を浮かべる。
「……銀さんは侍だから、今の幕府に思う所があるのかもしれないけれど、あそこは基本的に変わらないわ。開国前は清く正しかったかといえば、決してそんなことはないし、だからって今の幕府が全て腐っているわけでもない」
「お前は腐ってないって?」
「まさか。そんな事あるわけないわ、人殺しだもの」
さっちゃんはくすりと笑う。手にしたカップの中身はブラックコーヒー。
映る表情がすっと引き締まる。
「――それでも、この世には私を必要とするほどのゲスが多過ぎる」
今から始末しに行くのも、その内の一人。
恐らくは新聞の片隅にひっそりと訃報が載るだけで、見向きもされない。けれど、その人物が世の中から消えることで救われる人間は確かにいる。
ピピッと小さな電子音。
「そろそろ行かなきゃ」
「あー」
「何?銀さん」
「お仕事頑張ってつーのもアレなんだけど、うん、まあ、気ィつけてな」
「銀さん」
「ホラ、遅れっぞ」
銀時が頭を掻くのはいつもの癖。その合わそうとしない視線にさっちゃんは喜びを覚える。
「……だから、銀さんのこと好きなのよ」
さっちゃんはにっこり笑うと、伝票を持ってレジへと向かった。
甘ったるいのは性に合わない(銀さん除く)
2007.06.21