ここ最近は天人の影響か、カウントダウンパーティーなどをする所が増えているらしい。賑やかなのは俺も嫌いではないが、それでも矢張り大晦日の夜というのは一種独特で、騒がしさと共に不思議と厳かな雰囲気が漂う。初詣客から外れたこの道は、皆行く年来る年でも視ているのか、すれ違う人は少ない。冷たく吹く風に俺は思わず肩を竦めた。寒々しい小路に二つの足音が響く。
「沖田さん、早いですって」
「さっさと帰ろうぜ、山崎。早くしねーと酒がなくならァ」
「さすがにアレだけの量を飲み切らんでしょう。それより俺は温かい蕎麦が食べたいですよ。もう寒くって寒くって」
今頃屯所ではハメを外しまくって、みんな飲んだくれているはずだ。毎年恒例の事とはいえ、万が一のことがあったらどうするのだろう。
「あーあ、ツイてねェ。これだから、下っ端は辛いよなァ」
「沖田さんはサボり過ぎのせいでしょう?それは俺のセリフです」
「よく言うぜィ、鬼の副長の懐刀が」
瞬間、俺は声が出せなかった。
俺自身は兎も角、監察方が沖田さんの言ったように捉えられることは、間々あることだ。組織の編成上、そう思われるのは仕方が無い。これが他の人に言われたのならば、笑って流せただろう。けれど、俺と沖田さんの間には転海屋の件がある。
あの時、転海屋を探っていたのは、副長から指示を受けた俺だけだったという事実。あの件は仕事だったのだし、彼女の死とは直接関係はない。冷たい様だが、それは彼女の寿命だったのだ。
――だが、もし俺が、ただ一人知っていた俺が僅かでも何か出来ていたら、沖田さんとミツバ殿、そして副長にとって、もう少し良い結末を迎えさせてあげられたのではないか、とも思う。彼女の死は変わらなかっただろう。それに、武州の頃を知らない俺が何か出来たらなどと言うのは、おこがましい事なのかもしれない。けれど、大切な人たちの悲しい顔など誰が見たいものか。
沖田さんの言葉が皮肉に聞こえたのは、その後ろめたさゆえなのだろう。
そういえば、除夜の鐘がいつのまにか聞こえなくなっている。時計を確認したら、既に年が変わっていた。とはいえ、沖田さんは喪中だから新年の挨拶という訳にはいかない。俺が十二時を過ぎた事だけ伝えると、沖田さんはぴたりと足を止めた。
「山崎ィ、新年明けましておめでとう」
「え」
「明けましておめでとう」
「お、沖田さん」
うろたえる俺に沖田さんはニヤリと笑う。
「明けましておめでとうってんだろィ」
「……明けましておめでとうございます」
「ん」
「あの」
「心配かけたな。けど、俺ァ大丈夫だから」
さらりと言われたその言葉に込められた意味を思い知って、俺はただ立ちすくむ。
その顔は強がりでもなんでもなく、真っ直ぐな力強さに満ちていて、俺は不覚にも涙が止まらなかった。
どうか、この一年が沖田さんや俺にとって、そして誰にとっても幸せなものとなりますように。
少しでも優しい結末を。
2006.12.31